~古来の父より~(『夢時代』より)
天川裕司
~古来の父より~(『夢時代』より)
~古来の父より~
煮詰まる想いを散観(さんかん)しながらどんどん過ぎ行く気色を見詰めて現行(ここ)まで来たが未だこれと言うほど自信に対する糧というのに巡り合えずに堂々巡りに尻尾を巻き遣る杜撰が目立って落胆して在り、俺の情緒は見る見る痩せ行き物の陰にて体(たい)を失(け)すほど立場を窄めて、明日(あす)に向き行く私闘の程度に弱って行った。傍(はた)からされ得る「結婚話し」に如何(どう)と言うほど動じる間も無く、俺の身勝手(かって)は滔々突っ伏し転倒(たお)れて行くが、それでも認(みと)めた他人(ひと)の幸(こう)など艶(あで)に輝き、つい一昨日(いっさくじつ)まで容易(やす)く拾えた露わな仕草も醜女(しこめ)が鏡に悪態吐(づ)くほど変らぬ道理にすっくと立ち寄り、自分を見上げる努力を講じる生きる強靭(つよ)さに絆され如何(どう)にか結論(さいご)を上手く纏めて自身に置かねば落ち着かないのを充分見て取り鬱に気張って、呑気にして居た日頃の総躯(そうく)の源(もと)を掲げて夢想(ゆめ)に失(き)え活き「明日(あかり)」へ向いた。
「明日(あかり)」へ向け遣る無垢な労苦を夢想(ゆめ)を象る手腕に見付けて俺の前途は洋々呑気に騒いで在ったが幾度と発した小声の在り処は〝堂々巡り〟に四肢(てあし)も脳まですっぽり隠した人間(ひと)へと汲まれて徒党を組み得ぬ孤狼(ころう)の主(あるじ)は俺へ跳び付き従順(すなお)に落ち着き、如何(どう)にも出来ない「明日(あかり)」の在り処を棒にするほど両脚(あし)を馴らして捜して行きつつ「結婚話し」は煙(けむ)に巻かれて遅延していた。一体現行(ここ)まで誰の手に拠り独歩(ある)いて来たのか一行分らぬ景色を見て居り足早ながらに記憶へ埋れた自分の活力(ちから)に陶酔しながら俺の〝主(あるじ)〟は何処(どこ)へ行くのか分らぬ内にて俺を見付けて堂々佇み、他人(ひと)に生れた事変等へは一向寄り得ぬ孤独を朗(ろう)じて主義(イズム)を片手に、昨日まで観た夢想(ゆめ)の小片(かけら)を大事に携え俺へと寄るのは、慌てふためく俺の〝無垢〟にも純心(こころ)が騒いで直立して行く嗜好の業(わざ)など誰にも知られずこっそり落ち得た証拠であるなど俺の姿勢(すがた)は安堵へ向くまま透った過去へと惹かれて在った。
夢想(ゆめ)に移った環境(かたち)の程度は俺にとっても他人(たにん)にとっても白く灯った長丁場にさえ薄ら上がって細々成り立ち、黄色灯(シャンデリア)に観た懐疑(レトロ)の空間(すきま)に煌々盛(さか)った華(みず)が漏れ出しそのうち化け活き、俺へ対する〝一通路(いっつうろ)〟へなど俺と皆(みんな)を掬って誘(いざな)う活路を灯して騒いであって、俺の心身(からだ)は無造作に観た〝定めの牙〟など未熟に灯(ひか)って化粧をし始め、滔々止み得ぬ〝会場(かたち)〟を造ってひっそり独歩(ある)いた没我の俺さえ器用に掬って堂々居座る。誇張を着飾る紳士の人群(むれ)など後光を垂らして目前(まえ)へと居座り、白いクロスに程好く覆われ奇麗に並べた食器の数など無数に輝く手数(てかず)を魅せつつ今日(きょう)に育った人間(ひと)の温(ぬく)みを如何(どう)ともせずまま戯れさせ活き、人間(ひと)へ見立てた〝定め〟の恋雅(れんが)を空気に解(と)かせて俺へと直れば、俺が手にした感動(うごき)の程には意味を掴めぬ虚無の程度が経過を知り行き「明日(あした)」へ独歩(ある)き、紳士(ひと)の温(ぬく)みに微温(ぬる)さを観たまま自分へ直った気性の程度に程無く落ち着く言動(うごき)を知り得る。
さて、俺の腰には枷が巻かれて怠さが生じ、「明日(あす)」へ向くのも倦怠から出る牛歩の調子に調子を合せた堅い気力があっさり輝き逆上せ上がって、周囲(まわり)に集(つど)った誰を観るのも到底適わぬ〝塵の懐古〟がどんどん先行(はし)って俺から離れた〝微温〟に寄り付き涼しく成り立ち、クロスを被(かぶ)った机の上には黄色に輝く銀食器(しょっき)の手練れが過小風味(かしょうふうみ)に宜しく立ち寄り黄色灯(あかり)に漏れ得る懐疑(レトロ)な調子に如何(どう)にも共鳴(な)くまま唖然と在るが、人生(みち)を独歩(ある)いて〝風味〟を吟味(あじ)わう余裕(ゆとり)を失くした俺の気色に小さく漂う労苦の辛酸(にがさ)は苦渋に企図した過去の分身(おれ)だと折り無く諭され背後(うしろ)に見たのは美味を失くした女人の程度と具に吟じる小唄の内にて程無く興じる。俺の周囲(まわり)に容易く集得(つどえ)た虚飾の程度は虚飾程無い無効の気色へ程無く降り立つ使途を講じて容易く見て取れ、味気の無い程あっさり過ぎ行く道程(どうてい)などには会(かい)を擁する施設(いえ)に準ずる常識(かたさ)の内にてほっくりして居り俺の掌(て)になど一縷の希望(きざし)が見えぬ儘にて経過の織り成す哀れな景観(ようす)が旅廻りをして細く成り立ち興醒めしていて、都会を知り得ぬ田舎暮らしの寡の会(かい)など俺へと唄って呑(のん)びり気取り、俺の加熱は気迫に寄らずに夢想(ゆめ)の外界(そと)へと意図を垂らして胡坐を搔いた。踏ん反り返った素人(ひと)の野望(いしき)は過去にも今日にも現行(いま)を透して野平(のっぺ)り降(ふ)り立つ華(あせ)を片手に未踊(みとう)を愛し、膨れ上がった腰の〝行儀〟は他人(ひと)を見ずまま感覚(いしき)を過ぎ行き夢想(ゆめ)の水面(みなも)に薄ら延ばされ涼風(かぜ)の微力(ちから)に雪の微音(おと)にもしっかり反する固陋を手にして遊泳させ活き、遊泳(あそ)んだ腕(かいな)は俺の思惑(こころ)へしっかり根付いて〝堂々巡り〟へ相対(あいたい)するまま眠気に絆され他人(ひと)に対する煩悩(なやみ)の種など、〝没我〟へ触れては大事に手に採る。未熟に輝(ひか)った曲体(からだ)を捻曲(ひんま)げ、更にくねらす無限の境地へ恐らく独歩(ある)いて個室(へや)を繕い〝自分の為に…〟と容易(やす)く仕上げた手玉の案など程好く牛耳り奪(と)れ得る他人(ひと)の唾棄(あぶく)に大凡見て取り気力を博し、ふっと過ぎ去る「明日(あす)」への労苦を識別され得た夢想(むそう)の静寂(しじま)へ薄く放(ほう)って見限(かぎり)を知るのは自分に課された延命なのだと静々認(みと)めて同調していた。過去に夢見た夫婦(つがい)の空間(すきま)に微温(ぬる)さを従え緩さを灯す、他人(ひと)の絆に細(ほっそ)り立ち生(ゆ)く理屈を撥ねては充分落ち着き、行李を携え私闘に阿る不倖(ふこう)な〝水面(みなも)〟は俺に採られて気弱に在るなど、在る事無い事是非の有無さえ私情に問い得ぬ身軽な空虚が薄ら成り立ち俺をも従え、紫煙(しえん)に揺らいだ俺の丈夫は孤高を観るまで独身(ひとり)で独歩(ある)き、末に観たのは気色を化(か)え得ぬ未踏に準じた他人(もぬけ)に在った。俺に纏わる「結婚話し」が婚約秘話から揚々成り立ち両親(おや)の手元を順繰り離れて他人(ひと)を介して俺へと入(い)ったが、俺の胸中(うち)には他人(ひと)と話せる火種(たね)など無いまま駄弁に帰し行く一方伝いが程好く成り立ちすごすご返った成人式など自分に居座る冷めた記憶が遠鳴(とおな)りして居り、話題(はなし)の佳境が下降へ這入れば自ずと冴え得る妬みの妄言(げん)など土着した儘「明日(あす)」を見据えて闊歩して活き如何する間も無く流行(なが)れる経過(じかん)は俺と知己とを末無く見守り悶々する儘、憂いを注いだ俺の用途は限界(かぎり)を知るうち父と母とを向こうへ置き遣り無理矢理破った婚約(ちぎり)の白紙(かみ)など造作に手に取り自然気儘に気分を透して涼しい流風(かぜ)にも相対(あいたい)していた。
白衣を被(かぶ)った丸テーブルには柔く集得(つどえ)た他人(ひと)の名札がきちんと乗せられ、凡そ一つに八人程度の用意が為されて俺の目前(まえ)では纏まる個数(かず)さえ拡がる程度に、大きく小さく捉えられない広間の内にて延ばされ在ったが、黄色灯(あかり)に煌めく銀食器(しょっき)の手元に他人(ひと)の話題(はなし)が温(ぬく)みを呈して湯気立つ加減に自体(からだ)を拡げて寝るのを観遣(みや)ると、自然(じねん)に活き就く快感(オルガ)の頭数(かず)など誰に向かって吠えて在るのか、漸く澄み行く虚無の身内(うち)にて掛かりを忘れた菊の態(てい)して撓(しな)んで有り付き自体に欲した人間(ひと)の温(ぬく)みは俺を越え活き撓(たわわ)に在って、〝現代・モダン〟の気色に華々(はなばな)散らされ虚空(そら)へ返った以前(むかし)の記憶も俺の空想(おもい)へ遺らぬ内にて「明日(あす)」へ向かって逃避を図る。根強く残った俺の分身(ゆめ)には人こそ知り得ぬ〝モダン〟が有り付き、虚無の苛烈を残さず平らげようなど「明日(あす)」を配する神秘へ目掛けた孤狼が在ったが空気へ透り、想像(おもい)を保(も)たない〝湿気〟に見慣れた奇妙な自活(かて)など器用に寄り添い独走(はし)って行って、疾走(はし)り疲れた空想(おもい)の身内(うち)には腰巾着にも始動にも似た新たな余談が葛籠生(つづらな)りにも乱れて落ち着き散乱していた虚無の空気は俺を講じる〝空間(すきま)〟へ陥り見得なくなった。
呼吸(いき)に困った俗世の俺には俗世に居座る未熟が華咲(はなさ)き奇麗に佇む暴徒が居座り虚言を掲げ、胸中(うち)へ認(みと)めた白紙の表裏に過去に仕舞えた〝華(みず)の塒〟が虚無を引き連れ静かに成り立ち、頭を動かす他人(ひと)への視線を器用に動かす合図が立ち活き薹を失い、大きく居座る景観(けしき)の群れには徒労に華咲く予兆(きざし)が在ったが、会の内には俺を現行(これ)まで凡庸(ふつう)に生育(そだ)てた両親(おや)が居座り人群(むれ)へと解け得て、黄色灯(あかり)に集(つど)った三人衆には気持ちを通わす微弱な通路が涼しい顔して止まって在った。げんなりして行く俺の温(ぬく)みは他人(ひと)を介して上気を保(たも)ち、「明日(あす)」の為にと暫く通えた人群(むれ)へ成り立つ〝始動〟の詳細(こまか)を懐(うち)に捕えて細(ほっそ)り成り立ち、「結婚話」や「婚約話」に非常に華咲く司祭(あるじ)の嘔吐に久しく付き合い逆上せた表情(かお)には尋常(ふつう)に観得ない湯気が気立(きだ)ってほくほく在ったが、それでもこうして人間(ひと)へ解け行く偶然(きかい)の成立(かたち)を無下に放(ほう)って悪態吐(づ)くのは道義に反して明るくない等、悟り顔して単に呟く俺の赤面(かお)には恥辱に濡らした背面(かお)が成り立ち気丈を携え、経過へ暮れ行く人間(ひと)の淡さをどんどん奪(と)り行く嗣業の延命(のばし)に一向振り向く悔いを観たまま俺の感覚(いしき)は棒に上(のぼ)って功を手にした。
俺の傍(よこ)には不動に講じる定めが成り立ち自然に息衝く〝三寒四温〟が優(ゆう)に遊泳(およ)いで楽観して居り、女性(おんな)に生れた女というのが一人も添わずに孤独に暮れ行く俺の程度を遠目に見遣って落ち着いて在り、如何(どう)して今頃のそのそ独歩(ある)いて現行(ここ)まで来たのか、何を夢見て会に居座り、流行(なが)れる空気に名残を見初めて座って居るのか、〝何の為に…〟とほとほと呟く熱意に絆され今日に在るのが苦しく在ったがそれにつけてもパーティ気分は拍子抜けせず白気(しらけ)を見せずに重々遊泳(およ)いで闊歩していて俺さえ要し、〝要(かなめ)〟を忘れた〝望遠鏡〟には誰も映らぬ魅惑の進度(しんど)が輝(ひか)って上手に自体(おのれ)を見て取りうっとり気取り、弱弱しいまま俺に埋れた過呼吸(いき)の脚色(いろ)には初めから在る少年(こども)の姿勢(すがた)が用意され得た。少年(こども)の姿勢(すがた)を遠くに観ながら自分へ集(つど)った他人を見遣ると、知己の顔した多数の人群(むれ)さえ姿勢(すがた)を化(か)え活き小声で周辺(あたり)を見回す興味を辿って俺へと直り、初めに見せ得た微温(ぬる)い優美を仔細に取り上げ化かして黙り、途端に離れた空間(きょり)さえ縮めて見ようと湯気を垂らした単色軽舞(ものくろさんば)に活気を収めて俺へと近付き、各々自分に呈する富貴を手にしてしどろもどろに異性を掲げ、自分が手にした嫁の話や婚約話を容赦せぬまま轟々鳴らした喉の奥にて俺への自慢話に美醜を添え得る手腕を寄らせて俺へ居座る新たな姿勢(しせい)を固く保って立脚していた。ふっと小躍(おど)った空気に対して参列して在る無謀な衒いは虚飾を講じ、俺が仕えた光沢(ひかり)の世界は自体(からだ)を拾って大きく畝(うね)り、俺から離れて飛び込む意識を如何にか斯うにか握り飯など軟掌(やわで)に包(くる)んでこさえるように、微温(ぬる)い上気に絆され行くまま会の空気は束の間ながらに俺を連れ去り〝経過〟を続けた。俺の心身(からだ)は如何(どう)いう場所へと阿り行くのか甚だ分らず自活に芽生えた〝虚無〟の感覚(いしき)は防御を策して丈夫を採ったが、淡い期待につい又絆され、聴える両耳(みみ)には匂いが伝わり別の会(ばしょ)にて夢想(ゆめ)を決め行く光沢(ひかり)が舞い落ち俺の周囲(まわり)を充分掬って連れ去ったのだが、何分(なにぶん)元の会(ばしょ)にて覇気の小躍(おど)らぬ下品を見て取り自分にとってもナンセンスなほど空虚の漂う白紙が曲がって元さえ取れず、堂々巡りに尻尾を巻いて逃げ出したのさえ、自分にとっては恥辱と映って恰好(かたち)が見得ずに言葉限りの小唄を歌えば暗雲漂う過密に解け行き俺から総じて見得なくなった。何処(どこ)に居てさえ退屈(ひま)に巻かれる虚無を並べて、退屈(ひま)から逃れて自分の嗣業(ゆめ)をと腰を持ち上げいざ退屈(そこ)から脱して世間へ出れば、狡く濁った強靭(つよ)い巨木が権力(ちから)を引き連れ我執を先取り、欲の眼(まなこ)に投身するまま弱者を煎じてお茶など呑み干す。そうした毎日(ろうや)を素通りせぬまま陽光(ひかり)を浴びつつ人間(ひと)をも恨み、続行され行く孤独に乗じて現行(いま)が在る故、こうした自分へ辿り着くのは一向変らぬ自然に在るなど充分納得(わか)って仄(ぼ)んやりして居り、何に対すも稼ぎの取れ得ぬ〝俺〟に生れた主人公(にんげん)等にはこうした会(ばしょ)さえ如何(どう)であっても一向変らぬ修羅場へ落ち着き立身して生(ゆ)く如何(どう)いう術(すべ)さえ大して奪(と)れずに悲観して行く態(てい)に落ち着く。そうした角(かど)から俺の居座る丸テーブル迄とことこ居着いた他人が在って、良く良く見取れば現行(いま)に来たのか過去から居るのか何方(どっち)付かずの姿勢(すがた)を維持して低く微笑(わら)った呑気さえ在り、俺が来るのを待ってた体(てい)にて忙(せわ)しく在らずに一席(ひとつ)へ落ち着き、そうした隙での彼女の盲(もう)には敢えて俺から呑(のん)びり反らした目線の果(さ)きにて、揺ら揺ら揺れ立つ景観(けしき)を見て取り無駄には動かず通り過ぎ行く娘を仰いで俺の懐(うち)へと滑り這入った。四十前後の麗女(れいじょ)であった。契りを交した男性(おとこ)が在るのか空(くう)へ紛れて掴めなんだが、歳の割にはでっぷりして在り大きな体躯は小さく纏まり女性を表し、俺の目前(まえ)では香水なんかを仄かに匂わせ、律儀に座った会の内では年増なれども女だてらに興を操る清潔感さえ具えてあった。女性(おんな)の上気が平々(ひらひら)揺らめき密かに燃え立つ悲壮な気迫は自身を立たせて俺へと対し、静寂(しじま)へ渡った〝転生〟などへは自分も見知らぬ識女(しきじょ)が奏して悪態尽くされ濁った空気を会の内にて浄化させ得る微力を宿して聡明に在り、建白にも似た女性の主張(こえ)など何にも増し活き俺を包(つつ)んで縫合して居り、静寂(しじま)に対して欠陥だらけの俺の無垢など彼女を通して立派に成り立ち〝堂々巡り〟の経過(とき)の胴へと安泰目指して疾走(はし)って行くのは彼女の傍(そば)にて至極自然の行為にもある。俺はそうして会の内にて新たに芽生えた現世(うつしょ)を見て取り、楽観して生(ゆ)く英気に従い女性の芳香(におい)に素早く跳び付き笑って在って、自信に宿った蛻の当てには一切寄らずに彼女が来たのを合図としたまま一向変らぬ会の空気に自分に立て得る機転を知ろうと躰が仰け反り躍起にあった。母親まで程年端の行かない婦女を相手に緩々流行(なが)れる微温(ぬる)い空気に涼しく成り得て、容姿(かたち)の座らぬ一つの〝空気〟が婦女へ根付いて手招きしたのは俺へ対する誘いでもあり、一層気立った俺の両眼(まなこ)は飢えた腹にて流転に頬張る歯切れを知った。婦女はそうして何にも言わずに暫く黙って他人を装い、狂々(くるくる)流動(うご)いた経過(とき)の内にも整う容姿(かたち)を真っ向から魅せ俺への興味に脚色(いろ)を付けたが、次第に固まる気配に準じて俺の目前(まえ)だけ明るく咲き得た小路(しょうじ)が現れ、そうした一通等へは女性(おんな)を灯した彼女が明るく、一層明るい闇の果てには根こそぎ攫った俺への化身がひっそり佇み煩悩(なやみ)の主(あるじ)を照らして在った。堅(かた)まる暗気(ムード)に虚などを突かれて肩押しされ得た俺の覇気には女肉(にょにく)を噛みたい懊悩(なやみ)があったが律儀に灯った道理の果てには自然から吹く冷風(かぜ)を知り抜く脆(よわ)さが落ち着き疾走出来ずに、俺の志気には少々曇った視点が芽生えて正義が吃り、彼女を見据えた野蛮な心算(つもり)は挙句の果てには脚(きゃく)が折られた。暗算(やみ)に落ち得た夢想の果てには当てを失くした人間(ひと)が現れ虚無を呼び込む再度の主宴(うたげ)に生娘(むすめ)が宿って体躯(からだ)が解(ほど)け、俺の前方(まえ)では転々(ころころ)化(か)わった気性の程度が人生(いのち)を嘲笑(わら)って立脚して在る。
そうした静寂(しじま)を細(ほっそ)り見遣って追い付く虚無には一瞥せぬまま遠(とお)に過ぎ得た涼風(かぜ)の塒(ありか)を順々探った斑(むら)の姿勢(すがた)が、二度目に観得ない初心(こころ)の比重に不動に棚引く熱意が灯って軽々しくなく、容易(やす)く翻(かえ)らぬ純心(こころ)の重みを女肉で覆った厚みに見て取り二度目に咲き得ぬ虚無の領地に新参して行く。微風程度の人間(ひと)に芽生えた流動(うごき)の流行(なが)れが俺へと落ち着き微笑(わら)って在るのは婦女が転じた孤高の鵜呑みに容易(やす)く小躍(おど)れた俺の所為にて、誰もが徒労に達観するほど安堵に揃えた〝物の哀れ〟を如何(どう)にも出来ずに危惧に在るのを顕著に表し優遇され活き、俺の熱気は途端に冷め得て彼女に対した本心等には歪みが転じて撓(しな)んで行った。白紙の明かりに〝一字、一句〟と器用に刻んだ熱気の晴嵐(あらし)は誰にも敗けずに独身(ひとり)を宿して気丈に在ったが、経過に伴い緩々解(ほど)ける緊張(かたさ)が敗れて情緒を伴い、〝潰えて妙…〟など、風上(かみ)に置き得た人間(ひと)の情(じょう)など真面に鳴かずに俺へと向かずに俺の虚無には一新され得る孤高の晴嵐(あらし)が前途を照らし、俺の心身(からだ)を上手に仕立てる奇策を掲げて温もりに居た。
全く知らない〝小母ちゃん〟風情を孤独を引き連れ相手に取って、自分の苦慮など分配しようと稚拙に唱えた愚弄の手数(かず)には、程好く輝(ひか)った自重が落ち着き頭(こうべ)を垂れ得て落胆し始め、やがて会から早々(するする)脱(ぬ)け出た俺の両脚(あし)には誰も知り得ぬ個化(こか)に萎え行く思相(しそう)の順など定理(きそく)に従い純曲(じゅんきょく)して在り、何はともあれ白眉(はくび)を照らした道理の手順は太古から成る賢人紛いを正(せい)に据え置き苗床を観て、自分から成る悪堕(あくだ)の頭数(かず)には比類さえ無い憔悴して生(ゆ)く身柄の四温(しおん)を今か今かと計測してある。俺の心身(からだ)は微温(ぬる)く騒いだ怠惰を擦り抜け、徒労に喘いだ虚無の身内(うち)からひっそり灯った孤高を見て取り精進して活き、立派に象る道理を睨(ね)め付け自分へ課された一通路(いっつうろ)へ立ち何処(どこ)へ向けども多望(たぼう)を称する吟遊詩人に総身を挙げ得た。とことこ辿れた自宅の居間には会の内にて最初に見付けた俺の両親(おや)など気安く座って談笑して在り、落ち着く空間(ムード)に気性を漏らさず温もる上気を巧く捉えて傍観しながら〝核心部分〟を母より容易(たやす)くすっと見て取る父へと寄り添い綽(やおら)に直り、
「小母ちゃんが俺の傍(よこ)に座って来て、小母ちゃんと結婚しよか!?って言ってたわ、ふざけてやでぇ」
と半ば微笑(わら)って底は本気に、如何(どう)する間も無く経過へ寄り添い、熱気と陽気を仲(あいだ)へ漏らさず、射止めた冗句を手玉に取り次ぎ自分に宿った悲運の程度を固め尽して失(け)して遣ろうと、俺の脆(よわ)さは父へ向かって大きく飛び立ち裂肛していた。冷めた空気に朦朧し始め、運気(うんき)を逃がして落着してたが、そうした俺にもやがて相対(あいたい)して行く環境(あたり)が生じて熱せらて活き、父と母との目前(まえ)にて自然にほっこり笑える朝の光沢(ひかり)が灯り始めた。父も母も笑いながらに俺の帰着を喜んで居た。遣り切れないうち自宅へ居着いた俺の自活(かて)にはこうして温もる苗床(ねどこ)が居座り〝志気〟さえ牛耳り、溜(たん)まり火照った魅惑の長(ちょう)など、呼吸(いき)をし始め二度目に変らぬ永遠(とき)の効果を愛して在りつつ佇んでいた。父にも母にも実の処は、俺の傍(そば)へとそうして転んだ婦女の姿勢(すがた)が珍重ながらに可笑しく在って、そうして芽生えた未熟な刹那にそれでも喜ぶ息子の姿勢(すがた)が感涙呼ぶほど尊(たっと)び得たのか失笑せぬまま端座に在るのは至難の様子で崩れただけにて、そうして黙った父母の内実(うち)など夢想(ゆめ)の手腕に寄り添う我が身は容易く看破し次の動作に辟易し始め、それでも独歩(ある)いた過去への記憶がこんな時こそ不敵と成り得る大胆装い我が身を立て活き、〝現行(いま)では惨めに居場所が無いが、現行(ここ)に生れた俺というのはこうした人生(いのち)に活きて行くのが嗣業に落ち着き使命であって、天へ結んだ絆の果てには、俺の為だけ用意され得た元の会(ばしょ)などきちんと添えられ主(あるじ)に寄り添い、現行(ここ)にてするべき宿命(しごと)を終えれば現行(ここ)にて苦労の末など未熟に上(のぼ)らぬ功と見て据え俺の人生(いのち)は包(くる)まれ得るのだ。地上を愛さず天へ向かって狼煙を上げよ、天へ積まれた徳の果てには必ず大きな主(あるじ)が現れ俺の労など幸せを呼ぶ。生れた幸(こう)には主(あるじ)が背負った人間(ひと)の影から溢れんばかりの祝福(めぐみ)が流れて独身(ひとり)を呑んで、俺に居座る孤独の糧には何時(いつ)か知り得た主(あるじ)の影響力(ちから)が大きく働き俺の独身(からだ)を宿してくれる…〟と怒涛に活き得た独語(ことば)の調子が轟(ごう)っと鳴っては緩々撓み、乱れる精神(こころ)を自由に落ち着け立身され得た嗣業の類(たぐい)は俺へ止まって人生(いのち)を見付けて気丈と成った。
従弟に居着いた一番下の我が家の男が長い期間(あいだ)を上手に潜(くぐ)って漸く誰かと婚約した末結婚して居り、我が家の男に漸く巡った初春(はる)の宴に満悦しながらふっと返れば妬みにも似た気丈が立ち活き、一杯被(かぶ)った過去の内から帳尻合せた苦労を取り上げ俺は俺にて悶々し出して私闘を展(てん)じ、外方(あさって)ばかりに開き直った二人の従兄(あに)へは苦笑するうち寒さが芽生えて昇進して行く従弟(おとこ)の姿勢(すがた)に脚色(いろ)を講じて暴言吐いて、兄弟揃った二人の従兄(あに)へは一向変らぬ寒春(かんしゅん)ばかりが気楽に訪れ配偶者(おんな)は来ぬ儘、次第に流行(なが)れに耄碌して生(ゆ)く二人の従兄(あに)へは不甲斐の情(じょう)など高々(たかだか)上がって憎み損ねた安堵の表情(かお)などどっち付かずに正義を発して二人へ寄り添い、兄弟揃って結婚出来ない定めの尾鰭は従弟(おとこ)へ色付く気配を読み取り俺の目前(まえ)には静かに固まる。遣り切れないほど嫌気が延び得た従兄弟の空間(あいだ)をそれでも跳ね活き現行(ここ)まで辿れた俺の姿勢(すがた)は誠に透って純(うぶ)な対象(もの)にて、結託知らずに奔走して居り、久しく居着いた初春(はる)の香も他人(ひと)との空間(あいだ)で共有出来ない徒労の愛撫が充満していて俺への確固は気丈に成り立ち従兄弟の残影(かげ)さえ再び返らず新たな人生(みち)など用意し尽し土台を講じ、他人(ひと)の幸せばかりに肖り幸(こう)を見送る不甲斐の体(からだ)を俺の身に据え〝定め〟を眺め、我が家の内から漸く出て来た跡継ぎ等への連想(ドラマ)を立てつつ哀しく成り果て、俺の気色は当てを忘れて会から外れた自然の界隈(そと)など大手を振りつつ独歩(ある)いて在った。二人の兄弟、従兄弟と同じに、俺の体躯もそよそよ衰え、経過の内へと埋没して行く活気を追い掛け独身(ひとり)を愛し、結婚出来ない憤悶(ふんもん)ばかりが俗世を離れて天へと居着き、自分に向かった結婚話を他人(ひと)へ出来ない定目を睨(ね)目付け悶々しながら、男性(おとこ)と女性(おんな)が番(つがい)で生れた自然の恩恵(めぐみ)に祈る振りして悪態吐(づ)き活き以前に固めた独身(ひとり)の覚悟を再び大きく揺さ振られ得る人間(ひと)に生れた気色の程度に、覚悟を固めて再びそよそよ流行(なが)れる葦には〝暴挙〟を嫌った理性の両脚(あし)などふらふら独歩(ある)いて向かって行った。
未婚に在るのが当然ながらに俺のchaosは益々混沌に就き、俺の今後を曖昧ながらに想い図って生粋(もと)の論など立て続けていた。未婚に在るのが妥当とさえも、これほど結託して活き俺の周囲(まわり)を確立するほど理想の女性(おんな)が現れないのを具に講じて継続され行く景色を観てると、遍く試算は白紙を介して放っとき置かれて俺の心身(からだ)がずんずん独歩(ある)いて孤独と成るのが至極道理に想え始めて、何処(どこ)へ行っても、教会でさえ、自分に寄り付く原色(いろ)の司祭(あるじ)は他人(ひと)を遣って人間(ひと)を立て挙げ、〝俺の瞳(め)にさえ奇麗に在る〟との一報含んだ報知を汲み得て俺へと向かい、俺の為にと神に用意され得た〝定め〟の行方に頻りに頷く妄言擬きは幻視を透して奇特には無く、俺の定めにきちんと収まり〝零〟と〝一〟との事の有無さえ頻りに嘲笑(わら)った俺の過信が旗揚げしたまま人間(ひと)を遺棄する神の空想(おもい)に辟易してある。若い娘の誰を観てさえ最早変らぬ幻視を見詰めて唾棄の如くに、ぺっと吐き捨て次へと赴く身軽な様子に退屈して活き「明日(あす)」を見て取る俺の無垢には当ての無いのが自然と成り行き、落ち着き払った〝定め〟に対して両親(おや)の表情(かお)さえ一々見て取れ如何(どう)する間も無く世界を知るのは億劫ながらに地道に根付き、期待(ゆめ)の無いのが端(はな)から決った規則(ルール)なのだと俺の純心(こころ)はすやすや寝付く。
俺の心身(からだ)は過去から現行(いま)まで容易(やす)く言動(うご)けた自在を手に取り独歩が向くまま右へ左へ疾走(はし)って在ったが、透明色した白壁(かべ)と向き合い、一切流行(なが)れぬ無尽(むじん)を手に採り眺めて固まり呆(ぼう)っとする内、仄(ぼ)んやり灯った〝期待(きざし)〟が華咲(はなさ)き、暗(やみ)の郷里(くに)から母が来たのを円らな眼(め)をしてじいっと見入り、父の姿勢(すがた)が定まらないまま経過(とき)の次第が動いて在るのが一向眩しく判り切れずに、〝堂々巡り〟の不動の過去には白壁(かべ)に供(とも)するお茶目な分身(からだ)が俺に吹き寄り甘えて行くのを、遠い境地へ置かれた〝虚無〟から薄ら報(しら)され合意を共にし、厚手の上着に順繰り着替える現行(いま)の記憶に衣さえ無い幼い〝夕日〟が勝手に輝き沈んで行くのは俺の「明日(あす)」への必要事(ひつようごと)など巧く連ねる無用の司祭(あるじ)の成せる業(わざ)だと密かに頷き佇み在って、遠(とお)に怖気(おじけ)ず前方(まえ)に延び得る延道(みち)の上にて肢体(からだ)を馴らして気丈に在るのは母へ根付いた空想(おもい)の体裁(こと)だと常識(かたち)に追い付き納得して在る。俺の識別(いしき)は空路を透してふらふら飛び活き、母へ根付いた強い蜃気(しんき)を巧みに携え鼓動に呼吸(いき)し、母の他には誰も無いのを感覚(いしき)に捉えて気配を気にして、在る事ない事謳われ得ぬのが自然の講じる活気なのだと密かに安堵し蛻に着替え、独歩(ある)き始めた〝気色〟の脚色(いろ)から父と従弟とKとを表し、Kへ懐いた微妙な人などKの教会(いえ)からそっと下(おろ)して具に認(したた)め具現(かたち)へ化(か)えて、皆の背後に静かに在るのがこれ等の景色を〝上気〟に講じた母親なのだとすっと捉えて悶々落ち着き、俺を含めた皆の躰は疲れる外界(そと)から還った程度に未熟に震えて無頼に解け入り足の下には大きく居座る孤踏(ことう)の上手がひらひら飾られ母の表情(かお)には孤独すら無い。皆の肢体(からだ)は何時(いつ)か何処(どこ)かですっかり憶えたデパートみたいな大きな社(やしろ)を歩いて来たのか、微温(ぬる)く疲れた枷の辺りがしっとり濡れ得てきらきら輝(ひか)り、草臥れ損ねた情緒を気にして緩々流行(なが)れる経過(とき)の目前(まえ)には大きく延び得た声明(こえ)など拡がりどっぷり浸かった辛苦の矢先(さき)には「明日(あす)」を誘(さそ)って動転している気弱な分身(あるじ)が様子を観ながらまごまごして在り、過去に盛った〝結束遊戯(けっそくごっこ)〟に終着(ゴール)を見据えてわなわな震え、震撼され得る〝気丈の気色〟は所々で罠を仕掛けて皆の行く手を押さえ始める奇妙な動作に自ら這い出て自体を寄り添え、滋養の詳細(こまか)を直ぐさま気にしててくてく寄り付き気儘に見るのが俺に芽生えた犠牲の精神(こころ)と俯瞰しながら教区を仕切り、臨時に咲き得た未熟の衒いと阿漕に知るのを俺の思惑(こころ)は漸く知り得て闊達足る儘、皆の背後にしっかり寄り添い丈夫に在るのは矢張り〝母〟だと今日に連ねた連想(ドラマ)の内にて執拗向くまま再認して居り、俺の故習(ドグマ)は教義を生むのを拒みながらに冷たく仰け反る現実社会にほろほろ散り行く人為を睨(ね)めては皆の行為に悪意は無いかと可笑しい姿勢(すがた)に未然を掬い、自分の行為に落ち目は無いなど容易く拾える教務の在り処を一々講じて独裁(しごと)に居座り白紙に汲(く)みした〝現代連想(げんだいドラマ)〟は徒労に居座る夢想(ゆめ)の司祭(あるじ)と皆と自分に揚々諭して静かに流行(なが)れる現行(いま)の吐息は〝上気〟に紛れて衰退している。此処(ここ)にて「従兄(いとこ)」と呈し得たのは母の田舎へ懐いた宿敵(とも)にて、最後に婚約・結婚して居た父の田舎の従兄(いとこ)と比べて遥か先日(まえ)にて結婚して居る美貌を呈する男であるのに気付いた故にて、中々透って踏襲出来ない習慣(くせ)を保(も)つ身と勝手に認(みと)められ得た従弟(おとうと)ながらに世渡り上手が俗を臭(にお)わす生純(きじゅん)に立ち活き人群(むれ)を寄り添え、それ故俺の方ではこうした習慣(くせ)など見事に捕えた従弟(いとこ)ながらに如何(どう)にも出来得ぬ〝未熟〟が輝(ひか)って酷く恥じ行き撓々(しなしな)折れ行き、近寄り切れ得ぬ従順(すなお)な両眼(まなこ)は田舎の茂みに巧く隠れて思春に向く儘、そうした翳りが俺の苗床(ねどこ)へ上手く転がり立身して生(ゆ)く子葉(しよう)の実(すがた)を俺へ向かって真向きに映して撓(しな)んで行かずに気丈に生育(そだ)った自身の姿勢(すがた)を陶酔するほど自然に取り添え俺の土台を無用に揺るがす刻んだ恐怖を見せ得る為だ。そうした従兄の透った気色を気配に懐かせ真横に置く儘、俺の思惑(こころ)は自宅を囲った〝上気〟の空(すき)へと巧く遊泳(およ)いで浸透するまま俺の胸中(うち)へとこそこそ降り立つKの姿勢(すがた)に好奇を寄せ活き見る見る内にて真っ赤に燃え立つ思春の衒いに突っ伏し浮んだ幻想等へと心行くまで奔走して行き故郷を愛し、そうして成り立つKの正体(からだ)を解体すれば矢張り過去にて俺の心身(からだ)がするする寄り付き無性に欲した女性(にょしょう)を奏でる〝彼女〟の姿勢(すがた)とそっくり重なり相異に在らず、現行(いま)にも顕(めだ)って俺を惑わす魔性の〝遊戯(ごっこ)〟に全力掲げて白く成り行くあの具現(かたち)へ上手く成り着き落ち着き出して、俺の心身(からだ)は自宅に居ながら上手に囲ったKの在り処に執拗(しつこ)く追い付き追い越せない儘、Kの匂いに釣られる儘にてKに対する恋の情(こころ)を丈夫に見て取りKの体を一層抱き寄せ俺の身内(うち)へと納めたかった。〝直球勝負〟が上手く跳ね活き、砦の態(てい)して立ち得た我が家は陽光(ひかり)を弾いて斜光(ひかり)を入れずに俺の安心(こころ)を上手く隠して安堵を図り、従弟を初めに父も母もを上手く呑み込み肉塊(かたち)に仕立てて影の無いまま気配に据え置き、Kと二人の廃屋だてらに巧みに乗(じょう)ずる恋の熱気は彼女を従え独歩して活き、俺へ対する彼女の両腿(あし)には丸味を帯び行く女性(じょせい)の在り処を温(ぬく)みを呈して円らに活(かっ)し、俺へ灯した丸い瞳は宙(そら)を観るまま私宝(たから)を吊り下げ犬を追うのと同程度にして、俺の感覚(いしき)を遠く退(の)け遣り自分の居場所を固く講じて不純に動かず、如何(どう)でも尽きない女性の気儘を炎を吐き行く女龍(めりゅう)の如くに猛猛(たけだけ)しい儘、一層失(き)えない女性(おんな)の〝手順〟に自然を酔わせて陶酔して行く気高い特異(オーラ)を見せ付けて来た。〝白い夫婦(めおと)〟は白壁(かべ)に透され見えない内にて次第に暈(ぼや)ける熱の熱さに自棄(じき)を拝する男性(おとこ)が現れ自然に成り立ち、涼しい風にて頬など冷まされ空気へ解け行く未熟の気質を男性(じぶん)に知れば、俺の情(こころ)は過去に煎じた具(つぶさ)な記憶が恋に破れた悲惨を取り立て気丈を覆い、俺の目前(まえ)には何時(いつ)か何処(どこ)かへ勝手に失(な)くなる旧い女性(おんな)が真横に寝そべり動かないのを好く好く認(みと)めて〝上気〟は消え立ち、冷静成るまま〝私闘〟に置かれた暗い気味には彼女に供する妹(おんな)の姿勢(すがた)がとっくに表れ白紙に寝そべる理想女(めがみ)の姿勢(すがた)は安堵を忘れて遁走して活き、隠れ切らない陰(やみ)の背後に大きく居座り悪態吐(づ)くのは、矢張り拙い文句に私情(こころ)を並べて不動に落ち着く〝母〟の姿勢(すがた)と暗(あん)に塗れて共鳴するまま俺の活路は塞がれ始めた。
「けっきょくけっこんなどありえないのだ。」
子供の態(てい)して大きく呟き小さく集(つど)った仲間の人群(むれ)には配慮され得ぬ冷めた表情(かお)など生娘(むすめ)の体(てい)して表れており、人身(からだ)を忘れた気配の無垢など巧みに酔わされ一つ処に集まり来るのを円らな瞳(め)をした俺の過去には呑(のん)びり灯(ひか)って堂々在る儘、夜の八時にぱったり止み得た人群(むれ)の呼吸(いき)など俺から離れて〝陰(やみ)〟を越え活き、〝堂々巡り〟の現行(いま)の恋など情(こころ)も乱れぬ白壁(かべ)に描(か)かれた夢想(ゆめ)であるなど悶々冷め行き、Kと俺との期限に組まれた恋愛挿話(れんあいばなし)は現行(いま)の端(はし)にて自退(じたい)して行き真っ向から成る「明日(あす)」への〝茂み〟は俺の目前(まえ)からずんずん離れて従弟の生れた母の田舎へ愛想尽しに還って行った。
そうした過程を引き摺りながらも俺の心身(からだ)は熱気を灯して揺らいで在って、下火に成り着く酷い熱気に自分を納めて自ら羽ばたき自活に夢見た旧い〝記憶〟は〝端(はし)〟から〝端〟まで瞬く間にして滑走して行き、この世に生れた神の定めを達観するほど透った瞳に空想(おもい)を馳せ行き自ら独歩(ある)いた景色の騒ぎに〝俗〟を知るまま憂いで在って、Kの気分に固く灯った破恋(はれん)の挿話に自適を覚えて熱気に咲き得た勇士の姿勢(すがた)が俺を供して新参し得ても、Kの情(こころ)は綽(やおら)に返らず向きも不向きも講じる内にて俺の恋には二度と咲き得ぬ地味が生え出し未熟に揺れて、父母を含めて既婚の人群(むれ)にて未婚に在るのは夢想(ゆめ)の内でも矢張り変らず、俺の空虚は陰(やみ)を見据えて微動に動かず、それでも他人(ひと)には俺の気配が細かに微動(うご)いて温身(のろし)が向くのか、知らず知らずに細かに言動(うご)いた他人(ひと)の灯(あかり)は俺の傍(そば)まで上手く駆け寄り独語(ことば)を吐かずひっそり茂った〝自宅〟の内にて身軽に寄り添い静かにしていた。そうした頃から熱気が外れて〝私闘〟に寄り添い、他人(ひと)に観られずひっそり独歩(ある)いた俺の一連(ドラマ)は無用に講じた過去さえ連れ添い徒労に組する〝白紙〟を探して陽気に在ったが、ふとした頃から二つの「明日(あした)」が闇夜を通じて自宅へ飛び交い、俺の心身(からだ)は浮世を知るまま他人(ひと)を呑み込む刹那を知らずに日進月歩を唯追い供に疲れて孤高に立つのを如何(どう)にか斯うにか過去から未来へびっしり詰った経過(とき)の道標(しるべ)に誰かの呼吸(いき)さえ久しく在るのを充分聴き取り起想(きそう)に暮れて、他人(ひと)を寄せ得た俺の地声(こえ)には以前(むかし)に咲き得た身分の若さが華(あせ)を掻かずに記録に在るのを、俺の感覚(いしき)は佇み在りつつ自宅に還った旧い記憶は自体を透して俺へと有り付き〝堂々巡り〟に相対(あいたい)していた。自分の部屋にて以前(むかし)に使ったカセットデッキに自作の詩(うた)など音響(おと)に合せて轟々言いつつ、俺から離れた分身(かわり)の発声(あかり)が発声(ひびき)を奏(そう)じて塒に在り着き閉まり始めた経過の出口へ小躍(おど)る節には温情(こころ)が在って、見付けられ得た双身(ふたり)の指揮者は別途に埋れた覚悟の程度を体裁(かたち)を化(か)え活き発声(じごえ)を殺し、慌てふためく俺の背中(すがた)は「明日(あす)」を見下げて仮面を脱ぎ行く。それまで知られず大事に置かれた俺の経過は陽光(ひかり)に寄り添い音響(ひびき)に汲みして俺の在り処を子細に伝(おし)える数歩(すうほ)に向いたがぴたっと留まり、俺の思惑(こころ)は自分の密室(へや)にて自分の身元を確認する為あらゆる〝経過〟を流行(なが)して逆流(かえ)して自分へ辿れる確かな術(すべ)など具に捜して可笑しく在ったが一向発(た)ち得ぬ音響(ひびき)と合せて何時(いつ)か知り得た俺の地声(こえ)等ちっとも流行(なが)れず沈黙して在り不敵に咲き得た昨日の坊主(あるじ)は得てして気弱で自分の配する活気の態(てい)など灯(あかり)を点さず不純に落ち着き、先程録(と)り得た自分の地声(こえ)など未だに響いて自室(ここ)に在るのに、俺の気色は幾様化(か)わらず夢想(むそう)を夢見て時間に奪(と)られる自分の熱など仔細に講じて補足に努める。流行(なが)して逆流(もど)って録音テープは擦(す)り減る程にて愛想(あいそ)の無いまま俺に飛び得た苦しい共鳴(さけび)は脚色(いろ)を失くして個室を見て取り、弱り咲き得る俺の仕草を唄に覚えて傍観するまま時の間を素早く飛び脱(ぬ)け疾走するうち疾風(はやて)を気取って俺へと現れ、身元を洗った行儀の手数(かず)など如何(どう)にも絶え得ぬ奈落を観せては浮世で華咲き、記録テープに深く吟じた詩歌の類(たぐい)は現行(いま)でも何処(どこ)でも、俺を称えて時間(とき)をも表す強靭(つよ)い経過へ総身を伸(の)し行く空(もぬけ)を呈して落ち着いていた。空(もぬけ)の土台(した)には足跡が在り、経過(とき)を報せる確かな具現(かたち)が一杯在るのに俺の身にだけ何も返らず宙へ馴らした〝料理〟の類(たぐい)は何にも見得ずに全き透色(いろ)にて具現(かたち)を着飾り、唾泡(あぶく)程度に老いさらばえ行く人間(ひと)の置かれた確かな寿命(いのち)は、「明日(あす)」に咲き得ず現行(いま)へ流行(なが)れて誰にも知り得ぬ調子の順序(いろは)が得てして明るく目立って在るうち俺の調子も闊歩へ表れ、「昨日」へ振り向く不敵を知らずに純情に在り、一向変れぬ経過(とき)の変化は一つ処でぐちょぐちょ阿り、阿る果(さ)きには何が在るのか当の俺には皆目解らず現行(いま)に落ち行くきりきり音(おん)には自分を失う確かな鼓動が白壁(かべ)に刻まれねっとり染み付く俺に対する悪度(あくど)い〝地声(こえ)〟など稚体(ちたい)を取り添え気弱に独走(はし)り、俺の労苦を労苦ともせぬ醜い巨人がまったり立ち得て俺の行く手を押さえてあった。奥に聴える記録の発声(こえ)には身元を報さぬ強靭(つよ)い眠気がびっしり働き俺の歩幅を手折り数える新たな試算が優(ゆう)に立ち活き俺から離れた分身(かわり)は司祭(あるじ)で歩調を牛耳り挿話に解け込み、確かに経過を独歩(ある)いて居たのに気持ちの好いまま背後(うしろ)を覗けばだれも無いのに地声(こえ)だけ聴えてまったり落ち着き、俺の苦労はふわふわ浮き立ち時の空間(すきま)に這入って行くのを具に感じ得たのは現行(いま)では見得ない経過(とき)の〝背中〟にぴったり張り付き微動だにせぬ無感の記憶がはっきりし出して、俺の経過を手本に誤魔化し〝偽物〟だらけを目前(まえ)へ晒して敏(あざと)く嘲笑(わら)った時間(とき)の成果に起因してある。俺の心身(からだ)は思惑(こころ)を通してふらふら湧き立ち、旧いデッキへよろっと転げて大いに近付き共鳴(さけび)を図り、〝地声>(だいなり)発声(こえ)≧(だいなりイコール)小声<(しょうなり)大声(こえ)を録(と)るなら自然(やみ)に紛れた破片を探して紡いで行くより、現行(いま)からも一度透明色した怒声(こえ)など発して記録テープに黄色い奇声(こえ)など俺を介して残して遣る…!〟等、〝身元〟探しに飽き飽きして居た俺の目前(まえ)では声を殺した俗人風情が俺の躯を軽く着たまま自室の空気へ紛れて行っては俺の四肢(てあし)を程好く伸ばして「明日(あす)」を見付ける試算を呈して寡黙に在った。〝花曇り〟に似た人間(ひと)の靄だけ進歩に紛れて浮き浮きし始め、取っ手の外れた木戸(きど)の体(てい)して俺へと居座り、孤高に根付いた独歩を採りつつはにかみながらに挨拶して行く俺の気弱を具に馴らして文明(あかり)気取り、金の成らない拮抗等へは〝無意味〟を放って勝手に安らぎ歴史に降り行く白砂(すな)の内へとどんどん隠して奔走して活き、俺の目前(まえ)では全く不動の流行(ながれ)を呈して相(あい)も容(い)れずの冷酷加減に何時(いつ)でも飽きずに堂々在って、威張った四肢(てあし)は流行(ながれ)に浮き立つ実力(ちから)に観えつつ暗(やみ)を見取れば人間(ひと)から成り得た我が身本位が始終を巡って温もり続ける。そうした連想(ドラマ)を人間(ひと)から湧き出る無情の上手(うわて)につい又見て採れ俺の上気は現行(いま)に向かって追悼して行く湧き立ち遅れた哀れな温度を仔細に冗(じょう)じて算段して在り、光沢(ひかり)が奏でる〝堂々巡り〟に如何(どう)して跳ねれば真向きに捉えた自分の意地など凡庸(ふつう)に採り得て落ち着くのか等、えっちらおっちら怒声(どせい)を吐いては正直を告げ、告げる果(さ)きには何が在るのか遁(とん)と知らない矛盾(おか)しな自分にほとほと疲れてデッキの目前(まえ)にてごろんと寝転び世間と現行(いま)とを明然(はっき)り区別し煌々に在り、目立った〝俺〟には固室(へや)が見えずに目的(あて)さえ咲き得ぬ人間(ひと)の主(あるじ)が柔らに育つ。のべつ変らず俺の前方(まえ)には流動して行く四本(しほん)の軌跡(あと)などずっと延び行き誰をも誘(さそ)い、乗れない誘いに歩速(ほそく)を緩め、皆が呈した些細な流行(ながれ)を軽く無視して呆(ぼ)んやり流行(なが)れた気流から退(の)き固室(へや)の内へとぽつんと落ち得て静まり返れば、先ずは界隈、それから程無く波紋の如くに見えない効力(ちから)が矢庭を飛び出て自活(じかつ)に活き行き、俺の身元を危うく採り得て〝孤高〟へ居座り、俺の空想(おもい)を隈なく操(と)り行く支配を講じて数段目論見、俺の四肢(からだ)が跳ねても届かぬ宙(そら)の内へとすっと這入って上手(じょうず)に在って俺の生活(くらし)を勝手に決め行く人間(ひと)の常識(かたち)を上手に呈して淡く呼吸(いき)する。得体の知れないそうした温(ぬく)みが俺の固室(へや)には充満していてテープに吹き込む自分の地声(こえ)など立場を忘れてふわふわ降り立ち、降り立つ麓は躍起に燃え立つ〝人身御供〟がふんわり手にした人間(ひと)の生命(いのち)を何処(どこ)へ向くとも揚々知らずに自分に沸き立つ怒髪の〝意味〟へと遠く放ってしんとして在り、爪と指肉(しにく)の内へ刺さった木片(きへん)を感じて抜いている間(ま)に、〝白砂(はくさ)〟へ遺した経過(とき)の軌跡(あと)には俺を保(も)ち得ぬ暗(やみ)の常識(かたち)が明然(はっき)り浮き立ち俺の思惑(こころ)は〝鈍(どん)〟を感じてするする逃れる経過(とき)の試算に対峙している。
そうする間(あいだ)に父の身元がふっと近付き空間(すきま)を擦り抜け固室(へや)へと居座り、知らず知らずに自分の身元へ奔走して居た俺の両脚(あし)へとそっと寄り付き自分の足など擦(す)り擦(す)り宛がい温(ぬく)みを伝え、両脚(あし)と足との空間(すきま)へ生じた二本の温度は瞬く間に映え、俺の気分を荒くしたまましっと静まる。二人の肢体(からだ)は傍(はた)から観得(みえ)ても可なり密着した儘だらだら垂れ得る人間(ひと)の情(じょう)など瞬く間に失(け)し有頂(うちょう)を知り抜き、俺は父への憤怒を伴い焦り始めた白紙の思惑(こころ)を上手に当て付け父へ向かって、
「普通、息子の部屋に息子と一緒に父親がこんなに長く居たりせぇへんやろ…!早よどっか行けよ…!」
等と轟音散らした怒調(どちょう)を講じて密接して行き、父の気性に態と落した亀裂を取っては父をいびるが、父の表情(かお)には呑気が立ち活き日常が在り、俺の仔細をオール無視した脆い強靭(つよ)さが矢庭に飛び出て気球(ボール)を蹴り上げ、学の無いまま活き行く父の麓は気球(たま)を忘れて得々(とくとく)黙歩(ある)き俺へ対する術の無いまま一生野太打(のたう)つ努力を知っては妻に居座る母性(やわさ)を愛して目論見始めた。俺の心身(からだ)はそうした父の姿勢(すがた)を卑劣に感じて拒み始めて、父の子なのに如何(どう)してこれ程得体の知れない未開が現れ俺を突くのか、自然に浸って訳の分らぬ〝親子の絆〟に如何(どう)でも縋って安堵を欲する息子を呈して後退し始め俺の空想(おもい)は父の身元を端(はし)から崩してごろごろ寝込み、父の背中に気焔(きえん)を感じて放浪して居る。父の行為が慎重ながらに固めて在るのを俺の記憶は如何(どう)でも消せ得ぬ空間(すきま)に見て取りこれまで愛した父の姿勢(すがた)を一旦忘れて仄(ぼ)んやりした後、俺の孤独が気性を荒げて突進して行き、突進する際何かに打(ぶ)つかり対峙したのか一向知れずに彷徨したまま〝父〟を捜して微睡み始め、目前(まえ)に居座る記憶の肉塊(にく)など物ともせずまま父への記憶に気丈を見て取り父の背後を蹴倒す程度に父の肉体(かたち)を毛嫌いしていた。熱気の尻尾を逃がし始めた父の躰は俺の孤独の始終を愛した空気(もぬけ)を手に取り自分だけに在る定めの母性(ふるす)へ駆け込み始めて落ち着いて活き、俺から離れた自身はそれでも、喜寿を迎える準備の為にと、何かの病気に罹って居そうな気配を鎮めて仄(ぼ)んやり灯る。白い空気(くうき)が固室(こしつ)から漏れ、界隈(そと)の空気を融合し始め、俺の熱気が父から逸れ行く気色を講じて沈んで行くのを俺の四肢(てあし)は追い掛けながらに感じて悼み父の躰を息子ながらに心配しながら果(さ)きの事など考え始め、父と俺とが不安を失くして居座る境地を如何(どう)にか拵え手に置く事など、昼夜問わずに考えながらに父の立場を講じて在った。
父の記憶に俺の気熱が真っ向から降り、父の目前(まえ)へと約束され得た機関が飛び出て算段するのを細目に揺らいだ気色に見て取り俺の記憶は把握して在り、父へと懐いた病の正体(ひみつ)を如何(どう)にか透かして明るくしようと淡く立ち得た機関は早々俺と父とに病院受診を呈して落ち着き、揺ら揺ら揺らめくその提案にはまだ次の試算が流動(うご)いて行くのに一役買うほど余力を残して活気を保(も)った。〝機関〟は界隈(そと)から現れ何時(いつ)か見知ったデパート内部に創設されつつ改装され得て、現行(いま)に生き抜く勝気を灯して二人の目前(まえ)では正体(ひみつ)を明かさず解体されない大器を誇って充実して居た。まるで人間(ひと)の様子に象(と)られて蠢く飼養(しよう)に咲き得た固体を呈した正体(ひみつ)の〝機関(ばしょ)〟には、二人の精神(こころ)がすっと這入れる空間(すきま)を呈さず従順(すなお)に成り立ち、持て成し等せぬ強靭(つよ)い行商気質を故無く講じた狡い明暗(しきり)に自分を晦ましすっと見せない柔さが生れて生育(そだ)って在った。そうした樞(ひみつ)を具に感じた俺の方では、父の心身(からだ)がこれから過ぎ行く定めの様子に不安が独走(はし)り、父とこうして固室(こしつ)の内にて静かに在るのを覗いた誰かが損なう調子を見せて来るのが〝鈍(どん)〟に落ち得た俺の規矩にも痛感するほど悟らせ得たまま俺の記憶は温(ぬく)みを欲して曖昧と成り、誰にも何にも頼る事無く、父との居場所を固く窄める無機の実力(ちから)を充分欲して根付いて行くのだ。
突然並んだ父の難儀に人間(ひと)から上がった上気を見て取り試算に孕んだ案配等には無数の黒点(てん)ほど急いた嘆きが何はともあれ俺へ居直り急に責め得た事象が現れ気力が萎えて、撓(しな)んだ俺には両者の〝立場〟を巧く扱う堕力(だりょく)も無いまま父の躰を見送す儘にて自然に落した脚力(ちから)の程度(ほど)には「明日(あす)」を窺う活力(ちから)も失せた。俺は唯々父の身を観て不安を憶え、父の身に寄り外界(そと)の〝曰く〟に怪訝を飛ばして狼狽して活き、そうした頃からそれまで無かった父への興味へ飛来するほど上気を奪われ宙(そら)の灰雲(くも)には暗気(あんき)が漂い空間(すきま)が見得出し、父に振り向き、
「大丈夫?」
と何度も何度も頭を振り振り尋ねる息子の姿勢(すがた)を既に細めた熱気の両眼(まなこ)に何度か夢見て四肢(しし)を竦めて自然に在った。〝気力〟が萎え得た固室(こしつ)の内での算段に在る。声を掛け得た俺の未熟は父から飛び出て空気(もぬけ)を愛し、諭した〝機関(きかん)〟の四肢(てあし)に映った試惑(しわく)は固陋を巡(じゅん)じて明るく成り出し、父と俺とに壇を構えて巣立った正体(ひみつ)は次第に暮れ行く朝陽に解け出し俺と父とに新たな嗣業を伝えてあった。俺と父とは〝新た〟な徒労に自(おのれ)を夢見て、これから始まる生気の終りに準じて賢く、聡明足るまま他人を排(はい)して独歩して行く。空気に根付いた人間(ひと)への根城は〝機関(きかん)〟に生育(そだ)った四肢(てあし)が邪魔して巧く延びずに、人間(ひと)と神秘(ひみつ)の空間(すきま)に這い行く両脚(あし)の実力(ちから)を柔く撓(しな)らせ、遠(とお)に固まる〝固室(こしつ)〟の内へと向かわせて生(ゆ)く。
俺と父にはそうした気力が外界(そと)の〝機関(ばしょ)〟との連携に依り巧く立ち得た空虚の尻尾が俄かに飛び出て〝架け橋〟と成り、固室(こしつ)に繋がる七つの人道(みち)には界隈(そと)の気温が矢庭に騒いで炎天を観(み)せ、二人で牛耳る固室(こしつ)の温度を共鳴するほど手に取り眺めて在って、常識(かたち)を落した人間(ひと)の定めは束の間見果てた空慮(くうりょ)の試算(ゆめ)には何も掴めぬ唾棄を手にして静(しず)んで在った。
~古来の父より~(『夢時代』より) 天川裕司 @tenkawayuji
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