第11話 ドリキャス推しの彼女

 


 ピーンポーン♪



 火曜日の午前中――ヤツはやって来る。


 俺はインターホンの受話器を取った。



『待ってたぜェ!!この瞬間ときをよぉ!!』



 俺は無言で受話器を置き、玄関に向かって扉を開ける。



「チッス先輩♪ 今日も遊びに来ましたよ♪」


「武丸ネタはいつまで続くんだ」


「ウチが飽きるまでっス!」


「そうか……」



 有名なセリフは出尽くした気がするので、次に何を言い出すか少し楽しみになってきた。



「お邪魔しまーっス!」



 そう言って麗は洗面所の方へ駆けていく。

 手洗いうがいの大切さに気付いたのかもしれない。


 とりあえず冷蔵庫から麦茶を取り出し、麗が勝手に自分用にしたコップに注いで向かいの席に置く。

 そして俺は、途中だった朝食を再開した。


 しばらくすると麗がリビングに入ってき、向かいの席に座る。



「…………」



 気にせずシリアルを食べていると、珍しく麗が話しかけてこない。

 不審に思って麗を見ると、麗のメイクが先程と異なることに気づく。

 具体的には、目の下に星とハートのタトゥー? が入っていた。



「そのメイクは……」


「ふふーん、どうっスか? 似合ってるっスか?」



 麗は人差し指と小指を立て、キャピキャピしたポーズをとっている。



「……ヒソカか」



 俺がそう言うと、麗はわざとらしいズッコケポーズをする。



「違うっスよ! ソッチじゃないっス! なんでウチがあんな変態のメイクを真似すると思うんスか!」


「いや、麗は少年漫画好きじゃないか。ヒソカも絶対好きなタイプだろ」



 麗は直球だとダンディなキャラが好みだが、変化球だと変態とか少し狂っているキャラが好みだ。

 だから、『特攻ぶっこみの拓』だと鰐淵と武丸のことが気に入っている。



「それは……、否定しないっスけど……、ホラ、もっと最近流行っているのあるじゃないっスか……」



 まあ、正直見た瞬間から気づいていた。

 気づいてはいたが、なんとなくそれを認めたくない気持ちがあったのである。



「……まあ、正直似てはいると思うぞ。……ダイタクヘリオスに」


「っ! そ、そうっスよね! やっぱりそうっスよね!」



 よく見ると、後ろ髪のエクステまで付けている。

 流石に髪色までは変えていないが、結構本格的だ。



「ち、ちなみに先輩は、ウマ娘だと誰推しっスか?」


「中々に悩ましい質問だが、あえて推すならエルコンドルパサーだな」



 具体的にはおっぱいが好みである。

 サイズ感が丁度いいのだ。



「そ、そうっスか……」



 あからさまに凹む麗。

 ……くそ、そんなに言わせたいのか。



「まあ、見た目はダイタクヘリオスの方が好みだけどな」


「っ!」



 麗は自分で言わせておいて、顔を真っ赤にしている。

 ただでさえ恥ずかしいというのに、勘弁して欲しい。



「ま、まあ、実装したら印象も変わるかもしれないけどな」


「あ、あ~、そうっスね! まだ未実装っスもんね!」



 まあ、実装しようがしまいが、見た目は変わらないがな。



「と、ところで、今日はどうする? 観光にでも行くか?」


「え、えっと、こんなメイクしちゃったんで、外はちょっと……」



 そういえば、麗がこのメイクをしたのは、我が家に着いてからだ。

 流石にこんなメイクのまま外を歩くには恥ずかしいらしい。

 ……つまり、このメイクはやはり、俺のためにしたということで……、クソ! むず痒い!



「……じゃあ、家で遊ぶか」


「ウチ、ドリキャスやりたいっス」



 麗の実家にあるメインゲーム機はドリキャスらしく、やたらとドリキャス推しである。

 ただ、ゲームソフト自体はあまり持っていないようで、我が家で色々吟味しているらしい。



「ドリキャスで遊ぶとして、何をやるかだな……」



 二人で遊べるゲームというのは、ほとんどが対戦ゲームになってくる。

 しかしそうなると経験者である俺が圧倒的に有利になるので、麗としてはつまらなくなる可能性が高い。

 この前のゼクスのように、実力が均衡していれば最高に楽しいのだが……



「別に一人用でもいいっスよ? ウチ、見るのも好きなんで」


「それだったら、俺がやるより麗にやらせた方が面白いだろ」



 押し入れから段ボール箱を引っ張り出し、ソフトを物色する。



「これなんかどうだ? 『スペースチャンネル5』」



『スペースチャンネル5』は、最初にドリキャスで発売され、後にプレステ2でも発売された人気ソフトだ。

 最新作は、なんとPS4VR用として2020年に発売されており、根強い人気が伺えるシリーズである。

 この作品の主人公は女性ということもあり、同じ女性のプレイヤーも多かった。



「あ、それは持ってるっス。プレステ2版っスけど、1も2もやり込んだっス」



 まあ、その可能性はあると思った。

 何せ、このゲームの主人公の名前はうららである。

 同じ名前ということもあって、親和性は高かったハズだ。



「じゃあこれはどうだ? 『BLACK/MATRIX AD』」



 セガサターンで発売された『BLACK/MATRIX』のリメイク版である。

 とある理由・・・・・から、女性ゲーマーに強く支持されたゲームだ。



「……面白そうっスけど、これRPGっスよね? ネトゲ以外のRPGは一人でやりたいんで、やるなら借りてやるっス」



 俺も同意見なので、RPGはチョイスしないことにしよう。

 ……まあ、ドリキャスのRPGは癖が強い作品が多いので、二人でやってもそこそこ面白そうだがな。



「あ、コレ面白そうじゃないっスか!? 『ザ・ハウス・オブ・ザ・デッド 2』!」



 このシリーズも近年まで続いていた人気ガンシューティングゲームだ。

 ドリキャスでは23万本というかなりの売り上げを誇っており、後に移植されたWii版は全世界で141万本以上売れている凄い作品でもある。



「確かにやれば楽しいことは間違いないんだが、残念ながらガンコンが一つ故障していてな」



 ドリキャスコントローラーあるあるである。

 ちなみに派生作品である『ザ・タイピング・オブ・ザ・デッド』もあるが、キーボードは流石に一つしか無い。



「あ、コレ、うちにもあるっス」


「『セガラリー2』か、名作だな」



 中二病というか、思春期男子特有のあるあるだが、何故かレースゲームにハマる時期がある。

 俺もその口で結構ハマったのだが、俯瞰視点じゃないとまともにプレイできないため、レースゲーマーとしては完全にニワカだった。


「ちなみに俺は、初期ステージしかまともにプレイできないぞ」


「ウチも正直自信ないっス……」



 俺はセリカを愛用していたが、初期ステージ以外ではガンガンあちこちにぶつけるくらいの腕前なので、実際の車だったら間違いなくベコベコにしていることだろう。

 そのせいで車に乗る自信をなくし、今ではバイク乗り(原付だが)になっている。



「グダりそうだからやめておこう。それじゃあ、これはどうだ?」


「こ、これは……! 『ダイナマイト刑事2』じゃないっスか!」


「ほぅ、知っていたか」


「お~れ~のぶ~きを、しってるかい? ってヤツっすよね?」


「それであっているが……、よく知っているな」



 麗が口にしたフレーズは、『ダイナマイト刑事2』ではなくセガサターンで発売した『ダイナマイト刑事』のCMで流れていたものだ。

 サターン版の発売は1997年のため、麗どころか俺も生まれていない。

 俺が知っているのはもちろん祖父母の影響だが、麗は一体……



「小さい頃、お父さんの録画してたアニメを観てたんスけど、そのCMにあったっス」


「成程、そういうことか。ちなみに麗が見たCMは1のものだが、2のCMもなかなか面白いぞ」



 ちなみに2の発売は1999年。

 俺は2000年生まれのためソッチもリアルタイムで見たワケではなく、Youtubeなどで確認しただけだ。



「是非コレやりたいっス!」



 このゲームは、二人プレイ可能な3Dベルトスクロールアクションゲームだ。

 友達と遊ぶと盛り上がるタイプのゲームなので、悪くない選択と言えるだろう。



「よし。じゃあ、コレに決定だ」



 こうして俺達は、いにしえの名作『ダイナマイト刑事2』で遊ぶこととなった。




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