第3話

「でも、どうしていきなりそんな変な質問するの? こんな話、いつもしてるじゃない」


 そう。いつもしている。お婆ちゃんの時代のあまゆゥちゃんは今みたいなノリの良い曲じゃなくて、もっとしっとりしたものが多かったのよ、とか、お母さんの時代のあまゆゥちゃんは今よりメイクが派手だった、とか。そういう話を家族団欒でしていた。

 そう。していたのだ。

 それが何故か、突然、何かがおかしいことに気がついてしまった。

 だって、ありえないじゃないか。今、テレビに映っているあまゆゥはどう見ても十代後半、二十代前半の若々しい女性だ。どう見ても、祖母の世代から活躍していたアイドルとは、言い難い。

 私は込み上げる違和感を孕ませながら、テレビに映るあまゆゥをじっとりと眺めた。孕ませた違和感が育つにつれ、彼女に対する見方が大きく変わった。

 歌が、それほど上手くない。顔の作りも、美しいことは確かだが。特別、讃えられるほどでもない。ダンスも、歌って踊れるアイドル並みではあるが、それ以上でも以下でもない。スタイルも悪くはないが、グラビアアイドルやモデルと比べると、然程。

 瞬間、何かが解けるような、そんな衝撃が全身を駆け巡る。

 大事に扱ってきた宝石が、実はプラスチックでできた模造品だったような、そんな。

 私は食べていた菓子もそのままに、席を立ち自室へ向かった。部屋の明かりをつける間も無く、勉強机へ向かう。その上に置いてあったノートパソコンを開き、電源を点けた。安っぽい回転椅子へ腰を下ろし、ゆっくりと深呼吸する。

 先ほどまで繰り広げられていた祖母や母との会話を脳内で何度も繰り返す。

 おかしい。常識的に考えて、ありえない。しかし、私は今まで、本当に数分前まで、それが当然のことのように思っていたのだ。

 その違和感に私は気づいてしまった。

 起動したパソコンを動かし、検索エンジンを呼び起こす。キーボードへ手を置き、彼女の名前を入れ込んだ。エンターキーを叩くと、一瞬で彼女の情報が出てくる。すかさず画像検索をし、スクロールをし続けた。


「……これは」


 そこには、さまざまな時代で活躍する、彼女の写真が溢れかえっていた。最新のものから、白黒のものまで。最早、いつの時代のものかさえ分からないほど荒々しい画質で残された画像さえある。

 それはどれも、あの天崎まゆであった。

 私は椅子へ深々と腰を沈め、目を瞑る。

 ────なにがどうなっているのだ。

 もう一度キーボードを叩き、言葉を乗せた。


「天崎まゆ、生年月日、っと……」


 エンターキーを押し、サイトをクリックする。出てきた情報に私は眉を顰め、腕を組んだ。


「……「秘密ですゥ♪」だぁ!?」


 私は張り上げた声もそのままに、別のサイトへ移動する。しかし、どの情報にも彼女の生年月日や年齢は載っていない。

 アレか。アイドルはトイレへ行かないっていうのと同じ形式であやふやにしているのか、と私は頭を悩ませる。

 だが、ここで折れるわけにはいかない。ネットというものは様々な情報を孕ませており、それは良い面もあれば悪い面もある。宝石と汚物が同時に詰め込まれたこの海で彼女の情報を漁った。

 ネットの世界は広い。このネットの海で漂う有象無象の中に、きっと真実を見破っている人物がいるに違いない。

 私はキーボードを叩いた。


「天崎まゆ、年齢、おかしい……っと」


 私は内心、ホッとしていた。私だけではない同士が、このネットという最先端技術により獲得できるのだ。それは私を安堵の布団へ眠らせる。


「……え?」


 出てきた結果に安堵の布団から起き上がり、目を丸くした。

 ────検索結果が出てこないのだ、何も。私は手が震えた。いや、大丈夫、まだ慌てるような、時間じゃない。と、自分に言い聞かせ、震える手を宥めるように握りしめる。

 私は現代に生きる人間なのだ。この程度で打たれるほど弱いわけではない。再度、キーボードを弾く。

 ────天崎まゆ、アンチ。

 そう、この単語を検索する。きっと、醜悪な言葉の羅列が出てくるに違いない。そう信じ、私はエンターキーを力強く押す。


「ぎゃっ」


 喉から叫びを漏らし、思わず椅子から立ち上がる。


「こんなのありえない」

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