第4話 熊とか女の子とか…うさぎとか

 瑞城ずいじょうの子の傘は白地に赤と青とピンクと水色の水玉の柄の傘だった。

 あいが持っている透明なビニール傘なんかよりずっとおしゃれだ。

 大きい傘だった。瑞城の子は最初の印象よりきゃしゃで、一人ならばこの傘で十分だろう。

 でも、さすがに二人の体は入りきらない。

 愛の通学鞄が濡れるのはかまわない。

 いや、ほんとうは気になるのだけれど、傘に入れてもらっている立場だからしかたがない。

 でも、瑞城の子は、愛に傘を差し出しているぶん、左の肩から、そちらに掛けた通学鞄までぜんぶ雨にさらされている。

 「いいの?」

 愛がきくと

「何が?」

と屈託なく相手の子は返事した。

 「だって、鞄、雨に濡れてるけど?」

 「ああほら、だから、外側に持つからでしょ? こっちに持っていいよ」

 相手の子は愛の鞄のことを言っているらしい。慌てて

「わたしのじゃなくてさ」

と言う。

 「ああ、わたしの鞄?」

 瑞城の子はまた笑った。

 「たいしたもの入ってないから。あんたの鞄こそ、ウン万円もする電子辞書とか入ってるんでしょ?」

 「あ、まあ……」

 そのとおりだ。

 「でも、電子辞書はケースに入ってるからだいじょうぶだと思うんだけど」

 正直に言えば、それでもちょっと不安なのだけれど。

 「それよりさ」

 相手が言う前に、愛のほうから言う。

 「あんたの鞄、熊とか女の子とかつけてるけど、濡れてだいじょうぶなの?」

 「はぁ?」

 相手の子はぱたっと足を止め、眉を寄せ口をあんぐり開けて、あきれ顔になった。

 何かあきれられるようなことを言った?

 相手の子は、傘を少し高く上げて、自分の左に肩から提げていた鞄をぐいっと体の前に回す。

 鞄を左腕で支えながら、その鞄の紐から下げてあるマスコットの一つをとんとんとたたいて見せた。

 白かったのだろうが、だいぶ薄汚れている。それなら濡れてもかまわないと言うのだろうか。

 「いい? これ、

 相手の子は強く言った。

 「耳がこう長いでしょ? なんで熊なわけよ?」

 それが言いたかったのか。

 それから白々しく目を逸らして、つけ加える。

 「まあ、顔が平べったいのはあんまりうさぎっぽくないけど」

 「ああ、ごめん」

 愛は謝った。

 「あんまりよく見てなかったから、つい」

 相手の子は、かばんをもとに戻し、さっきからよくやっているように、くすすっと声を立てて笑った。

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