ep13 最強vs最狂
ヒビ割れた地面に倒れ込んだペルソナから漆黒は銃を片方奪う。散弾銃の方はペルソナが、がっちりと掴んだままだったので奪い取ることができなかった。
「漆黒さん。やりましたね。」
ルインが駆け寄ろうとするのを漆黒は止める。
「離れてろ。」
漆黒はゆっくりと銃口をペルソナに向ける。
「漆黒さん。」
「あぁ。殺さねぇよ。殺した方が世のためだがな。」
五分そのままの状態が続いた。
(これで終わりなのか?噂で聞いた狂気のペルソナはこんなもんじゃないはずだ。)
漆黒の予感は当たっていた。倒れているペルソナに目を向けていた漆黒は、前方から飛んでくる銃弾に気づくのが数秒遅れた。左腕に命中してしまう。漆黒は血が流れる左腕をチラッと見てから銃弾が飛んできた方を睨んだ。
「狂気のペルソナは二人組だったのか。」
「そういうことだ。」
倒れていたペルソナも頭から血を垂れ流しながら立ち上がった。
「近距離で攻撃する俺と、遠距離から狙撃する弟。二人で狂気のペルソナだ。」
「おまえ意外とタフじゃねぇか。それだけ血を流して立ち上がるとはな。」
「正直死ぬかと思った。」
「だろうな。加減はしたとはいえ、地面が割れるほどの衝撃だぜ?大したもんだよ。」
漆黒は笑みを溢していた。
「さぁ。二回戦と行こうか。」
漆黒はさっき奪った銃を左手に持ち、短剣を右手に持った。ペルソナも同じように残弾銃と脇差しを構える。
両者の銃声が鳴ると同時に、一気に距離を詰めて剣同士が激しくぶつかり合う。その音が何度も響き渡る。
「楽しそうじゃねぇか。ペルソナよ。」
「おまえもな。殺し屋。」
笑顔で剣をぶつけ合う二人を見てルインは目を丸くしていた。
カンカンと鳴り響く剣が交錯する音の中に、ドンという音が一瞬だけ混じった。
狙撃手ペルソナの放った銃弾が漆黒を襲う。間一髪のところで首を捻り避けたが、頬を掠めて血が流れる。その隙に近距離ペルソナの散弾銃が漆黒に向かって放たれた。漆黒は弾圧に押されて数歩後ずさった。
さらに追い討ちをかけるように近距離ペルソナが上空に無数の玉を放り投げた。漆黒はそれを見てルインに叫ぶ。
「目を塞げ。」
ルインは言われた通り目を伏せて俯いた。それでも分かるくらいに眩い光がチカチカと輝いた。閃光玉だ。それと同時に狙撃手ペルソナは漆黒を狙い撃った。漆黒は音で着弾位置を予測して最小限のダメージになるように、すでに手負いの左腕で受けた。鮮血が飛び散る。
(狙撃が厄介だ。まずはあっちを片付けるとするか。三発撃たれたおかげでだいたいの場所は把握できたしな。)
漆黒の右目が赤く光っている。
「さぁて。ちょっと本気だすか。」
漆黒は一瞬で近距離ペルソナの前に詰め寄って、顎先を右拳で殴る。そして飛び上がりながら後ろ回し蹴りを顔面にぶち込んだ。近距離ペルソナは吹き飛ばされ、木に衝突する。
その隙に大きめの石を拾い上げて、ワインドアップポジションに移行する。大きく左足を上げて前方に強く踏みつける。そして腰の回転と肩肘のバネ、手首のスナップを効かせて、渾身のストレートを狙撃手ペルソナに向かって投げた。もちろん目視できる位置にいないのだが、漆黒にはどこにいるのかが分かっている。終速が上がるタイプのストレートは衝撃音を響かせて崖を崩した。狙撃手ペルソナはなす術なく崖に飲まれる。ちなみに推定球速は四百八十二キロだ。
そして漆黒は木に衝突して倒れている近距離ペルソナの元に悠然と歩いて向かった。
「おい。起きろ。まだ終わんねぇよな?」
漆黒はペルソナの頬を何度も叩く。
「起きろって言ってんだ。」
ペルソナは目を開けた。
「化け物が。」
「喧嘩売ってきたのはそっちだろ?ちょっとだけ本気で答えてやってんだぜ。」
「いろんな殺し屋を殺してきたが、ここまでの化け物は見たことがない。」
「おまえが世間知らずなだけだろ。俺は知ってるぜ。他にも化け物みてぇに強いやつをよ。」
ペルソナは笑うしかなかった。
「弟は死んだのか?」
「分かんねぇ。でも死んでねぇだろうよ。」
「なぜ殺さない?おまえは殺し屋だろ?」
「俺は殺す相手を選ぶ。おまえらは殺す価値もねぇってわけだ。」
「俺の完敗だな。」
ペルソナがそう言うと、漆黒は被りを振った。
「今から完敗するんだぜ。」
漆黒は右手でペルソナの胸ぐらを掴み立ち上がらせる。
「もう降参だ。やめてくれ。」
冷や汗を流すペルソナの言葉に漆黒は聞く耳を持たない。
漆黒は大きな木を殴り倒し、それを両手で掴み上げる。
「さっきピッチャーやったからよ。今度はバッターやりてぇんだわ。」
漆黒は二度三度その大きな木でスイングする。
「本物の化け物だな。おまえは。」
ペルソナは逃げることもできず、ただ立ち尽くしていた。
「弟のとこまで飛ばしてやるよ。ホームランってやつだな。」
漆黒は右バッターボックスに入る。両腕の筋肉に全力を込め、腰を捻り回転運動を加える。
「おまえはタフだから死にはしねぇさ。」
漆黒は全力でペルソナを打った。高々と打ち上がったペルソナはあっという間に先ほど崩れた崖の辺りまで飛ばされて落ちた。
「ホームランだな。」
漆黒は満足そうだった。ちなみに推定打球速度は四百九十八キロだ。
「あの。漆黒さん。本当に生きてます?あの人たち。」
ルインが心配そうに尋ねた。漆黒の右目は元の黒に戻っている。
「生きてるよ。生体反応が消えてねぇからな。」
「そうですか。漆黒さんは嘘をつくような人ではないので信じますけど。」
「けど?なんだ?」
「ちょっと化け物すぎませんか?」
「そうかもな。」
漆黒は笑って答えた。それに対してルインはただ呆れていた。
「左腕。大丈夫なんですか?」
ルインに言われて、漆黒は撃たれたことを思い出した。
「あぁ。忘れてた。ちょっと待ってろ。」
漆黒が左腕の筋肉に力を込めると、弾が飛び出して、血が止まった。
「治ったぜ。」
「もはや気持ち悪いですよ?それは。」
「おいおい。気持ち悪いは言い過ぎだろ。」
「事実ですので。」
「まぁいい。とりあえず、ルインの服貰いに行こうぜ。」
「そうですね。」
漆黒は戦う前と何ら変わらない元気なままで歩いている。ルインはその生態に少しの呆れと頼もしさを感じていた。
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