第20話 ヴァルキリープロファイル②



 精神集中で表示された場所に入るとイベントが始まる。



「おお、いきなり戦闘……て、このキャラ、ベルセルクのガッツじゃないっスか!」


「アリューゼは、ガッツをモデルにしたんじゃないかと言われているな」



 実際にそうだと明言されているかどうかは忘れたが、昔からよく似ていると言われている。

 それにしても、麗はベルセルクも読んでいるのか……

 ヴァルキリープロファイルが終わったら、ドリキャスのベルセルクでも貸してみるか?



「それにしても、さっきからBGMが滅茶苦茶良いっスね!」


「趣味があうな。俺もヴァルキリーのBGMは大好きなんで、サントラも持っている」



 音楽の趣味は人によって好みも違うため、「音楽が最高なんだよ」と言っても同意を得られないことがある。

 麗とは好みの傾向が似ているので大丈夫だとは思っていたが、これからは遠慮せずサントラなどを勧めることができそうだ。



「ちなみにBGMを担当しているのは、テイルズシリーズなどと同じ桜庭統さくらばもとい氏だ。麗はテイルズシリーズはやったことあるか?」


「ファンタジアはゲームボーイアドバンスでやったことあるっス」


「アドバンス……、これまた骨董品を」



 俺が言うのもなんだが、麗は親世代の影響を受けすぎな気がする。



「そうっスか~、ウチ、ファンタジアのBGMも大好きだったんスよね」


「ファンタジアならサントラ持ってるぞ。借りてくか?」


「う~ん、YouTubeで聴けるから大丈夫っス」



 まあ、そうだよな……

 今どき、古いゲームのBGMなんてYouTubeを探せば大体転がっている。

 流石にマイナーなゲームは見つかりにくいが、テイルズシリーズくらいの有名どころは「戦闘シーンBGM集」だとか「作業用BGM集」などにまとめられていることが多い(許可を取っているかは不明だが)。



「これはチュートリアル的戦闘っスよね」


「ああ。表示されているボタンと攻撃が対応されているから、試しに押してみるといい」


「ほうほう、あ~ヒット数、成程。行動は全部同時に行えて、それで上手いことコンボにするんスね」


「そういうことだ」



 理解が早くて助かる。

 これはゲームセンス以前の問題なのだが、説明書やゲーム画面の情報を拾おうとしないプレイヤーは大抵ゲームが下手だ。

 ちゃんとゲーム内で説明がされているのに読み飛ばすのだから、上手くいくワケがない。

 しっかり読むプレイヤーは、少なくともまともにゲームをプレイできる。


 vtuberや実況配信者の動画を見ると、この違いでゲームの上手下手が分かれやすい。

 下手なゲームプレイを見て楽しめる層であれば問題ないのだが、俺のようなゲームガチ勢からすると下手なゲームプレイを見ると正直イライラする。

 その点、麗は呑み込みも早く、テキストもしっかり読むので、安心して見ていられる。

 ……まあ、仮に麗が下手だったとしても、イライラなどしなかったと思うが。



 イベントも終盤となり、麗から苦悶の声が聞こえ始める。



「ぐおぉぉぉっ、なんて酷いことを!」



 その反応を見るのが中々に面白い。



「というか、アンジェラちゃんのアリューゼに対する好感度高くないっスか?」


「ヴァルキリーは、容量の関係でシナリオがカットされているケースがかなり多い。恐らくだが、アリューゼとジェラード姫は依頼を通して良好な関係を築いていたんだと思う」



 そうでなければ説明できない信頼感を感じるので、そのように脳内で補完している。

 ……まあ、ゲーム上では翌日とか表示されてるので、そんな時間なかったようにも思えるが。



「それを思うと、尚更許せないっスね! このジジイ!」



 感情的になるのは、ゲームにハマりつつある証拠……と思いたい。



「ふぅ、最初から中々重いストーリーっスね……」


「ヴァルキリーのシナリオは基本的に全て重いぞ」


「マジっスか!? なんでそんなに荒廃した世界観なんスか……」


「理由はあるが、ネタバレになるのでもう少ししてから説明しよう」


「むぅ……、そうっスか……」



 麗が悩むような素振りをしたので、少し危機感を覚える。



「シナリオ読むの、気が重いか?」


「いや、ウチ重いシナリオ大好物なんで。確実に時間泥棒になることが確定して悩んでいたっス」


「そ、そうか」



 そういえばベルセルクも読んでいるみたいだし、意外とダークファンタジーが好きなのかもしれない。

 ちょっと安心した。





「お~、これがダンジョンっスね。やっとセーブができると」


「相変わらず長かったな」



 この手の長いイベント中は、停電が最大の敵だった。

 雷や、掃除機、電子レンジといった電化製品による停電には怯えたものである。



「さて、アクションについて簡単に説明するぞ。まず戦闘だが、敵と接触することでエンカウントするタイプだ。で、その際に剣で斬ることで先制を取ることができる」


「ふむふむ」


「他にはジャンプ、スライディング、晶石などのアクションがあるが、それはやりながら覚えればいいだろう」



 晶石のテクニックについては結構バリエーションが豊富なので、一度に説明するよりやりながら覚えてもらった方がいい。



「それからパーティが4人になったことで、上手くコンボを繋げれば決め技を使えるようになる」


「決め技っスか?」


「ああ。麗は早々に気づいていたが、このゲームはコンボを決めヒット数を伸ばすと左下のゲージが溜まる。それをマックスまで溜めると決め技という、いわゆる秘奥義が使えるようになる」


「ほほぅ?」



 この決め技(大魔法)こそ、ヴァルキリープロファイルの戦闘における最大のポイントと言えるだろう。

 決め技なくして、強敵を倒すことは困難だ。



「ウチ、秘奥義とか大好きなんスよね! ファンタジアでも使いまくってたっス!」


「やってみるといい。ヒットに余裕がないから少しミスると出せないぞ」


「わかったっス!」



 そう言って麗は早速コンボを組み立てるが、流石に最初は少しミスがあった。

 フレイの攻撃が癖あり過ぎるんだよな……

 しかし、二度三度でコツを掴んでしっかり決め技まで完走できた。



「おお、決め技でもゲージが溜まるんスね!」


「そうだ。溜まりやすさは技ごとに違うが、上手く繋げば最大4回決め技を繋げる」


「やっぱりそういうことなんスね! でも、オーバーキル感あるっス!」


「ちなみに魔法には、決め技とは別に大魔法というものが存在する。ただ、かなり強力だから使える武器が制限されているうえ、使えても確率で武器が壊れるものがほとんどだ。最終的にはノーリスクで使えるようになるが、しばらく後になる」


「大魔法……、ワクワクするワードっスね! 早く使えるようになりたいっス!」



一応、使う分にはこのダンジョンから使用可能だが、武器が壊れるので触らせない方がいいだろう。





 それから麗は道中で晶石アクションをマスターし、ついにボス戦となる。



「ああ、フレイお姉様はここで抜けてしまうんスね……」


「その代わり、三回攻撃が可能な剣を貸してくれるから、コンボの心配はないぞ」


「そういう問題じゃないっス!」



 なんてことを言いつつも、戦闘ではしっかりコンボを楽しんでた。



「おお!? ニーベルン・ヴァレスティのフィニッシュに変化が!?」


「レナスの決め技は、武器によりフィニッシュが増える。フィニッシュ3まで行くとかなりの威力になるぞ」


「かっけぇっス! 早くフィニッシュ3も見たいっス!」



 まあ、残念ながらフィニッシュ3を見ることができるのは、隠しダンジョンを除けば本編の本当にラストくらいなのだがな。





「ということでチュートリアルも終わりだが、さっきフレイに言われた通りアリューゼは神界に転送できない」


「なんか因縁あるっぽい雰囲気だったっスもんね。絶対何かあるっス」


「まあ、そういうことだ。それで、ジェラードは一応転送可能だが……」


「嫌っス! ジェラードちゃんはずっとアリューゼと一緒っス!」


「……まあ、最初はキャラも少ないし、あまり転送する人はいないな」



 このゲームの魔法使いは、多少の性能差はあるものの基本的に全員同じレベルの戦闘が可能となる。

 初期に使える魔法の差がある程度なので、最後までジェラードを使うプレイヤーも多い。



「神界転送は次のキャラでするっス!」



 果たして、その言葉通り実行されるかどうか……




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