盗んだ天の火に例えるとは、なんと荒々しく力強い。。。
世の中、願う通りにはならない。奇跡が起こるわけでもない。
それでも、覚えている人がいる、忘れられない人がいるというのは、
切なくも美しいものですね。
素敵な物語でした。
作者からの返信
ありがとうございます。まさにコメントいただいたような、記憶の切なさについて表現しようとしたお話でした。
史実としての橋本曇斎が書いたのは「天の火を取る」という表現ですが、本作では架空の主人公が、「なんとなく悪いことみたいなので、取るを盗ると書き換えた」ということにしました。その時点では、まだ鎖国しているので、主人公はプロメテウスの神話のことは知らなかった、という設定です。
その後、明治になってから神話を知った主人公は、予期と想起について考えてから眠りに就く(第三節の過去シーンは現実なのか妄想なのか不明)という構造にしています。最後の一文だけは、三人称で視点不明なので、現代の大阪とも取れるようにしました。
予期と想起について書いた箇所で筆者の念頭にあったのは、フッサールの『内的時間意識の現象学』における「把持」の概念です。意識というものは、何かを思い出し、何かを予感することで持続しているものです。
そんな形で、人はみな世の中の流れに翻弄されながらも意識を持続させていて、このお話の主人公には忘れられない人がいる。その切なくて曖昧な何かを「心」と呼ぶのではないか、というようなことを言いたかったです。
雨にプロメテウス、それに江戸。
なかなか、面白い組み合わせです。
そしてエレキテル。
その上で、「男と女」を思わせる、痺れ。
読んでいるこちらも痺れました。
二人の仲は、ホント、稲妻のように光り、そして見えなくなってしまったのでしょうか……。
漢詩、うつくしかったです。
面白かったです。
ではではノシ
作者からの返信
連続で読んでいただきありがとうございます! こちらも犀川よう様の自主企画賞の参加作で、お題は雨でした。(でも、今思うと、雨というより雷について書いていたかもしれません。)
漢詩は、色々な詩を検索してくっつけたツギハギですので、詳しい人が見ると微妙な箇所があるかもしれません。最後の行は夏目漱石の「何の日か吾が門に入らん」という句からです。
その漱石の漢詩は、死んでしまった犬がもう自分の家の門をくぐることはない、という「何の日か」の反語が強い詩なのですが、本作の漢詩は、生きている間に相手に手渡されているので、まだ曖昧な可能性が残っていると思います。
編集済
何でも詳らかにすればええもんでもないわ
時代の波の狭間に咲いた、人知れぬ野の花で良い
彼女の想いは、そういうことでもあったのかなと拙い読み手ながらも察します
江戸の世のお話にプロメテウス
これがなんとも粋を感じさせてくれました✨
五郎丸との秘め事を、雨の中の会瀬に紛れさせ
自身の定めは甘んじて受け入れる……
当時の女性のいきることへの覚悟と譲れない想いが垣間見えて、胸を掴みました。
そのまま落雷受けたら死んじゃいますよ?💦
……と思っていたらちゃんと木箱の上に立ってアースを避けてる描写に思わず笑みがこぼれてしまいました✨
おっしゃる通り、世界初の偉業や発見は、不思議なことに同時多発的に各地でみられることが多いんですよね。
機は熟した、世界がそう云っているようでもあり、なんとも不思議な気持ちです。
文明開化の足音のする時代の息吹と……
今も変わらぬ人間の生きざま
世界のうねり……
渾然一体となった
素晴らしい、そして凄まじい、物語でした✨
作者からの返信
素晴らしいコメントとレビューを有難うございます。
タイトルの江戸時代+ギリシャ神話の組み合わせは、初見の方に興味を持って頂くことを狙ったところがあります。語学に堪能な主人公であれば、明治初期には神話を知っていても不思議ではないと想定しています。
作中、実験の科学的側面は少し曖昧に記述してしまいました。史実としての橋本曇斎の実験でも木箱の上に立って針金を使っているのですが、本作では「溜まり方を解いた」とまで言っていて、いったいどこまで理解してどんな実験を設計していたのか、その記録は歴史の流れの中に消えてしまったということで、ご容赦ください。
仰る通り、文明の変換点では同時多発的な発明が起こります。本作の五郎丸の実験がオームより早かったという記述も、知られざる最初の発見者キャヴェンディッシュよりは遅いという所がポイントのつもりです。キャヴェンディッシュの実験もまた、生前に出版されることはありませんでしたので。
主人公・まきの想いについては、コメントでもなるべく言及は控えたいと思います。彼女が変わっていく時代をどのように見ていたのか、読んだ方に想像を巡らせて頂ければ、筆者としては幸せです。
とにかく、深く読んで頂きありがとうございました!
初めまして。御作、大変興味深く読ませて頂きました。
時代の最先端を走っていたはずの二人のそれぞれの人生が、幕末から明治維新・近代国家にいたる価値観の急激な変遷と重ね合って感じられて、儚さ・切なさがつのります。語学・数学を極めた彼らでも、因習にとらわれ忠に殉じる。時代の転換点、人の変革というものはままならないものだな、とため息が出ました。
素晴らしい作品、ありがとうございました。
作者からの返信
ありがとうございます。歴史の描写で伝えたかった点を、的を得た言葉でご評価いただき、幸せです。
今回、雨というテーマを与えられ、それを物語の中心に据えるにはどうすればよいかを考え、江戸後期の雷の観察にフォーカスすることにしました。ちょうど街に電灯が点くころまで生きている世代を主人公にすることで、時代の流れを織り込むことを狙ったものです。
御作も拝見いたしました。雨から狐の嫁入りという発想。その手がありましたね。この企画、色々なアイデアが集まっていて勉強になります。
まきと五郎丸を繋いだ電気の絆、大阪ことばで綴られる会話劇の底を流れる感情、読みながら心を打たれました。
「誰にも知られんで世界一のことをやっとる輩やからなんて、なんぼでもおるわ」というまきの言葉が好きです。
確かにそうかも知れませんね。
世界に知られなくたって、世界一だということは自分たちが知っていればいいのかも。
B3QPさん、ありがとうございました。
作者からの返信
悩みを込めた台詞を拾って頂きありがとうございます。この箇所だけは、WEB小説のある種の「競い合い」から距離を置くような含意があったかもしれません。
この作品のテーマの一つは、文系と理系のすれ違いのようなものでした。学問の世界では、発表される論文は一つ残らずその分野の世界一で、偽装論文や誤りの訂正も含めて、その積み重ねで文明が発展していると信じます。
まきは、曖昧さを大切にするキャラクターです。国粋主義的な孫娘の発言に反発したのか、ここでは語気を強めている気もします。この箇所、初稿では「みんな世界一でええやないか」という言葉が続いていましたが、公開時それを削りました。彼女が、優劣のつく世界を受け入れたようにも、批判しているようにも取れるように、少し余地を残したかったです。
筆者自身、主に別サイトで活動していますが、「みんな世界一でいい」と思った時も、そうではない時もありました。その逡巡の過程で生まれた言葉が、誰かに届いたのなら幸甚です。
編集済
ギリシア神話におけるプロメテウスは火を盗んで人に与えることで、大神ゼウスから罰せられる話だったと記憶しております。
ということは、この作品では自然の現象である電気を「盗った」曇斎先生と五郎丸さんにもやはり「罰」が下ったと考えるべきなのでしょうか。
もしそうなら、プロメテウスとは違って幕府という地上の権力機構による処罰という形にはなるのでしょうか。
ただ、時代の徒花に終わっても曇斎先生と五郎丸さんの人生、そして、五郎丸さんとまきさんの恋心(?)は真実として残り続けていくのでしょう。
プロメテウスが寒さに苦しむ人間を憐んで火を盗んだように、曇斎先生と五郎丸さんは幕末の不安定な情勢下で人々に明かりを灯そうとした。
そして、まきさんの心には今も二人で立ち会った実験の思い出が残り続けている。
その時は明るくならなかったけれど、本当は今すぐにでも雷が落ちてほしかった。
……なんて見方はどうでしょうか? もし違っていたら申し訳ありません。
良い作品でした。読ませていただきありがとうございました。
作者からの返信
コメントとレビューありがとうございます! 神話内のプロメテウスの罰についてフォーカスした見方は面白いですね。筆者の念頭にはありませんでしたが、自由に解釈して頂くのが良いと思います。
8/31追記
レビュー文言、修正頂いたようで、大変お手数をおかけしました。変なことを言ってしまい申し訳ありませんでした。ありがとうございます。