7 承認欲求
「のぐそドリル」
それはうんこが大好きな小学校低学年向けに作られた学習教材シリーズの名称で、製作者の目論見通り大ヒット。
「うんうん、この『のぐそドリル』を胸に大事そうに抱えて死んだ日には、ちくわちゃんは小学校低学年向けのこんなん読むくらいマジモンのバカだったんだねー!とファンのみんなも涙してくれるに違いない、、、ってちげえよ、クソがっ!!」
「あのひと、どうしたの?……ちょっとヤバくない?」
勢い余ってテーブルから立ち上がり、ひとりでブツブツ言い出したわたしを周囲のファミリー客が怪訝な目で見始める。
「なんか、クソがっ!とか聞こえたけど、この声どっかで聞いたことない?」
やべえ、せっかくちくわとバレない程度に変装してきたのに、いつもの口癖がメジャー化するのも参ったもんだな。
「親戚の子に『の グソッ ドリル買ってあげたけど、さすが売れてるだけあって、いい本だわー」
良家のお嬢さまっぽく声色を変えて、わざとらしくタイトルを強調して、この危機を乗り切る!
「あれっ、なんか梅道[青梅街道77の略称]のちくわっぽい声が聞こえたんだけど、やっぱちがうよね?だって今日は「青梅街道どこまでつづくの?」の撮影日だもんなー、いるわけないない」
こんなとこまでスケジュールを把握してるヲタがいるとは、、、
サインぐらい書いてやりたいけど、今は大事な目的を遂行するのが先決だ。突然の『のぐそドリル』の出現に呆気に取られていたけど、わたしが買ったはずの『人間失格』はどこにいったのだ。これまでの自分の行動を考える。
本屋で、『人間失格』を買う。
トイレに行く。
トイレに忘れてはーーいない。小脇に抱えてトイレを出てきたのを覚えている。
その後、なんかお腹空いたなーと思った瞬間、小学校高学年くらいの男の子が激突してきた。
「クソがっ、、、いや、これだよ、これ。このタイミングでお互いが持ってた本が入れ替わったってわけだな」
それにしても小学校の高学年にまでなって、『のぐそドリル』ではないだろうに。めちゃくちゃ流行ってるらしいから、それに釣られて買ったのかもしれないけど。
謎が解ければ、話ははやい。
あの子を探すだけだ。チー牛を食べ尽くしたわたしが、テーブルから再び立ち上がると、突然周囲がざわつきはじめたのだった。
「ねえ!これ見てよ!!今、ここの屋上で飛び降り自殺の実況中継やってるやつがいるよ!!」
「マジで!!まだ子供じゃん!」
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