ありがとうは悲しい

パ・ラー・アブラハティ

君を思い出す度に僕はありがとうと寂しいを。

 君は僕が起きる前に朝食を作ってくれていた。卵焼きにウインナーに白米。湯気が上がる白米とウインナーの塩味がいい感じに口の中で解けて、卵焼きの甘さがそれを中和してくれて。いつも僕の前には一緒に朝食を食べてくれる君がいて。


 君はいつも疲れた僕を癒してくれた。お帰りと、子犬のような愛くるしい笑顔を振りまいて玄関先まで迎えに来てくれて。そして、ぎゅっと優しく包み込んでくれた。君が一度抱きしめてくれるだけで、僕の疲れていた体は明日も頑張れる魔法にかかる。


 君はいつも家事をしてくれた。僕は家事が苦手で、ちょっと目を離せばゴミ屋敷に家を変化されるのが得意なぐらいに。洗濯物も溜めてしまうし、食器も洗えない。そんな情けない僕なのに、君は「良いんだよ」と笑って家事をしてくれた。


 なのに、僕は。僕は君にありがとうを数回しか言えていない。君が与えてくれた物はとても大きくて、この両の手じゃ抱えきれないほどに。鮮明に思い出せる記憶は、一年前でも二年前でも昨日のようで。今日も家に帰れば、君が疲れた僕を笑顔で迎えてくれるような気がして。


 でも、それはもう有り得ない話で。有り得てほしい話であっても、誰に願っても君は僕の前にはやってきてくれない。朝食も一人で作って、玄関先も一人で、家事も一人で。そう、君がいなくなってしまったからゴミ屋敷になりそうだよ。


 君にいっぱい貰った愛と、思い出に僕は愛おしさを覚えて。もう遅いかもしれないけど、君にありがとうを沢山言おう。君を思い出しながら。


 あぁ、ありがとうって本当は嬉しい言葉なのに悲しいや。心が爪で抓られたようにぎゅうと苦しくなる。でも、僕は悲しくても君に言うよ。ありがとうと。

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ありがとうは悲しい パ・ラー・アブラハティ @ra-yu482

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