第三話 非日常の始まり②

翌日から、零は舞との本格的な修行を始めることになった。初日は基礎体力作りとアウラの基礎知識の講義だったが、零にとっては全てが新鮮で興味深いものだった。


朝の冷たい空気が森の中に漂う中、零は舞の指示でランニングを開始した。足元には枯れ葉が散らばり、踏むたびにカサカサと音を立てる。森の中を走り抜けると、自然の香りが鼻をくすぐり、心地よい風が頬を撫でる。零は呼吸を整えながら、全力で駆け抜けた。


「良いわね、その調子。まずは基礎体力をつけることが大切よ」


舞の声が背後から聞こえ、零は一層の力を込めて走り続けた。20kmのランニングを終えた後は、体幹トレーニングや柔軟運動が続いた。今までの日常で運動不足にならぬよう適度な筋トレと10kmのランニングなどは行っていたが、そんな日々を送っていた零にとっても舞の修行は中々ハードなものだった。


「初日からこんなに走らされるとは思わなかった。これが毎日続くのか?」


零は息を切らしながら尋ねた。舞は軽く笑いながら答えた。


「ええ、まだまだ序の口よ。でも、すぐに慣れると思うわ」


午後になると、舞はアウラの基礎知識について話し始めた。彼女の説明は詳細でわかりやすく、零は真剣に耳を傾けた。


「アウラとは、かつて神々が作り出した力なの。神々はこの力を使って世界を創造し、守ってきたと言われているわ。そして、その神たちは一部の人間にその力を受け渡したの」


零は舞の話を聞いて疑問に思ったことを口にした。


「ということはアウラが使えるのはその力を受け取った人たちの末裔ってことになるのか?」


すると舞は軽く首を振り口を開いた。


「それがそういうわけでも無いのよ。確かにその人間達の血を引いていて、生まれた時からアウラを使える者もいるわ。でもそれはごく僅かの人だけ」


「じゃあ、どうやってアウラを発現させるんだ?」


「一定量のアウラを外部から体の内側に摂取することによってアウラが目覚めるの。でも、それも誰しもが成功するわけでは無いわ」


零は舞の説明に深く頷いた。


「なるほど、俺は山下のアウラを浴びたことによって発現したってことか」


「そういうことになるわね」


「アウラは簡単に言うと、人間が持つオーラ、エネルギーのようなものよ」


舞はそう言いながら、右の手の平にアウラを集中させ、光の球を作り出した。


「それを外部にエネルギーの集合体として放出したり、アウラの流れを感じて、相手の動きを予測したりすることもできる」


零は山下との戦いの記憶を脳裏に浮かべた。


「あの時、貴方がアウラを使えたのは感情の昂ぶりや命の危機による一時的なもの。貴方の中のアウラが目覚めたことは間違いないと思うけど、今、あの時の力を出すことはできないんじゃ無いかしら?」


舞にそう言われると零は舞がやったのと同じように手の平にアウラを造り出そうとしたが、どんなにイメージをしても、力を入れても何も起きなかった。零は悔しそうに呟いた。


「うう、何も起きない」


「まあ、そういうものだから出来なくて当然よ。それにその為に私が修行をつけるの」


そう言うと舞は零の背中に手を当てアウラを流し始めた。


「今日から毎日ダメージの無い程度に一定量のアウラを貴方に流し込む。それにプラスで毎日のトレーニングを続けてもらうわ。そうすれば時期にアウラが使えるようになるから」


零は舞の手の平から温かいエネルギーが体に流れ込んで来るのを全身で感じた。


「大切なのは力を理解すること、そしてイメージすることよ」


こうして零は舞が用意した修行を一週間淡々とこなした。


一週間が経過し、零は手のひらに全神経を集中させ、アウラの流れを体で感じながら光の球体をイメージした。そうすると、零の右手からアウラが放出された。


「できた!!」


「うん、一週間で出来るのは流石ね!上出来よ!!」


舞は微笑ましい表情で感心した。


「さて、次の段階ね!貴方はこの前の戦いで無意識にやっていたのでしょうけど、放出したアウラを相手に放つことも出来れば、集中して相手のアウラの流れを感じることも出来る。それによって攻撃を交わすことも可能よ。そしてアウラを手に纏わせればただの拳も大きな武器となるわ」


そういうと舞は右手に拳を作りアウラを纏わせ、目の前にある大きな岩を打撃した。そうすると岩は粉々に砕け散った。


「すげぇ…」


零は心の底からアウラの凄さに感動した。


「今日からは修行も一段階グレードアップね」


そういうと舞は零に修行のメニューを説明した。


まず一つ目、周りに溢れかえる木の一本一本に的を作り、それに向かってアウラを放出する修行。一見アウラさえ放つことが出来れば簡単な修行に見えたが思っている以上にコントロールが難しく、的に当たること無かった。


そして、二つ目は舞が撃ち続けるアウラをひたすら避ける修行。神経を研ぎ澄ませば相手のアウラの流れを感じることが出来るらしいのだが、これまたそんなもの一切感じることが出来なかった。そして零はひたすら舞が撃つアウラに撃たれ続けた。


最後に三つ目、拳にアウラを纏わせて岩を破壊する修行、零はアウラを纏わせるのが得意なのか他の二つとは違い、特に不自由することなく岩を破壊することが出来た。


今までの基礎的なトレーニングに加え、このアウラを使っての修行を毎日、我武者羅に行った。


そして三ヶ月後


零は朝、目を覚ますとまずは洗顔と歯磨きをする。

そして、森林内を30kmのランニング、それを終えると川で釣った魚の塩焼きで朝食を取った。朝食後は片手腕立て伏せを左右で格100回、200Kg程の大きな岩を持ちながらのスクワットを50回、腹筋と背筋を1000回、これらの筋トレメニュー3セット行った。

その後にプランクを含む体幹トレーニングと柔軟トレーニングを終え、昼食を迎える。

昼食は、森林内で採れる果物と狩りをした動物の肉を食べた。


昼食後の午後はアウラを使ったトレーニング。


零は正面にある木々に向かい右手を翳し手慣れた手つきでアウラを放っていった。零から解き放たられたアウラはそれぞれの的の中心を的確に撃ち抜いた。


次に舞が放つアウラを避ける修行、舞が何処にどのように撃つかを全て読み切り零は目を瞑りながらかわしてみせた。


そして、自分の6倍程の高さの大きな岩を右手にアウラを纏わせいとも簡単に破壊してみせた。


舞は余裕そうに修行をこなす零を見て大きく頷いた。


「うん、これで基本的なアウラの使い方は大丈夫そうね。アウラの総量や感じ取る力は修行することでまだまだ伸ばすことが出来るから引き続き精進しなさい」


「ああ!」


「では、次の段階に移行よ。アウラはね人によって様々な特性に変化し、人それぞれに異なる能力が発現するの。それを霊閃(れいせん)と呼ぶ」

「私の場合はこれよ」


舞の右手にアウラが集まっていくのを感じた。そしてアウラが徐々に冷気を発していく。次の瞬間舞の右手に氷がつくられた。


「これが私の霊閃、氷の能力」

「この三ヶ月でだいぶアウラの使い方に慣れたはずだから貴方にも出来るはずよ」


「って言ってもどうやってやるんだよ?」


「そうね、自分自身とアウラを一体化させるイメージを持つの、そしてそのままアウラは外部に放出させてみなさい」


零は舞に言われるままに集中力を高め体内に潜むアウラを体全体に染み込ませるように流し込んだ。そうすると自分の中でアウラの性質が変わるような感覚を感じた。そしてそれを外へと流し込む。次の瞬間、零の体から雷が発せられた。


「雷?これが俺の霊閃なのか」


それを見た舞は自分の目を疑った。何故なら一度見た零の能力とは違ったものだったからだ。


「青い炎じゃない…」


舞は言葉を詰まらせ、考えを巡らせた。

(通常、人が持ちうるアウラの力は一つだけ、なのにこの子は二つの能力を発現させた?これじゃあまるで飛鳥と同じ……)


舞はニヤっと笑った。


「零、どうやら貴方は思ってる以上に特別な力があるようね」


零はそんな舞の言葉に疑問を浮かべた。


「特別?どういうことだ?」


「今はまだわからなくていいわ。さあ霊閃も出来たことだし修行の続きをしましょう」


そして、あっという間に零と舞が修行を開始してから三年の月日が流れた。

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FOGET DAILY LIFE 紫彩翔 @wani8

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