第5話聡の提案

僕の父さんは県議会議員の仕事でいつも家にいない。

母さんも父さんの事務所の用事で、忙しいし、たまに家にいても事務所関係のお客さんの接待ばかり。

以前は両親は自分の事なんか気にもしてないんだと思ってた。

でも覚が両親の心を読んでくれたお陰で、自分の事を愛してくれてるのが解ったんだ。

聡は覚が自分の相棒になってくれてから、毎日、本当に楽しいと感じていた。

ー他の人にもこの幸せを分けてあげたいな。ー

そんな時に研磨が謎クラブで人助けをするこを提案したんだ。

ーこれは良いぞ、僕達にも誰かを喜ばせることができるかも。ー

聡はワクワクした。

「三軒隣のお婆さん、またふらっとでて行っちゃって、何処に行ったか分からないんですって。」

お手伝いさんの佳代さんが聡に耳打ちした。

佳代さんは、大の噂好き。

近所のゴシップだって佳代さんはいつでも最前線でつかんでる。

「あのお婆さんボケ始めちゃて、今朝、理由のかわからない事を言ってでてったらしいよ。」

「出ていく時に何か言っていたの?。」

「そう、しろばんばに会いに行くって、外で遊んでた小学生に言ったんですって。」

「しろばんばって山姥の親戚とか?。」

「いいえ、雪虫とか綿虫って呼ばれる虫が地方によってしろばんばって呼ぶらしいですよ。」

「雪虫って雪が降る少し前に飛ぶからそういう名前が付いたんでしょ。まだ10月だよ。雪が降るには少し早いんじゃない?。」

「北海道なら10月末から雪が降る場所があるかも。」

「お婆さん、一人で北海道まで行ったの?。そんなにたくさんのお金を持って出たのかな?」

「さあ?。どうでしょう。」

「僕ら謎クラブのみんなでお婆さんを探す手伝いができるかも。お婆さんの家の人に話を聞けるかな。」

佳代さんは、三軒隣の奥さんを呼んできて聡に合わせた。

「お婆さんはしろばんばに会いに行くって出て行ったそうですね。」

「ええ、私はニ階で洗濯物を干していたんで、義母が外に出ていくのに気づかなかったんだけど、前の家の子どもがちょうど外のいて、義母に何処に行くんですかって聞いたらそう言ったらしいの。」

「しろばんばという言葉に何か聞き覚えがありますか?。」

「いいえ、理由のわからない事を言ってると心配になったわ。」

「そうですか。お婆さんは北海道に行ったことがありますか?。」

「さあ、あまり遠くに旅行とかに行く方じゃあないと思うけど。」

「旦那さんか旦那さんの兄弟にも話が聞きたいんですが。」

「主人は一人っこなのよ。ちょっと待って、今、主人に電話してみるから。」

「三軒隣の聡です。しろばんばについてなにかご存知ですか?。そうですか。わかりました。失礼します。」

ご主人との電話を切ると、聡は奥さんに尋ねた。

「お婆さんは出かける前に何をしてました。」

「私と一緒にテレビを観てたわ。お笑い芸人が伊豆を1周する番組だったわ。」

それを聞いて、聡はスマホで何か調べていた。

「お婆さんの写真を僕のスマホに送って下さい。」

写真を受信すると、また何処かに電話をかけた。

「ああ、父さん。ちょっといい?。三軒隣のお婆さん、今朝一人で黙って出かけて行ったんだけど、どうも湯ヶ島に行ったらしいんだ。お婆さんの写真を送りました。派出所のお巡りさんに見廻りに行くように手配してくれませんか?。特に、天城神社と、井上靖の実家の上の家と、旧湯ヶ島小学校を重点的に。」

結局、お婆さんは上の家で見つかった。

「息子さんが教えてくれた。お婆さんと旦那さんが若い頃しろばんばの映画を一緒に何度も観たそうだよ。二人は主人公と似たような生いたちだったし、一緒に湯ヶ島にもよく出かけたらしい。伊豆のテレビを観て、亡くなった旦那さんの事を思い出したらしい。」

聡は佳代に説明した。

「じゃあ、ボケて変なことを言ってた理由でもないのね。」

ー今回は僕一人で解決できたけど、覚や謎クラブのみんなで人の役に立ちたいな。ー

聡がそう思っていると、母さんから電話が入った。

「大変、聡。事務所のアルバイトの子が、封筒に入ったお金を間違ってゴミに捨てて、そのゴミをゴミ収集車が持って行っちゃったの。どうしましょう。」

聡は謎クラブのみんなに緊急集合をかけた。

「そのお金が入った封筒は誰が持ってきたの」

研磨が尋ねると、

「今朝ATMで出して、背広のポケットに入れてあったのを、事務所に付いてからここの机の上に置いたんだ。」

研磨とケルは父さんの背広の匂いを追った。

でも、父さんの机の周りをケルがグルグル回っているだけだった。

北斗とハルは空からゴミ収集車を探した。

聡と覚と学と玄武は事務所のみんなに話を聞いた。

クリスは事務所でカードを出して管狐が1枚選ぶと塔のカードが逆さにでた。

「誤った告発?。」

みんなに話を聞いた聡と学がクリスと合流した。

「アルバイトのお兄さんはもしかしたら自分がお金が入った封筒を間違ってゴミに捨ててしまったかもしれない心配している。お金が入った封筒を置いた机の横でゴミ出しの作業をしていたらしい。今日、倉庫の片付けを僕の母さんがして、ゴミが沢山でたから、お兄さんが袋に入れてゴミに出したんだ。そのあと封筒がなくなったのに父さんが気付いたそうだよ。」

北斗とハルが戻ってきた。

「ゴミ収集車のゴミを調べたけど、お金が入った封筒は見つからなかったよ。」

「じゃあ封筒はまだ事務所の何処かにあるかもしれないね。」

聡が続けた。

「他に誰か事務所に入った人はいない?。」

「宅急便の配達が来たけど、事務所の中には入らなかったわ。」

母さんが答えた。

「床がピカピカだね、掃除の人が入ったんじゃあない?。」

学が聞いた。

「そういえば、そうね。でも長年このビルの掃除をしてる女性でお金を盗む様な人じゃあないわよ。」

「もちろん盗んだりしていないでしょう。」

他の階を掃除していた女性に聡が尋ねた。

「茶封筒に入った書類を何処に置いたかわからないんだけど、掃除中に何処かで見かけませんでした?。」

「ええ、床に落ちてたから、貴方のお母さんの机の上に置いておいたわよ。」

聡が、事務所に戻って母さんの机の上を探すと、宅急便の下の作業中の書類の下から封筒が見つかった。

「ごめんね。私、自分の机の上も探したのにどうして見つけられなかったのかしら?。」

「慌てて探していると、目の前にあってもわからない事がよくありますよ。」

と、学が慰めた。

「それにしても、掃除のおばさん、やせ細って、顔色も悪いけど、病気なの?。」

「それが原因不明なの。あちこちの病院で視てもらっても悪いところがわからないそうよ。」

聡と学は目を見つめ合って、学が頷いてみせた。

こっそりと学は玄武と掃除のおばさんの所に行った。

「こんにちは、僕、聡の友達なんだけど、聡がおばさんの体調が悪そうだって心配してたよ。」

「まあ、優しい坊っちゃんね聡くんも貴方も。病院に行っても何処が悪いかわからないのよ。」

「僕もこの前までそうだったよ。でも、玄武が治してくれたんだ。おばさん、手を出して。」

学は玄武をおばさんの手の上に乗せ、玄武が尻尾でおばさんの手を撫でた。

すると、おばさんの顔色みるみる良くなった。

「どうしたのかしら?。身体中の痛みが消えて、何だかお腹がすいてきたわ。いつも食欲がなくって何も食べたくないのに。」

驚いているおばさんにさよならをして、学はみんなに合流した。

「今回はみんな、大活躍だったね。母さんがみんなで美味しい物を食べてってお小遣いをくれたから、ピザを食べに行こう。」

聡の言葉に皆は大賛成。

謎クラブのみんなと相棒達はピザを満喫した。

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