8 Stand by you
人生で最大級の勢いで階段を駆け登ってきたわたし、屋上の鉄扉の前にはさすがにデパートの関係者らしきおっさんが居て、「今は一般の方には封鎖中です!おひきとりください!」と汗をかきかき任務を遂行中なのであった。
こんなことがあろうかと、以前知り合った業界の偉いひとの名刺を見せて、わたしは言った。
「すいません、わたしは報道の者なんですが、許可は取っております。そこを通していただけないでしょうか」
「はっ!わかりましたであります!お通りください!」
こんなガバいセキュリティで大丈夫なんかいと思いつつ、おっさんが開けてくれた鉄扉から吹き荒ぶ風でクロッシェが飛ばないようにと頭を抑えながら、わたしは屋上へと飛び込んでいった。
目に飛び込んできたのは、さっきわたしにぶつかってきた男の子が、屋上端の柵の前に立ってひとりでブツブツくっちゃべってる光景。男の子の足元には、スマホが立て掛けられていた。そういやさっき、実況中継が〜とか言ってたな。
「……ボクは、毎日続くイジメに耐えられそうにありません!今から!ここから飛び降りて!死にたいと思います!」
自殺配信までするなんて、最近の子供は承認欲求ホント強いよねーーと、わたしが言える立場じゃないか。てか、先越された! どうすんだわたし!
「……と、みなさん、ボクの姿、ちゃんと見えてますか? もし、うまく収まってなかったらコメントで教えてください!」
男の子は身体を屈めて、足元のスマホのコメントを確認し始めた。なんだかなあ、と思った瞬間、わたしのスマホにLINE着信が来たので確認する。
「あっ、プロデューサー!」
なんで、このタイミングで、、、
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やっほーちくわちゃん元気ーー?
んなわきゃないよねー、ははっ
事情が事情だから、電話じゃなくてLINEで伝えるねー
ちくわちゃんがネオンの左辺駅前店にいることは把握してたんだけど、なんと今そこの屋上で飛び降りするって子がいるらしいじゃん
ちくわちゃん、その子にバレないように、静音で写真撮って送ってくれない?
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なんで、わたしの居場所知ってんだよ!と思ったけど、最近のスマホにはGPS機能が付いてるんだから、そりゃわかるよな、うかつ!
と突然のプロデューサーからのLINEにビビりつつ、素直に自殺配信キッズの写真を撮りにいくわたし。気付かれないように、全集中の呼吸で暗殺者の如く音を消して男の子に近付く。
「この位置で大丈夫そうですか?はい、ありがとうございます! え、やるならはやくやれ? わかってますよ! 今から飛び降りますから! え、結構かわいい顔してる? そんなことないですよ!毎日ブッサイクーブッサイクーっていじめられてるんですよ」
ご丁寧にコメントのひとつひとつにリアクションを返してる自殺配信キッズだったので、苦もなく写真を撮り、プロデューサーに送信する。
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おーけー!
今から、セーフティーエアクッションの手配するから、ちくわちゃんは時間稼いでくれる?
あの、落っこちてもボワーンってなる、トランポリンみたいなやつね!
10分くらいあれば大丈夫だと思う!
予算の都合で、あんましデッカいのは用意できないかもしれないから、あの子が今立ってる位置からは50センチ以上はズレて落ちないように、うまく調整してねー!
がんばってー!!このミッションに成功したら、次のシングルのセンターね!
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センター
その文字列を見て、わたしはスキャンダルの事も、自分が自殺しようとしていた事すら忘れて、自殺配信キッズの前に向かうのだった。
それほど、グループアイドルメンバーにとってはセンターという言葉は重かった。人参を目の前に吊るされた馬と化するわたしだった。
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