第三話【六月十二日(月) 相馬葵】

 兄さんは危険がないように言い含めて、一人暮らししている家に車で帰っていった。

 S.Sの情報を引き出すために、私はS.Sとフォーチューンでチャットをしている。名案とはこのことだが、S.Sには質問をはぐらかされている。


『あなたは誰ですか?』

『さあ、誰でしょう』


 S.Sとのトーク画面を開く。S.Sが相馬蒼太ではないとあっさりと認めた。

 私がS.Sの素性を聞き出そうとしても、ブロックはされなかった。私とチャットをする気はあるようだ。


『あなたは兄さんの関係者?』

『さあ』

『どこに住んでいるの?』

『地球』


 腹が立つほど、はぐらかされている。

 S.Sの返信に既読だけつけて、私は家を出た。

 駅までの道を歩いていると、顔見知りの後ろ姿を見つけた。瀬川さんだった。


「おはようございます」

 声をかける。

「ああ、葵ちゃんおはよう」

 根元が黒い中途半端な茶髪、覇気のない表情、アイロンをかけていない綿のシャツ。全てが兄さんとは正反対だ。

「これから仕事ですか?」

「うん」

 瀬川さんはフリーターで、コンビニでアルバイトをしている。他にもバイトを掛け持ちでやっていると聞いた。どこのコンビニで働いているかは知らない。

「葵ちゃんはこれから大学?」

 瀬川さんはマニュアルを読むように聞き返す。

「はい」

「それじゃあ」

 駅から伸びる階段を上る前に、瀬川さんは右の方向に進路を反れていった。あちらにはコンビニがある。彼はそこで働いているのかもしれない。

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