第2話 持たざる者、嗚呼、非力なり 二
意地悪な神様によって、とりあえずアダムの姿からは解放された。
これで心置きなく両手を自在に動かせるようになったわけだ。
人類、いや私にとって重要な進歩である。
冗談はさておき、いくらなんでも持たざる者すぎるので、持たざる者を卒業するにはどうすればいいか、神様に問うてみた。
「汝、この世界で生きてゆきたければ、業(カルマ)を得るのだ。この世界では善も悪も行った分だけカルマは蓄積される。それがこの世界の理」
カルマを得ろと言われてもイマイチ分からない。
カルマが貯まると何が起きるのか、神様に訊いてみたが、めんどくさそうに舌打ちをされた。
この神様、なんかイラつくんだよね。
小学生の頃にやってたゲームの世界だって、もう少し親身になって冒険者のことを気遣ってくれるもんだけどな。
どうにもこの神様はやさぐれている。
「汝、刻が来たようだ。これより転生の館より時空転生が行われる」
どことなく説明を端折りたくて、そそくさと次の儀式に取りかかろうとしているような素振りに見えた。
「あのー、まだほとんど説明を受けていないんですがね」
「善となる地へ赴くのか、あるいは悪となる地へ赴くのか、それは天上の神にしか分からぬこと。よいな」
私の質問は完全に無視する方向で決まったらしい。
もしまたここに戻る機会があれば、その時はこの乞食を一発ぶん殴ってやろうと心に誓った。
「ではこの先にある時空の歪みに入るがよい」
「ねえ、せめてこん棒か何かちょうだい」
「……さあ行くがよい」
「パンツ一丁で行けっていうの? 恨むよ」
「ぐっ…ゆけ」
神様は笑いが噴き出しそうなのをこらえているらしい。
「ねえ、ただの変態じゃん、こんなのがお空から降ってきてみ」
「グフォッ…ッヒッヒ…ヒ」
多分きっと、私が空から降ってきて観衆の最中に放り込まれたのを想像でもしたのだろう。
神様は目尻に涙を浮かべていた。
「……滅多にやらぬことだ。汝の面白さに免じて、少しだけ魅力数値を上げておいてやろう。ではこれで本当に行くがよい」
へえ、ゴネてみるもんだ。
って、魅力かぁ。ここは筋力とか、あれば魔法力とかが良かったけど。
まあ、このさい贅沢は言うまい。
私は神様の指さす方へ歩いて行くと、そこには鳴門海峡の渦潮だけを切り取って空間に漂わせているような、よくあるテンプレ装置みたいなものがあった。
入ると、ポォワワワワ〜ンとか言いそうなやつ。
でもさすがに飛び込むには勇気がいる。
渦潮の前で尻込みしていると、神様の長い足が私の尻に目掛けて飛んできた。
ゲシッ。
「ああああああぁぁぁっっ!!」
「さあゆけ!」
「ンアアアアァアァァッッ……ッ」
まさか神様に蹴飛ばされるとは思わなかったよ。
ふざけんなし、マジで」
勢いよく渦潮に飛び込んだその瞬間、視界は案の定ぐにゃぐにゃしてgymにゅgみゅの気持ち悪さが喉元まで一気にせり上がってきた。
ねぇ神様、言ってなかったけど、三半規管が弱くてすぐに酔うのよヨヨヨレロレロレロ……
巨大な洗濯機に入れられて回されたらこんな感じかなー、と思ったところで意識が途切れていった。
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