第9話 イリュージョンラビリンス②
中層以降は、基本的に俺が前に出てモンスターを抱え、麗がそれを処理するという流れになる。
この際、魔法が効きにくいモンスターや、魔法を反射してくるモンスターがいれば優先的に俺が処理する。
俺の使用するLK(ロードナイト)は範囲火力こそ魔法職に劣るものの、単体火力はそれなりにあるため、個別撃破なら何も問題がない。
「天使型は全部倒した。焼き払っていいぞ」
「了解っス」
返事をすると同時に、麗が『レイオブダークネス』で残りのモンスターを殲滅する。
もしこの時、魔法を反射する天使型が一匹でも残っていれば、麗は反射ダメージで即死することになるため、ミスは許されない。
また、麗は麗で出てくるモンスターを確認せず、マップが切り替わった瞬間に魔法をぶっ放したりすると即死することになる。
そのため、前衛後衛の配置を守りながら、ランダムで出現するモンスターの確認をしっかり怠らないことがが攻略のポイントだ。
「しかし、流石にハードはmobも結構硬いっスね~」
「そうだな。俺も若干回復剤を叩かされている」
mob(モブ)とは、MMORPGなどでは価値の低い雑魚モンスターを指して使われる単語である。
一般的な「存在感のないキャラクター」などを指す単語とは意味が違う。
要するに、mobは本来であれば倒す価値のないモンスターなのだが、イリュージョンラビリンスでは全てのモンスターを倒さなければ次の階層に進めないため、面倒でも全て殲滅する必要がある。
それがハードでは、mobでもかなり強めに設定されているため、面倒さにさらに磨きがかかっているのだ。
「せめて有用な装備なりカードなりを落としてくれれば、モチベも上がるんスけどね~」
中層のモンスターは、ただ面倒なだけで旨味が何もない。
倒し甲斐があるというワケでもないので、集中力をガリガリ削ってくる。
純粋につまらないので、さっさと上層に上がりたい。
「まあ、ボスだけは流石に夢がある。そろそろ鈴を使おう」
「ウイッス」
鈴とは、正式名称「幸運の鈴」という課金アイテムのことだ。
その効果は、モンスターのアイテムドロップ率を倍にするというもので、効果時間は30分持続する。
レアアイテムを狙う際には必須と言えるアイテムで、主にボス戦前などで使われやすい。
このアイテムはクジのハズレ枠なのだが、そもそもクジをあまり引かない俺達微課金勢には貴重品だ。
そのため、俺達は「幸運の鈴」を使うタイミングはイリュージョンラビリンスの50階以降に限定していた。
これが廃課金勢であれば、1階からバンバン使っていくことになるので、ドロップ面でも俺達微課金勢とは差が出やすい要素となっている。
「55階はカーミラでしたっけ。カードが出ればウマウマっスね!」
「出て欲しいもんだな……」
50階の豚将軍がノードロップだったことからは目を逸らしつつ、次の山場に期待を馳せる。
55階のボスモンスターであるカーミラは、名前からも想像できるように吸血鬼系のモンスターだ。
ドロップ品は基本ゴミだが、カードだけはかなりの高級品となっている。
その効果は、与えた物理ダメージの一部を吸収できるというもので、物理攻撃職なら垂涎モノの逸品だ。
当然その取引価格は高く、20G(Gは10憶yen)以上で取引されている。
正直、もしドロップしたら俺が使いたいレベルだが、それよりも売り払って他の装備を整える方がいい。
俺と麗の装備が整えば、さらなる高額品が狙いに行けるようになるからだ。
そうやって攻略できるダンジョンや狙えるドロップ品を増やしていくのも、MMORPGの醍醐味と言える。
面倒なmobを処理し、いよいよ55階ということで準備に入る。
俺は武器を光属性に持ち替え、鎧を闇属性の物に切り替える。
麗は攻撃役のため、装備をよりカーミラに特化したものに切り替えた。
さらに、全体強化バフもかけなおす。
「準備OKっス」
「よし、じゃあ入るぞ」
まずは俺から55階に突入する。
雑魚を処理しながら、MAPの中央へ。
その後に、約3秒ほど遅れて麗も55階に上ってくる。
既に俺は、MAP上のほとんどのmobからターゲットされており、麗への攻撃は最小限に抑えられている。
さらに俺は『ピケット』というスキルを起動し、モンスターの炙り出しを行う。
カーミラは透明化していることが多いため、『ピケット』のような隠れている敵を炙り出すスキルが有効だ。
目の前に、灰色を基調とした少女型のモンスターが姿を現す。カーミラだ。
「『キャッスルガード』、『セルフサクリファイス』起動!」
「ラジャーっス! 狙い撃つぜ!」
麗が似てない物真似をしつつ、聖魔法『セイクリッド』でカーミラを撃つ。
「おお! やっぱイイダメージが入るな!」
「これは気持ちイイっス!」
カーミラは闇属性モンスターのため、『レイオブダークネス』ではダメージが与えられない。
必然的に聖属性攻撃を使うことになるが、聖は闇属性モンスターにとっては弱点属性となるので百万以上の高ダメージが出ている。
(しかし、流石に処理が追いつかんな……)
DP(ダークプリースト)の聖魔法『セイクリッド』は単体呪文なため、周囲のmobを処理することができない。
そして単体呪文はターゲットを直接クリックする必要があるため、余計なmobがいるとクリック自体をミスることがある。
だから可能な限り俺がmobを処理してやる必要があるのだが、LKの範囲スキルである『ムーンスラッシャー』では処理にどうしても時間がかかってしまう。
ついでに、『キャッスルガード』は被ダメージを60%カットする代わりに動けなくなるため、範囲外のmobは処理できない。
そうこうしているうちに、カーミラの広範囲スキル『デイオブジャッジメント』が放たれる。
「グッ……、流石に痛いな……」
「アザーっス! サクリはマジで神スキルっスね!」
サクリこと『セルフサクリファイス』は、対象とした仲間の被ダメージを肩代わりするスキルである。
つまり今の瞬間、俺には自身のダメージに加え、麗のダメージも入ったということだ。
一応肩代わりしたダメージも『キャッスルガード』で軽減できるが、麗は攻撃重視の装備で防御を捨てているため、かなり痛い。
具体的には、俺自身の被ダメージが30K(30,000)なのに対し、麗のダメージは100K(100,000)と三倍以上になっている。
俺の最大HPは150Kのため、残り20Kまで削られた。
直ちに回復しなければ、他の攻撃で落とされてしまう。
俺は迷わず完全回復薬である「ユグドラシルの聖水」を使用した。
一応は神官であるDPも回復魔法は使えるが、攻撃の手を緩めると逆にジリ貧となるため、回復は全て自分で行う。
「ユグドラシルの聖水」はそれなりの貴重品だが、ボスを倒せば高確率で落ちるので回収は容易だ。
何度かヒヤリとする場面はあったが、俺達は無事カーミラの撃破に成功する。
「お疲れ」
「お疲れ様っス~……っと、おお? なんかカードが落ちてるっスよ?」
「ほぅ、それは胸熱だな」
そう言いつつも、この展開はいつものヤツだと最初から諦めの姿勢である。
これは、ボスとは関係ないmobのゴミカードが落ちているという、いつものパターンに違いない。
俺達は過去何度も期待し、それに裏切られてきた。
だから、今回もそのハズ――
「へ?」
「は?」
しかしカーソルを合わせると、そこには「カーミラカード」と書かれたアイテムがドロップしていたのであった……
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