第22話 名作ゲームはクリアしてからさらに盛り上がるもの
今日も今日とて、俺達は『もえぎの湯』に来ていた。
完全に習慣化しているが、週一くらいであればそこまで贅沢ということもないだろう。
「それじゃあ、またあとでっス!」
「ああ」
麗と温泉前で別れ、男湯へ向かう。
さて、オーディン様はいるだろうか。
「やあ」
「どうも」
体を洗い湯船に向かうと、オーディン様の方から声をかけてきた。
以前までは遠慮していたということなので、前回の談話でそういった抵抗がなくなったのだろう。
「あれから麗にヴァルキリーを貸したんですが、すっかりハマっていましたよ」
「おお、それは良かった。女性には少し重い話かと思ったが、ビジュアルや音楽が好みだったのかな?」
「いえ、麗は重い話が好みらしくて、シナリオにもハマっていましたよ」
「ほぅ、それは素晴らしい」
ゲームファンの心理として、自分の好きなゲームの話ができる仲間が増えることはとても嬉しいことである。
オーディン様も、きっと俺と同じような心境に違いない。
「しかし、こう言っては失礼かもしれないが、女性にとってはアクション部分も難しかったと思う。その辺りは君がフォローしてあげたのかな?」
「そうですね。ただ、これは身内自慢のようになってしまいますが、麗はゲームがかなり上手いんですよ。アメンティや天空城も、最終的には俺のフォローなしでクリアしていました」
俺が挙げた二つのダンジョンは、アクションのテクニックをそれなりに要求される。
特に天空城は、操作をミスるとダンジョンの外に排出されるという、他のダンジョンにはないイライラポイントがあるため、麗も最初はギャーギャー言っていた。
しかし、俺が手伝うかと尋ねると、麗は「自分の力で攻略するっス」と拒否してきた。
こういう状況、普通の女性なら大抵「お願い~」などと言って頼ってくるイメージがあるが、麗にはゲーマーのプライドがあるのか自分の力でなんとかしようとする。
そして普通の男なら頼られたいと思うかもしれないが、ゲーマーの俺としては麗の反応を好ましく思う。
やはり、俺達の相性は良いのかもしれない。
「それは羨ましいな。私の妻はゲームに疎くてね。細かな操作も苦手で、せいぜい『桃鉄』などのボードゲーム系でしか一緒に遊べないのだよ」
「それは、中々に辛いですね……」
『モノポリー』や『桃鉄』などのボードゲーム系のゲームは、緩く遊ぶ分には盛り上がれるゲームなのだが、ガチのゲーマーが本気でやると友人や恋人の関係にヒビを入れかねない危険なゲームでもある。
それを回避するには格闘ゲームなどと同様「接待」が必要になるのだが、それをやるとガチゲーマー側が楽しめないため、バランスを取るのが物凄く難しい。
何も考えず緩く遊べた子どもの頃が懐かしく思える。
「だから私は、協力プレイなどは
「スプラとかFPSですか?」
「いや、私は古い人間なのでね。今は廃れかけているがPCのMMORPGをプレイしている」
「っ!」
今もサービスが続いているMMORPGは少ない。
新しいMMORPGもあるにはあるが、オーディン様は自分を古い人間と言っていたので恐らく違うだろう。
となると、もしかしたら、オーディン様もLOをやっているという可能性がある。
……正直、何をプレイしているのか聞いてみたい。
しかし、この手の古いMMOプレイヤーは自分がプレイしているゲームを語りたがらない傾向にある。
ここは慎重になるべきだろう。
「奇遇ですね。実は自分達も古くからのMMORPGプレイヤーでして」
「ほぅ、それは珍しいな。君達のような若い世代は、もっと新しいゲームを遊んでいると思っていたよ」
「新しいゲームも遊ぶんですがね。ただ、俺達ってかなりのマニアックなゲーマーなんで、複雑だったり難易度が高いゲームが好きなんですよ」
「成程、だからこそ今になってヴァルキリープロファイルのような古いゲームをプレイしているワケか」
「まあ、そんなところです」
俺も麗も現役ドリキャスユーザーなので、間違いなくレトロゲーマーに分類されるだろう。
そういった意味でも、好みが古い傾向にあるのは間違いない。
「ヴァルキリーといえば、君たちは今度出る新作は購入するのかな?」
「ああ、アレは興味はあるんですけど、開発が違うじゃないですか――」
そんな感じに話題は再びヴァルキリーのことに戻り、結局MMORPGの話題からは離れていってしまった。
◇
温泉からあがり、着替えてからマッサージチェアに向かうと、既に麗がマッサージをしながら待っていた。
「遅いっス!」
「すまん、オーディン様とゲーム話で盛り上がっていた」
「ズルいっス! そういうのはウチもいるときにして欲しいっス!」
「悪かった。まあオーディン様とはあとで食堂で合流しようと約束したから、そのときにでもまた話そう」
「楽しみっス!」
先日Aエンディングをクリアしたばかりの麗は、ヴァルキリーの話をしたくて堪らないのだろう。
恐らく俺といるときに話題を控えていたのは、この
ということで場所を食堂に移し、麗と食事をしながらだべっていると10分も経たないうちにオーディン様が合流する。
「やあ、待たせたね」
「いえ、俺達もさっき来たばっかりです」
「オジサマ! 二週間ぶりっス!」
「こんにちわ。ヴァルキリーを始めたそうだね」
「はいっス! 昨日Aエンディングをクリアしたっス!」
「それは目出度い。ということは、今はセラフィックゲートを攻略中かな?」
「はいっス! 変態ロリコン野郎を仲間にしたっス!」
セラフィックゲートとは、クリア後に行くことのできる隠しダンジョンのことである。
開発元のトライエースではお馴染みのダンジョンであり、遊び心が随所に散りばめられている。
そのため、本編の雰囲気を壊したくないプレイヤーには非推奨とされるが、麗はその辺は気にしないようだ。
俺も切り分けができるタイプなので、それはそれとして楽しむ派である。
「それにしても、レナスはなんで創造の力に目覚めたんスか?」
「レナスは元々死者の魂を読み取る力があっただろう? さらに、それを実体化する力もあった。それが成長する力とかみ合ったということだろう」
「ああ~、じゃあ結果的にはロキがオーブの力で世界を滅ぼしたから、レナスが成長してしまったってことっスか」
「恐らくはね」
言い方は悪いが、いきなり大量の経験値が入ってきたことで急成長したって感じだろう。
「あとあと、エンディング後の意味深なアレはなんスか!? 続編が超気になるっス!」
ヴァルキリープロファイルのAエンディングの後には、特殊なフルボイスイベントが存在する。
スタッフロールが終わってすぐにゲームを終了してしまうと見れないので、一部の人は知らないイベントだ。
「ヴァルキリープロファイル2は、残念ながらAエンディング後の続きが見れるワケじゃないぞ」
「な、なんだってーっ!?」
「一応話の繋がりはあるんだが、一部設定が変わっていたりするので賛否両論ある。俺は正直あまり好きじゃないな」
ヴァルキリープロファイル2は、1が名作だっただけに比較されることが多く、あまり評判が良くない。
アリーシャの太ももの描写に全振りしているなどと揶揄されることもある。
シナリオも、Aエンディング後の話を期待していたユーザーにとっては色々不満が多かったと思う。
「私としては、ゲーム単体としては悪くないと思っているよ。ヴァルキリープロファイルとして見ると、少々残念な部分は多いがね」
俺としても大体同じ印象だ。
グラフィックなどは凄いし、戦闘やアクション部分も試行錯誤が感じられる。
ただ、エインフェリア周りのエピソードが少々雑なので、ヴァルキリープロファイルとして見ると少し残念な仕上がりだった。
「単純にAエンディング後のストーリーが見たいのであれば、実はスターオーシャンアナムネシスのコラボイベントで完全新作のストーリーを見ることができる」
「おお!」
「ほぅ?」
「あ、オーディン様も知りませんでしたか?」
「私はヴァルキリーシリーズしか追ってないので、それは初耳だよ」
まあ確かに、シリーズだけを追っているのであれば知らない可能性も高い。
しかもスマホアプリのコラボシナリオなので、スマホアプリをやらない人であれば知っていても抵抗がある可能性がある。
「ヴァルキリーの続編が、なんで他のゲームで見れるんスか!?」
「まあ、実際のゲームを開発するよりお金かからないっていうのと、話題性のためじゃないかな」
実際のところはわからないが、恐らくどっちも視野に入れていたのではないかと思う。
「ちなみにスターオーシャンアナムネシスはサ終しているので、現在公式に見ることはできない」
「なんと」
「そんなー!?」
「一応、非公式だと思いますが、Youtubeでシナリオは読めますよ。ただ、過度の期待はしない方が良いかもしれません。何せソシャゲですので、登場するキャラクターはコラボで登場するキャラが中心になってますから」
それでも、冥界の女王ヘルやロキにガノッサ、そして新キャラも登場するので非常に豪華なコラボだった。
「ふむ、しかしそれでも気になるな。家に帰ったら検索してみることにしよう」
「ウチも!」
「麗は、2をやる気ならその後の方が良いかもしれないぞ」
新シナリオを読むと、ヴァルキリープロファイルとヴァルキリープロファイル2の繋がりも見ることができるので、プレイする気ならプレイした方が楽しめるのは間違いない。
「むむぅ! 悩むっス!」
そんな感じで、俺達はヴァルキリープロファイルの話で盛り上がるのであった。
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