第2話 ギルティギアゼクス

 


「また懐かしいモノを引っ張り出してきたな」



 GUILTYギルティ GEARギア Xゼクスは、ギルティギアシリーズの第二作目だ。

 ギルティギアシリーズは、元々プレイステーションで発売された格闘ゲーム『ギルティギア』から始まったシリーズで、現在まで10作以上続いている人気シリーズである。


 ギルティギアは、元々キャラゲー感の強いゲームであった。

 というのも、初代『ギルティギア』はプレイステーションのみで発売され、ゲームセンターでは稼働しなかったのである。

 当時の対人戦環境はゲーセンが主流だったため、プラットホームが家庭用ゲーム機だけというのは対戦ツールとしては致命的であった。

 しかも初期作品ということでバランスも悪く、プレイステーション自体があまり格闘ゲームに向いていない機種であったため、世間的な評価はあまりよくなかったと言えるだろう。


 人気に火が付いたのは、この二作目である『!GUILTYギルティ GEARギア Xゼクス』からだ。

 ゼクスは、グラフィックが向上したのももちろんだが、やはりゲーセンで稼働したというのが大きく、沢山の格闘ゲームプレイヤーに触れられることで一気に人気が広がった。

 ギルティギアシリーズはゼクスからと認識している人も多いことだろう。


 そんなゼクスが唯一発売されたゲーム機が、『ドリームキャスト』である。

 厳密にはその後にPS2とGBA(ゲームボーイアドバンス)で出たが、アーケードタイトルをそのまま移植したのはドリキャスだけだ。



「先輩の家って、何故かゲーム機が沢山あるじゃないっスか。だから、それで遊ぼうと思って」


「だからって、なんでゼクスなんだ。遊ぶなら普通最新作だろう」


「ウチ、ゲーム機はサターンとドリキャス、それにPS2しかないんスよ」



 見事に旧世代のゲーム機ばかりである。

 スーファミ世代の一つ上くらいか?

 いや、麗の若さから考えれば、親世代かもしれない。



「先輩は、このゲームやったことあるっスか?」


「一応な」



 ゼクスは子どもの頃、この家でジイさんバアさんと一緒に遊んだことがある。

 ジイさんもバアさんもゲーマーだったので、昔はかなりボコボコにされた。

 この家にゲーム機が沢山あるのも、全てジイさんたちが所有していたからである。

 ゼクスも、段ボールの中を漁れば多分出てくるだろう。



「なら良かったっス! 一方的な展開だとつまらないっスからね!」


「……ほぅ?」



 大した自信だ。

 対戦経験もなさそうなくせに……



「いいだろう。相手をしてやる」



 そう応え、ドリキャスの電源を入れる。

 我が家のドリキャスは現役なため、電源を入れて端子を挿せばすぐにゲームが起動する。

 今となっては変換コネクタが必須だが、当然装着済みだ。



「このゲームはなんスか?」


「ロードス島戦記だ」



 入れっぱなしのゲームが立ち上がり、麗がそれに興味を示す。



「面白いんスか?」


「面白い。ドリキャスの中でも最高峰の人気ゲームだ」



 ドリキャスはロードス島戦記専用マシンと化している、という話もよく聞くくらい人気のゲームである。

 まあ、一部のマニアの間では、だが。



「ビジュアルメモリーは持ってきたか?」


「持ってきたっス!」



 ビジュアルメモリーとは、プレステでいうところのメモリーカードである。

 いや、厳密にはポケステに近い。

 液晶がついており、一部対応ゲームがプレイできるのだ。


 俺は麗からビジュアルメモリーを受け取り、コントローラーに挿す。



「あ、アケコンっスね」


「ああ。麗も使うか?」



 アケコンとは、ゲーセンでよく見るジョイスティック付きのコントローラーのことだ。

 我が家には、ドリキャス用アーケードコントローラーが5個以上ある。



「私は普通のコントローラーで大丈夫っス」


「そうか。ただ、Rトリガーが馬鹿になってるから注意してくれ」


「大丈夫っス。ウチのもそうなんで」



 ドリキャスあるあるだ

 ドリキャス製品はよく壊れることで有名で、多くのユーザーがコントローラーのLRトリガーをダメにしている。

 我が家にアケコンが5個あるのも、レバーの左右が入らなくなったためであった。

 他に、バーチャロン用のコントローラーがへし折れるなども有名だろう。


 しかし、パッド(通常コントローラー)とは――、素人だな。


 格闘ゲームは、操作スピードと精密な入力を要求されるため、基本的にアケコンが推奨される。

 単純に、親指よりも腕の方が速く動くからだ。

 パッドでも上手いプレイヤーはもちろんいるが、指のスペックが常人より優れていないと、普通はアケコン勢に勝てない。


 この時点で俺は麗の戦力予測を下方修正したが、油断はしない。

 麗はゲームが上手い。

 普段LOでも機敏な入力をこなしているため、常人より指使いが上手いのは間違いないだろう(なんかエロイな)。

 しかしそれでも、対戦素人ではお話にならない。

 時折ラノベなどで、普段CPU(コンピューター)戦しかやってないのに、対戦したら強かったみたいな展開があるが、あんなことは普通あり得ないのだ。

 CPUは人と違って、駆け引きをしないからな。



(麗の選択キャラは――ジョニーか)



「私、ジョニー好きなんスよ! 渋いし、声がノリピーなのも最高っス!」



 それには俺も激しく同意だ。

 ちなみに、ノリピーとは声優の若本規夫さんである。

 渋くないワケがない。


 俺の愛用キャラはヴェノムだが、念のためここはソルを選んでおく。



「おお、先輩はソルっスか! ソルもカッコいいっスよね。私の趣味じゃないっスけど」



 ネットではもうすぐ結婚5年目なこともあり、麗の好みは大体把握している。

 麗は年上好きというか、イケオジ好きだ。


 そんなやり取りから間もなく、試合が開始される。

 ドリキャスはロードも早い。



(開幕は様子見――と思ったら、ダッシュ投げだと!?)



 ギルティギアはリーチ(射程)の長い技が多く、試合開始と同時に当たる攻撃があるため、開幕は技を振ることが多い。

 俺はやっていた頃の記憶があやしいため、開幕は技を振らずに様子見したのだが、麗はそれを見越したかのようにダッシュから投げをしかけてきた。

 当然コチラが技を振っていたら被弾するため、かなり大胆な攻めである。


 このゲームの投げはガード不能で投げ抜けも不可、その上成立も非常に速い(1フレーム)。

 俺は見事に投げ飛ばされたのだが、その後の追撃で確信する。



(コイツ、やり込んでいる……!)



 ジョニーは、稼働から暫くの間は最強キャラ候補に数えられるほどの強キャラであった。

 その根幹を支えていたのが、通称「霧ハメ」。


 ジョニーには霧を発生させる技があり、その技に触れると居合切りの必殺技がガード不能となる。

 それをダウンした相手の起き上がりに重ね、ガード不能の居合切りでダウンさせる――という一連の流れをループさせる連携のことを「霧ハメ」と呼ぶ。

 厳密には完全なハメ技ではないのだが、脱出困難な連携のためハメという呼ばれ方をしている。


 ここで何もしなければ死ぬだけなので、俺は迷わず起き上がりに無敵技「ヴォルカニックヴァイパー」を出してハメを回避した。



「流石先輩! 知ってるっスね!」


「何が知ってるっスねだ! 相手の熟練度もわからないのに、いきなりハメようとするな!」



 もし俺が中級未満のプレイヤーだったら、何もできずに負けていた。

 麗の攻めはかなり性格が悪いと言えるだろう。



(そっちがそう来るなら!)



 俺はジョニーの得意距離にならないよう立ち回り、一瞬の隙をついて低空空中ダッシュから攻撃を当てる。

 そしてそのまま地上技に繋ぎ――



「……え? ちょ、ちょっと待ってください! 動けないんですけど!」


「連続ガードだからな。当然、動けない」



 麗は動揺したのか「っス」をつけ忘れている。

 しかし、動揺するのも無理はない。

 これこそ、ゼクスを悪名高くしている原因と言えるテクニックだからだ。


 結局、俺はそのまま麗をガードで固定させたまま、タイムオーバーまで殴り続けた。



「卑怯っス! 永パっス!」


「いきなり霧ハメしようとしたくせに、どの口がほざく!」



 ちなみに永パとは無限コンボの通称であり、一度当たると死ぬまで終わらない、本来対戦ゲームにはあってはならない代物である。



「だって、アレは攻略ページに載ってたんスよ……」


「フッ……、キャラ攻略ページだけじゃなく、全体の攻略ページも見ておくべきだったな」



 そうすれば、少しは対策もできただろう。

 まあ、わかっていても抜け出すのが困難なのが、この連携の悪いところなんだがな。



「今のは何なんスか?」


「今俺が使ったテクニックは、FDCD(フォルトレスディフェンスキャンセルダッシュ)という。詳しくは自分で調べるんだな」


「むーーーっ!」





 俺達は、そんな感じで夜近くまで対戦を楽しんだ。

(ちなみに、FDCDは使用禁止になった)



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