ep12 狂気のペルソナ

「ルイン。涙を拭え。俺たちは進まなければならねぇ。おっさんもそれを望んでんだろうよ。」

ルインはボロボロの服の袖で涙を拭いた。

「はい。漆黒さん。ありがとうございます。私はもう大丈夫です。」

「あぁ。とりあえずおっさんの墓作ってやろうぜ。」

漆黒はザナハの亡骸を大事に抱えた。

「何から何まで本当にありがとうございます。」

「礼を言うな。俺にはおまえが必要なんだ。お互い様だろうよ。」

「必要、ですか。必要とされたことがないので、戸惑います。でも嬉しいです。」

「ルインはまだ若いからな。人生なんてこれからってもんだぜ。まぁ長話をしてる暇はねぇからよ。とりあえず俺についてこい。」

「分かりました。」

漆黒は殺人街の裏路地を通り、山を登った。山頂付近はひらけており、殺人街が見渡せる。

「綺麗なところですね。」

「そうだろう?俺のお気に入りの場所だ。おっさんはここに埋葬する。いいな?」

「はい。お父様もきっと喜んでおられると思います。」

「じゃあ手伝え。」

二人は端の方に穴を掘って、ザナハを埋葬した。ルインは両手を合わせて目を瞑った。漆黒はその様子をただ眺めている。


「漆黒さん。私はもっと世界を見たいです。」

「それはこっちの世界のことか?あっちの世界のことか?」

「どちらもです。それは私にしかできないことですので。それに漆黒さんがいてくだされば私は何も怖くありません。」

「そうか。でもな、あくまで俺は妹を探すためにおまえを利用しているだけだ。それを忘れるじゃねぇぜ。」

「それでも構いません。必要とされることが私は嬉しいのです。」

漆黒は頭を掻いた。

「お人好しと言うか、世間知らずと言うか。」

「なんだっていいのです。私は漆黒さんとの旅が楽しいので。」

「そうか。なら早速、異世界へ行きてぇところだが、片付けなければならんことが二つあるな。」

「なんですか?」

「一つはおまえの服だ。もうちょっとしたらできる頃だろうよ。」

「もう一つはなんですか?」

ルインが聞くと、漆黒はさっきプロアドの部下から奪い取った銃を木々の間に向かって放った。

「ちと厄介なのが来てるらしいな。」

漆黒はルインを後ろに下げる。

「あまり俺から離れるなよ。」

「分かりました。」


漆黒は銃口を木々の間に据えたまま立っている。

「隠れてる。って感じじゃねぇんだろ?」

「さすがは殺人街の漆黒。と言ったところかな。」

目元に銀色のマスクを付けた男。それを目視で捉えた。

「ほう。狂気のペルソナか。えらく大物が出てきたじゃねぇかよ。」


狂気のペルソナ。彼の実態は謎に包まれている。いくら金を積んでも、一般の殺しの仕事は受けることがない。しかし相手が殺し屋であれば端金でも喜んで飛びつく。言わば殺し屋専門の殺し屋だ。しかもその殺し方には特徴があり、両手両足を斬り落とし、腹に大きな穴を開け内臓を垂れ流す。それをオブジェでも置くかのように街中に飾りつける。その習性から狂気のペルソナと恐れられるようになった。


「イカれ人間がきたってことは、俺を本気で抹殺する気らしいな。」

「そういうこと。殺し屋を殺すことが専門の俺も、最強の殺し屋が相手ではどうなるか分からないだろ?楽しみで仕方ないんだ。」

仮面の下の笑顔が伝わってくる。

「ペルソナよ。おまえがどんな実績があるのか知らねぇが。やめておいた方がいいぜ。俺は今、行き場のない怒りに狩られてんだ。痛い目を見るぜ。」

「ならその怒り、俺が引き受けてやるよ。」

ペルソナは二丁の銃口を漆黒に向ける。

「いい度胸じゃねぇか。」

漆黒も銃口をペルソナに向ける。

銃声が鳴り響いた。それと同時に両者は一気に間合いを詰める。銃弾避けながら軽やかに。そして再び銃声が鳴る。

「おいおい。何のために二丁持ってんだよ。右の方はなぜ撃たねぇんだ?」

「そう慌てるな。」

漆黒は銃を左手に持って、右手に短剣を持った。そしてペルソナに走り寄る。

ペルソナは腰の袋から何やら白い玉を取り出して地面に投げつけた。煙が辺りを覆い視界を無くす。

「ちっ。煙幕か。だが俺には意味がねぇんだぜ。」

漆黒は五感を研ぎ澄まし、銃口を向ける。しかしその銃は真っ二つに斬り落とされた。

「なんだと。」

「俺にも分かるんだよ。目で見えなくても、おまえの位置くらいはな。」

「とことん食えねぇ野郎だぜ。」

漆黒は斬られた銃を捨てて、距離を取る。

煙がはれて視界が戻った時、漆黒の前方七メートル付近の位置で、ペルソナが右手の銃を向けていた。

「さぁて。どうしたもんかな。」

漆黒はニヤリと笑みを浮かべながら、短剣を構える。

(勿体ぶってやがった右手の銃。いったい何なんだ。ただの銃だとしたらこの距離なら当たらねぇ。それはやつも理解しているはず。何か得体の知れねぇ違和感を感じるぜ。)

漆黒は探っている。ペルソナの腹の中を。そして右手の銃に警戒をする。

(この距離が一番まずい。銃弾を避けながら一気に間合いを詰めて斬る。銃のねぇ俺にはそれしかない。)

漆黒は両足に力を込めて、一気に駆け出した。

ペルソナは引き金を引く。銃声が轟いた。漆黒は弾道を読んで右に反転するが、弾は不規則に分裂する。

(散弾。そういうことか。)

漆黒が気づいた時にはもう遅かった。体に弾が六発命中して、その場に倒れ込む。

「漆黒さん。」

ルインの叫び声が静かな山に反響する。

「最強の殺し屋も最期は呆気ないものだな。」

ペルソナは刀を抜いて、倒れている漆黒にゆっくりと近づいていく。ルインは慌てて漆黒の元に駆け寄ろうとするが、腰が抜けて動けない。

「これだから殺し屋を殺すのはやめられないんだ。」

ペルソナは刀で漆黒の右腕を切り落とそうとする。しかし砕けたのは刀の方だった。

漆黒は立ち上がり、短剣で刀を叩いたのだ。

「銃弾が六発も命中したのに、まだ生きているのか。」

「バカか?散弾銃は威力が分散されるんだぜ?そんなひ弱な弾じゃ俺を貫けやしねぇさ。」

漆黒は回転しながらペルソナの後方に回りみ、両腕をペルソナのお腹に回した。

「ちょっと大人しくしてろ。」

強烈なジャーマンスープレックスは地面にヒビを入るほどの威力だった。

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