第4話 東京のすみっこ温泉「もえぎの湯」①
東京のすみっこ温泉「もえぎの湯」は、奥多摩駅から徒歩約10分に位置にある。
この温泉は、奥多摩の地下深く、日本最古の地層といわれる古生層より湧き出る奥多摩温泉の源泉100%の温泉なのだそうだ。
それだけでは何が凄いのかわからないが、効能は色々あるのでとにかく凄いのだろう。
「効能は、神経痛・筋肉痛・関節痛・五十肩・運動麻痺・関節のこわばり・うちみ・くじき・慢性消化器病・痔疾・冷え性・疲労回復・健康増進・病気回復期……に効く、と」
「ウチは既に関節がこわばってるんで、丁度いいっス」
我が家は奥多摩駅よりは温泉に近い位置にあるので10分も歩いていないハズだが、麗はもうへばっているらしい。
バイトをしている分、俺の方が体力的には勝っているようだ。
しかし、ここまで不健康だと少し不安になる。
俺は麗が遊びに来たときは、なるべく外に連れ出そうと心に決めた。
「混浴はないっぽいっスね。先輩、残念だったすね!」
「そうだな。麗の裸が見れなくて残念だ」
「な、な、な、なぁーーーーっ!?」
俺がネットリとした視線で麗の体を見ると、麗は動揺して顔を真っ赤にする。
自分で話をふってきたくせに、
とてもエロゲープレイヤーとは思えない。
「ち、違くて、私のことじゃなくて、他のもっとボンキュッボンなお姉さまの裸を見れなくてって意味で!」
「平日のこんな時間に、人なんてほとんどいないだろ」
奥多摩の温泉にわざわざ午前中に入りにくる観光客など、ほぼいないだろう(多分)。
いても地元民くらいだろうし、恐らく貸し切り状態のハズだ。
「夢を見てもいいじゃないっスか! 先輩、枯れてるっス! 草食系っス!」
「俺が肉食系だったら、麗は今頃調教されて性奴隷になっているだろうな」
「~~~~~っ! さ、さあ! 早速温泉に入りましょう先輩! 長旅の汗を流すっス!」
初心な反応である。本当にエロゲープレイヤーなのだろうか。
「ふぅ~」
露天風呂に浸かると、不思議と開放感のようなものが湧き上がってくる。
正直風呂に景色なんていらないと思っていたが、これはこれで悪くない。
実のところ、地元に住んでいながら、この温泉に来たのは初めてだった。
こんな機会でもなければ、この先もわざわざ温泉に入りに来ることはなかっただろう。
麗の存在は、少なからず俺の生活を変えつつあった。
(麗もそろそろこの景色を見ている頃だろうか……)
女は男と違って洗う時間が長そうな気がするので、まだ風呂には入っていないかもしれない。
しかし、想像はしてしまう。
(いかんいかん、他のことを考えて鎮めないと……)
今は湯舟の中だからいいが、上がるときに臨戦態勢だと他の客を警戒させる。
ここは違うが、都会の銭湯にはホモやゲイ御用達の聖地があるというし、通報案件になるかもしれない。
(しかし、貸し切り状態だと思っていたが、意外だったな)
露天風呂には現在、俺以外に二人の温泉客がいた。
年齢はどちらも俺より一回りくらい上に見えるが、平日の午前中にいる年齢層ではない気がする。
休みを取って観光に来てるという可能性もあるが、その場合普通は他の観光地を見て回ってからなのではないだろうか。
奥多摩は別に温泉地ではないし、わざわざ観光に来ていきなり温泉に入るというのは少し違和感がある。
(まあ、人には色々事情があるだろうから、深くは考えまい)
とりあえず息子も静まったことだし、次は内風呂に入ってみることにした。
「あ、先輩、もう上がってたんスね!」
「ああ、十分堪能したからな。麗はどうだった?」
「もう、最高だったっス! 開放感がヤバくなかったっスか!?」
「確かに、いい景色だったな」
生い茂った緑豊かな木々に、清涼感溢れる玉川、雄々しい山々……
これでもかと言うくらい大自然を満喫できたと思う。
本当に、ここは東京なのだろうか。
「そういえば、替えの下着は持ってきてたのか?」
「二日分持ってきてるっス。シャツも替えを一枚持ってきてるっスよ」
ほとんどお泊りセットである。
つまり、泊る気満々だったということだ。
警戒心がないのか、信頼されてるのか、それとも期待されてるのか……
中々に判断がし難い。5chで質問してみるべきだろうか。
「それより先輩、何一人で楽しそうなことしてるんスか!」
「ん、ああ、コレな。気持ちいいぞ」
コレとは、俺が今体験中のマッサージチェアである。
200円なので中々にお安い。
「ウチも気持ちよくなりたいっス!」
「……人がいないからいいが、その手のセリフは公衆の場では誤解を招くからな」
麗はにへらと笑いつつ、金を入れてマッサージを開始する。
よくアニメなどではあるシーンだが、中々にエロイな。
「……先輩、ガン見し過ぎっス」
「いいだろう、減るもんじゃないし」
「減らないっスけど! というかこれ以上減ったら困るっスけど!」
そんなセリフとともに控えめに揺れるおっぱいは、なんだか風情があるような気がする。
「ちなみに、何カップなんだ?」
「な、なんでそんなこと教えなきゃならないんスか!」
「ステータスを教えるくらい、いつもLOでしてるじゃないか」
麗のLOにおけるステータスについては、日頃からよく相談を受けている。
もちろん、俺の方も麗にはステータスを公開している。
「ダメか?」
「むぅ……、その、84のDっス……」
Dか。意外にあるな。
見た目は控えめだと思ったが、まあ一応揺れているのだからそんなものか。
「手のひらにピッタリ収まるサイズというヤツだな。男の理想だ」
手を前方に出し、ワキワキとさせる。
「ま、まだ揉ませないっスからね!」
「そうか、じゃあ、その日を楽しみにしておこう」
「……先輩、なんだか、最初の頃とキャラ変わってるっスよね」
「それは……、確かにそうだな」
最初の頃は、初対面という緊張感もあってかなり遠慮があったし、なるべく明るめに振る舞っていた気がする。
しかし、声アリでLOをすることで、そんな遠慮とかキャラ作りは一気に崩壊し、瞬く間に素に戻ってしまった。
ゲームというのは、本当に素の自分が出やすいものだ。
「まあ、今のが自然体な俺だよ。幻滅したか?」
俺がそう尋ねると、麗は首をブンブンと横に振る。
「そんなことないっス! むしろ画面の向こうに抱いていたイメージ通りっス!」
「それは、良いイメージってことか?」
「そうじゃなきゃ、会いたいなんて言わないっスよ!」
それもそうか。
なんか、少し嬉しいな。
「……俺も、麗と実際に会えて、良かったと思ってるよ」
「~~~~~っ! あ、暑いっスねぇ?」
「まあ、風呂上りだからな」
俺達は、そんな恥ずかしい会話をしながらマッサージを堪能した。
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