第18話 プレステ2の修理
俺とオーディン様二人がかりでヴァルキリープロファイルの良さを伝えた結果、麗は見事に興味を示してくれた。
決め手となったのは、のりぴー(若本規夫)が声優を務める渋いイケオジキャラの存在だ。
他にもオーディン様をはじめ、渋め男子が多いゲームなので、麗もきっとハマるに違いない。
『大変です旦那様!』
いつものようにLOにログインすると、いきなり麗がチャットで呼びかけてきた。
『どうした?』
『プレステ2が壊れました! これでは、折角借りたヴァルキリーがやれません!』
プレステ2が壊れたか……
まあ、古いゲーム機に故障は付き物だ。
『具体的にどんな状態だ?』
『ディスクを入れてもゲームが立ち上がりません…』
完全に電源が入らなくなったのであればお手上げのことが多いが、その程度であればまだ希望はある。
『ちなみに、他のゲームはどうだ?』
『他のゲームも同じです…』
『であれば、ゲームディスクが悪いワケではなさそだな。それなら、多分直るぞ』
『ほ、本当ですか!?』
『本当だ。俺は何度か直したことがある』
『じゃあ、持っていきます!』
『いや、わざわざ持ってこなくても、麗一人で直せると思うぞ』
プレステ2の故障については、ネットを調べればすぐに直し方が見つかる。
やり方は小学生でもわかる簡単な内容だ。
『無理です! 怖くて触れません!』
『…そうか。まあ、それなら俺が見てみようか』
『お願いします!』
こうして、俺は数年ぶりにプレステ2の修理をすることとなった。
◇
「も、持ってきたっス!」
「お疲れ。重かっただろう」
「重かったっス……」
旧世代ゲーム機とはいえ、プレステ2くらいになると結構な重さがある。
ファッションを気にする麗も、今日は流石にリュックサックで持ってきていた。
それでも重かったようだが、運動不足の麗には丁度いいだろう。
とりあえず麗に麦茶を出しつつ、戸棚からプラスドライバー2本と絶縁処理された高周波マイナスドライバーを取り出す。
この家ではやたらとゲーム機やらコントローラーを解体していたので、適したサイズのドライバーがしっかり用意されているのだ。
「じゃあ、早速やってしまうか」
「ウチは応援してるっス!」
別に大したことをするワケではないので、応援とかされても逆に困るんだがな……
俺は麗の期待の視線をなるべく無視しつつ、解体に集中する。
プレステ2の分解は、特に専用の器具などは必要なく、市販のドライバーなどで可能だ。
型番によって若干の手順は変わるが、基本的な解体の流れは変わらない。
裏面の滑り止めや隠しパネルを外し、その下に隠れているネジを回していく。
このネジは長さこそ違うサイズがあるが、ネジ穴自体は全て同じサイズなので、一本のプラスドライバーだけで外すことが可能だ。
計8~10本のネジを全て外し、外装と取り外す。
「おお! あっという間に開くんスね!」
「ちょっとビックリするよな。精密機器だし、もっとガチガチに開きにくくされているイメージあるのに」
精密機器は簡単に開けられないよう特殊なネジを使ったりするが、少なくともこの時代のゲーム機は簡単に分解することができる。
俺はこれまでの人生で様々なゲーム機の中身を見てきたが、特にプレステ2に関してはよく壊れるので見る機会が多かった。
友達のプレステ2を直すことはこれまでに何回もあったため、確実に10回以上は分解したことがある。
外装を外したあとは、小さいプラスドライバーで銀色のシールドパネルを外す。
ここまで来ると基盤が丸見えになるので、初心者の頃はドキドキしたものだ。
「うわ、うわ、触って大丈夫なんスか?」
「コンセントに接続してないし、変なところに触らなければ問題ない」
電化製品の中身は、モノによってはかなりの長時間熱を蓄えているケースがあるため、迂闊にあちこち触るのは危険だ。
このプレステ2は長いこと起動していなかったらしいのでその心配はあまりなさそうだが、電源付近はなるべく触らないようにしたほうがいい。
フラットケーブルを外し、基盤を取り外すと黒い蓋が出てくる。
この蓋を取り外すと、ディスクドライブ本体が現れる。
「麗は静電気処理してないから触るなよ? さて、見てもわかる通り、プレステ2はここでディスクを読み取っている。このレンズの汚れと、ピックアップの調整ボリュームの緩みが、ディスクを読み取れなくなる主な原因だ」
プレステ2の故障原因の八割くらいはこれだ。
特に、ボリュームの緩みは毎回箱に収納したりする几帳面な人ほど発生しやすい障害と言えるだろう。
「レンズの掃除はしたっスよ?」
「それは市販のレンズクリーナーでだろ? あれくらいじゃ読み取り不能なレベルの汚れは落ちない」
市販のレンズクリーナーは、主に定期的な掃除用のものだ。
ディスクが読み取れなくなるほど汚れてからでは大抵意味がない。
「見てみろ、結構汚れてるだろう?」
「うわ、本当っス! きちゃないっス!」
綿棒にレンズクリーナーを染み込ませ、溜まったホコリを除去していく。
少しずつ綺麗になっていくのが、不思議と心地よく感じる。
「この状態でまずは起動チェックだ」
外装などは外したまま、まずはディスクを読み取るか確認する。
「……やはり読み込まないな」
「ダメっスか!? ウチのプレステ2、もう直らないっスか!?」
「安心しろ。修理はまだ終わっていない。さっきも言った通り、ピックアップのボリューム調整があるからな」
年季の入ったプレステ2は、レンズの汚れを取ったくらいでは大抵直らない。
ピックアップのボリューム調整こそが本番と言える。
「この左側のネジがCD用の調整ボリュームで、右がDVD用だ。麗のプレステ2は両方とも読み込まないから、両方調整する」
このボリューム調整はシビアなため、1~2ミリずつ動かすのが無難だ。
これを読み込む位置まで調整する地味な作業になるため、交換してしまった方が早いケースも多い。
ただ、パーツは大体2000円程度で買えるが、すぐに取り寄せられるワケでもないので俺的には自力で調整するのが良いと思っている。
大抵はほんの少しのズレが原因なので、そこまで手間とも思わない。
高周波マイナスドライバーでボリュームを調整していく。
カッターナイフの刃などでも代用が可能なので、無理にドライバーを用意する必要はない。
「ちなみに、セガサターンなどの故障もこれで直せるぞ」
セガとソニーなのに、修理方法が同じというのが少し面白い。
「先輩凄いっス! エンジニアっス!」
「いや、本当にこんなの小学生でもできるからな」
実際、俺は小学生の頃からやっていた。
「さて、じゃあ起動するか試すか」
俺は起動確認用に、ダメになっても良いゲームをチョイスする。
まずないと思うが、ボリュームを捻り過ぎてゲーム自体を壊す可能性があるかもしれないからだ。
ディスクを挿入し少し様子を見ると、すぐに画面が切り替わる。
どうやら、問題なく一発で直ったようだ。
「おお! 本当に起動したっス!」
「っ!?」
無事直りホッとしていると、麗が急に抱きついてきた。
麗の決して小さくない胸の感触が肩に伝わり、頭が少しパニックになる。
(お、落ち着け、クールだ……、いや、素数を数えよう。表情に出すなよ俺……)
「言ったろ? プレステ2は結構簡単に直るんだ」
俺は努めて冷静を装い、淡々とそう口にする。
目が泳ぎそうになるが、そういうささいな反応を女性は見逃さないと言うし、視点はゲーム画面に固定する。
「あ、これストゼロ2っスね」
「そうだ。サターン版があるのに、何故か祖父さんが買ったらしい」
それで祖母さんと喧嘩になったエピソードを聞かされたことがある。
何故喧嘩になったかというと、基本的に格ゲーはサターン版の方が出来が良いからだ。
プレステ版は処理落ちもあるし、描写が減らされていることもあって対戦するとイライラさせられることが多く、格ゲーマーはサターン版を選ぶのが常識となっていた(カプコンゲーの場合コントローラーのボタン数も影響する)のだが、何故か
プレステ版は発売が一か月早かったことくらいしか利点がなく、逆にサターン版は殺意リュウ、『ストII'』版ザンギエフ&『ストII'』版ダルシム、『ZERO2ALPHA』から先行で色違いさくらやサバイバルモード、新規要素としてイラストギャラリーが追加されており、内容的に明らかに優れている。
何故プレステ版を買ったか理由を聞くと、どうやら隠しキャラを出すコマンドがサターンとプレステとでは違ったらしく、祖父さんが覚えたコマンドがプレステ版だったためプレステ版を購入したのだそうだ。実にくだらない。
念のためプレステ2専用ソフトの起動も確認し、ついでにファンなどの掃除をして元の状態に組み立てる。
「おお、まるで新品みたいっス!」
「まあ、他にも劣化してる部分はあるだろうし、新品ほどの性能はないだろうがな。さて、折角直したことだし、プレステ2で遊んでみるか?」
「遊ぶっス! ヴァルキリーも持ってきたっス!」
「ん? RPGは一人でやる主義じゃなかったか?」
「そうっスけど、説明書読んだらかなりアクション要素あるっぽいじゃないっスか。だから、慣れないうちはフォローが欲しいっス!」
確かに、ヴァルキリープロファイルはかなりアクション要素が強いため、それで挫折するという人も僅かながら存在した。
麗のゲームセンスなら問題ないと思うが、苦労しそうなダンジョンはいくつかある。
極力手は出さないが、攻略サイト代わりにヒントを与える役がいても良いだろう。
「わかった。俺も久しぶりにヴァルキリーのシナリオ見たいし、付き合うよ」
さて、麗は最初、どのエンディングを迎えることになるか……
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