ネトゲの嫁が通い妻になった件

九傷

第1話 ネトゲの嫁は通い妻に進化(?)した

 


 ピーンポーン♪



(……またか)



 俺はインターホンの受話器を取る。



「はい」


魍魎もうりょうの、武丸だよぅ……』



(やはりか)



 玄関に向かい、ドアを開けると、そこには煌びやかな星の髪飾りをを沢山付けた少女――春成麗はるなりうららが立っていた。



「チッス先輩♪ また来ちゃいました!」



 来ちゃった♪ みたいな感じで人差し指と小指を立ててポージングする白ギャル。

 彼女はネトゲ(Life Online)における、俺の嫁である。

 ついこの前、結婚4年目にして初めてリアルで会うことになったのだが、それ以来ウチに入り浸るようになっていた。



「……もうそれはいいが、何故いきなり来るんだ。せめて連絡くらい入れてくれ。入れ違いになったら面倒だろ?」



 いわゆるサプライズ的なヤツらしいのだが、俺だってバイト等で不在の場合がある。



「大丈夫っス! 夫のスケジュールくらい妻として把握してるっスから!」



 確かに、基本的に家にいるときはLO(Life Online)に接続しているため、いない時間帯については把握されているかもしれない。



「でも、急にバイトが入ることだってあるからな? もし俺がいなかったら、どうするつもりだったんだ?」


「それは……、ネカフェとか?」


「そんなものは奥多摩にない」


「じゃあ、コンビニとか……」


「麗のイメージしているコンビニと、奥多摩のコンビニはかなり違っていると思うぞ。何せセブンもなければ、ファミマもローソンもミニストップもない。ついでに21時半に閉店する」



 厳密にはセブンはあるのだが、奥多摩駅からはかなり離れた位置にある。



「なん……、だと……。ここは本当に東京っスか!?」


「残念ながら、東京だ」



 そんじょそこらの地方よりもよっぽど田舎だが、正真正銘東京都である。



「じゃあ……、ドアの前に座ってスマホ弄ってるっス」


「それはやめてくれ……」



 我が家は何の変哲もない民家だ。

 2年程前に、祖父と祖母が亡くなって空き家になったところを、俺が引き継ぐカタチで住むことになった。

 ご近所付き合いはないが、近所の人はウチの事情を知っているため、そんなところを目撃されると非常にマズイことになる。

 田舎は人が少ないが、噂に関してはすぐに広まるのだ。

 そして、あらぬ噂が広まるとバイト先の店長の耳に入る可能性があり、そうなると俺の立場が危うくなる。



「……これ、渡しておく」


「……え? これ、は?」


「合鍵だ。俺がいなくても自由に入っていいから、ウチの前で待つのはやめてくれ」



 俺がそう言うと、麗はしばし固まっていた。

 しかし数秒後、ポロポロと涙を流し始める。



「嬉しい……」


「っ!」



 くしゃりと歪む表情に、俺の方がドキリとさせられる。



(おい、っスはどうした! キャラがブレてるぞ! いきなり素に戻るな! ……どんな反応すればいいかわからなくなるだろ!?)



「と、とりあえず中入れ!」



 こんな状況を誰かに目撃されたら非常にマズイ。

 家の中に招き入れると、麗は振り返って俺の胸に飛び込んできた。



「ぐすっ……、先輩に、泣かされたっス」


「す、すまん……」



 当然泣かせるつもりなどなかったが、謝るしかない。



「この鍵、どうしたんスか?」


「え~っと……、こんなこともあろうかと、作っておいた」


「じゃあ、なんで、俺がいなかったらどうするなんて聞いたんスか」


「それは、いきなり渡すのは悔しいというか……。あれだ、サプライズというヤツだ」



 俺も最初は麗のサプライズにドキリとさせられたのだ。

 このくらいの仕返しは許されるだろう。



「ぐすっ……、やられたっス……」



 麗は鼻をすすりながらも、笑顔を向ける。

 可愛いが……メイクが乱れて酷い顔になっていた。



「やられたのは、俺の方だよ。これ、洗って落ちるよな?」



 麗が顔を押し付けていた箇所が、メイクやらなにやらで酷いことになっている。



「あ、すいません……っス。大丈夫っス。水で落ちるんで。多分」



 まあ、メイクなのだから落ちないことはないだろう。

 とりあえず、シャツは洗濯籠に放り込んでおく。



「きゃ♪」


「きゃ、ってこの前も見ただろう」



 何せ麗は、既に何度か家に泊まっている。

 裸くらい何度も見られた。


 ……無論、シャワーを覗かれただけで、やましいことはしていない。



「それで、今日もLOするのか?」



 替えのシャツに着替えながら、今日の予定を確認する。



「LOももちろんするっスよ。でも、今日は別のゲームも持ってきたっス」



 麗は鏡の前で簡単にメイクを整えている。

 そんなにベタベタにメイクをしている様子はないが、おめめパッチリ的なメイクはしているようだ。

 ササっとメイクを整えた麗は、ポーチから一枚のCDケースを取り出した。



「こ、これは……」


「はい!GUILTYギルティ GEARギア Xゼクスっス!」


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