第2話研磨の提案

ー困っている人はいないかな。ー

研磨は目をぱっちりと開いてキョロキョロしながらいつもよりも遠回りして家に帰った。

「僕、どうしたの?。なにか落としもの?。私も一緒に探してあげようか?。」

優しそうなお婆さんが、声をかけてくれた。

「ありがとう。でも、落とし物をしたんじゃあないんだ。ちょっと考え事をしてたの。」

慌てて、お婆さんの親切な言葉にお礼を言った。

ー参ったな、人助けをしようとしてるのに、助けられそうになっちゃった。ー

研磨は頭を掻きながら、今度はあんまりキョロキョロしないように、ゆっくりと歩き出した。

日差しがきつくて汗だらけになった研磨は、傍にあった小さな公園のベンチで一休みしてカバンから水筒を出して水を飲んだ。

ー今年はなんでこんなに暑いんだろう。そういえば今日は40℃になるっていってたな。そうだ、雪女に頼んで、雪を降らせてもらったらどうだろう。皆、涼しくなって喜ぶぞ。でもな、他の妖怪に活躍されるより、うちのケルの活躍を見たいな。だってケルはカッコいいんだもん。ー

研磨は自分の相棒のケルこと地獄の番犬ケルベロスの事を考えた。

ケルは普段は犬の姿をしてる。

ーケルはいじめっ子を撃退して、泥棒も捕まえてくれたんだ。ー

ーケルは強いから悪い奴をやっつけられるよな。そうだ、昨日のニュースで今年はクマが村まで降りてきて人を襲うことがよくあったって言ってたぞ。ケルだったらクマなんか簡単にやっつけられる。今度の謎クラブで、ケルがクマをやってける事を提案しよう。ー

研磨は自分の思い付きに満足して上機嫌で家に帰った。

「ただいま、ケル。カバンを置いてくるから、散歩に行こう。」

研磨はケルに

「最近、クマが人を襲ってみんなが困ってるから、ケルが悪いクマをやっつければいいね。ケルは強いからクマなんか簡単にやっつけちゃうよね。」

と話した。

ケルは

「グルル。」

と、返事してくれた。


「僕、考えたんだけど、人を襲う悪いクマをケルにやっつけてもらえばいいんじゃないかな。ニュースで今年はクマが村まで降りてきて人を襲うことがよくあるって言ってたからね。」

研磨は謎クラブで提案してみた。

「研磨、クマが人を襲うのは、ほとんど北海道か東北だよ。ここは静岡だ。どうやって行くんだい?。」

「天狐に空間移動してもらえばいいじゃないか。」

「どのクマがいつ人を襲うのかどうやって解るんだい?。」

「そうか、そうだね。残念だけど無理かな。せっかく、ケルのカッコいい所が見れると思ったのに。」

「もう少し身近な人の日常で困っている事を探した方がいいと思うな。」

「身近な人?。そういえば、隣の岬姉さんがお婆ちゃんの形見のピアスの片方を落としちゃったって、しょんぼりしてたな。」

「そうそう、そういうのがいいんだよ。僕らの相棒の能力で探し物が出来るんじゃあないかな。岬姉さんが謎クラブのみんなと会えるようにできるかな?。 」


次の日、謎クラブのみんなと相棒たちは研磨の家に集まって、そこに岬姉さんにも来てもらった。

「三日前のお祭に、お婆ちゃんの形見のピアスをつけて言ったんだけど、帰ったら片方がなかったの。大事にしてたのに、本当に残念で、諦めきれないの。昨日もお祭りのあった神社まで行ってみたんだけど、見つからなかったの。」

「じゃあ、僕らも一緒に探すよ。みんなで探さばなんとかなるかもしれないからね。」

「研磨くん、本当に?。でも、悪いわ。」

「大丈夫。みんな岬姉さんのお手伝いがしたいんだ。」

覚は聡に岬姉さんの言葉に嘘がないことを伝えた。

(覚は普段はかわいいサルの姿をしているけど、妖怪、覚のお化けで人が考えていることが解るんだ。聡の両親を騙して大金を取ろうとした悪い奴を、覚の活躍で捕まえたんだ。)

ケルは岬姉さんの残ったピアスの匂いをしっかりかいでから、地面の匂いを追った。

クーはクリスが差し出したカードの中から一枚のカードを咥えて見せた。

(クーは小さなキツネの姿をしてるけど本当は管狐で占いが得意なんだ。蒸発してたクリスの父さんを見つけて、今は家族みんな幸せになれたのもクーのお陰なんだ。)

そのカードは逆さになった星のカードで水に流されるという意味だった。

学は都姉さんに祭りの話をいろいろと聞き出した。

皆でゆっくり歩いても、お祭りがあった神社まで着くのに三十分もかからなかった。

神社の石段を登って神社に着くと、ケルが神社の後ろに回って、

「ワン」

と、吠えた。

「岬姉さん、お祭りの時、神社の裏にこなかった?。」

「ええ、そういえば、お祭りが人で混んでいたから、神社のうしろにあるベンチに座って皆で焼きそばを食べたんだった。学君、どうして解ったの?。」

「ほら、ベンチのしたに側溝の穴がある。クリス、クーに探してくれるように頼んでくれる?。」

クーはスルスルと小さな体で側溝の穴に潜った。

しばらくしてから、水に濡れながれも、ピアスを咥えて戻ってきた。

「まあ、ありがとう。こんな場所に落としたのね。クーちゃん私のためにこんなに濡れてしまってごめんね。あなたたちが探し出してくれなかったら、私では絶対みつけられなかったわ。」

岬姉さんは大喜びで、皆にファミレスでデザートをおごってくれた。

「謎クラブの人助け作戦大成功だね!。」

研磨は口にクリームをつけながら、皆にポーズをとってみせた。

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