第21話 ヴァルキリープロファイル③



 再び精神集中を行うと、今度はオルゴールのメロディ(曲名を「窮境へのレクイエム」という)とともに声が聴こえてくる。

 ここで聴こえる声は本編では無音声だったりするので、意外と貴重だ。



「ほほぅ、今度はこのイケオジっスか。これまた転送したくないっスねぇ……」


「ベリナスは序盤で転送される筆頭候補だが、実は性能自体はかなり高い。決め技も見た目は地味だが攻撃力は本編中なら最強だぞ」


「なんでそんな強いキャラが転送の筆頭候補なんスか……」



 それはまあ、見た目だろうな……

 麗はイケオジと言っていたが、ベリナスはケツアゴなので弄られやすい見た目をしている。

 決め技は2ヒットと派手さに欠け、通常攻撃も「タアァァエエエエエエエエエェェェェェェェェェ!!!!」と空耳する謎のボイスとイマイチ人気がない。





「ぐおぉぉぉっ! 阿沙加ちゃん!」



 画面の向こうでベリナスの使用人である阿沙加が亡くなり、麗が叫び声をあげる。



「何スか!? ベリナスの周り全員死んじゃったじゃないっスか! 妻やマリアが死んだのも運命だったんスか!?」


「ベリナスは使用人である阿沙加を愛していた。それに気づいた妻が嫉妬し、『ヴェリザの方陣』という呪いに手を出してしまったというのが全ての発端だ。そして呪いの代償で妻は死に、巻き添えでマリアも亡くなった」


「マリアーーッ! 巻き添えとか酷すぎるっス!」



 本当、マリアは何も関係ないのに酷い話である。

 恐らくはストーリー上の都合なのだろうが……



「……でも、不倫はダメっスよね」


「そうだな」


「……先輩も、不倫はダメっすからね」



 麗が上目遣いで俺を見ながらそんなことを言ってくる。

 ジト目だが少し目が潤んでいる気がする。あと、ついでに震えている。

 パッと見た瞬間はヤンデレのような印象を受けたが、よく見ると怯える子犬のようであった。

 そんな麗を見て、俺は思わず頭を撫でてしまう。



「っ!」


「……わかっていると思うが、俺にはそんな出会いも魅力もない」


「そ、そんなことないっス! 現に……」



 麗が何かを言いかけ、言葉を濁す。

 現になんなのかはわからないが、心配があるなら安心させてやるべきかもしれない。



「安心していい。俺には麗しかいない」


「っ!?」



 …………ん? 俺今、何かとんでもないことを言わなかったか?

 恐る恐る麗を見ると、顔を真っ赤にして目が泳ぎまくっていた。



(グッ……、マズイ……)



 一度意識ししまうと、コチラも一気に恥ずかしくなってくる。

 顔が熱くなり、体温が上昇する。



「きょ、今日は暑いな! 冷房を少し強めるか!」


「そ、そうですね! それがいいと思います! あ、私、飲み物取ってきますね!」



 俺達は互いに顔を反らしつつ、別行動をすることで恥ずかしさを誤魔化した。





 その後俺達は、ゲームに集中することで落ち着きを取り戻し、空気も元に戻っている。

 ちなみに、ベリナスは性格を矯正されたうえで神界に転送された。



「最後のラウリィはなんだったんスか!? 幻っスか!?」


「レナスは戦闘の際、DME(ディバインマテリアライズエナジー)を用いて魂を実体化させて戦闘を行っているという設定だ。今回は戦闘じゃないが、それを使ってラウリィを実体化させたのだと思われる」


「ああ、魂のまま戦っていたワケじゃないんスね」



 そういった設定があるため、このゲームでは主人公(レナス)が死んで3ターン経過すると他の仲間も全員死ぬようになっている。





 ラウリィのイベントが終わり、ダンジョン攻略も終えてチャプター2(章のようなもの)に移る。

 そして次に仲間となるロウファのイベントが終了した。



「んん? このイケメンはなんで仲間に?」


「本編では語られていないが、漫画版ではアリューゼの弟を脱獄させたあと、自ら名乗り出て処刑された」


「ああ、真面目そうっスもんね……」



 一緒に逃げれば助かった可能性もあるのに、本当に真面目な男である。

 しかし、罪もない民を脱獄させたくらいで処刑される辺り、この国の腐りっぷりが伺える気がするな。

 わざわざ自国の戦力を削って、自滅でもしたいのだろうか?



「ちなみにこのロウファは、恐らく本編における最強キャラだ。使うか使わないかは自由だが、手元に残しておいて損はないと思うぞ」



 槍キャラは本編では強いのだ。本編では……





 そんな感じでストーリーに補足を入れつつ、俺達は二日かけてヴァルキリープロファイルを攻略していった。

 案の定、鬼畜ダンジョン「ローム丘陵のカラクリ屋敷」や「古代墳墓アメンティ」、「アリアンロッドの迷宮」などでは苦労していたが、麗のゲームセンスと俺のフォローで乗り切り、ついにエンディングを迎えることになる。



「な、なんスか、このモヤモヤするエンディングは!」


「これがBエンディングだ。ストーリーの本筋通り、ラグナロクを戦い終了」


「わかってるっス! でも、謎が! 色々と謎が残ってるっス! それに永遠の17歳はどこいったっスか!?」


「全てを知りたければ、Aエンディングを見るしかない。あ、ちなみにリセリアについてはバグ説が濃厚だ」



 永遠の17歳ことリセリアは神界転送すると、Bエンディングのラストダンジョンや隠しダンジョンで使えないという問題がある。

 リセリアの設定が特殊なため仕様なんじゃという噂もあったが、隠しダンジョンで使えないのは明らかにおかしいので恐らくバグと思われる。



「バグ! そしてぐおぉぉぉっ! 一体どこで分岐したんスかぁ!」



 攻略本や攻略サイトを見ずにAエンディングに辿り着くのは至難の業だ。

 誰もが通る道、それを麗にも体験させたかった。



「一応だが、ヒントはタイトルロゴに表示される英語に隠されている」


「タイトルロゴに英語なんて――ってなんかちっさく書いてある!? こんなの読めるワケないっス!」



 まあ、普通なら読めないよな……



「一応ウチなりに予測はしてるっス。多分ステータスにある謎の封印値っていうのと、ルシオとか過去の出来事が関係してるっスね!」


「まあ、そうだな」



 鋭いな、と言いたいところだが、このくらいであれば勘の良いプレイヤーならすぐに思い至る。

 ただ、まさかルシオを神界に転送しなければならないとは思いもしなかったろう。

 ルシオが優秀なだけに、心情的に中々転送されにくいのもミソだ。



「ということで、攻略サイト解禁だ。そして来週までにAエンディングをクリアすること。これ宿題な」


「やってやろうじゃないっスか! ああ……、でも、もう「カラクリ屋敷」はやりたくないっス……」



 気持ちはわかる。

 俺も二度とやりたくないダンジョンはいくつかあるし。


 しかし、麗のゲームセンスならなんとかなるだろう。

 そしてその苦難を乗り越え、Aエンディングに辿り着いた麗は、一体どんな感想を抱くのか……

 今から楽しみでならない。








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