2 根も葉もRumor
「これを見てくれるか?」
マネージャーから、送られてきた画像を見る。それはLINEのスクリーンショット画像だった。そこに表示されているチャット欄にはこんなことが書いてあった。
「純一さん、奥さんとはいつ別れてくれるの?」
「あっ、間違えた。それじゃない、こっちこっち」
改めて、別の画像を送ってくるマネージャーの純一。いや、純一お前、相手の名前見たらウチのメンバーっぽかったんだが。
「なあ。おまえ、下町KIDSの番組に出ただろ?」
下町KIDSは90年代から絶大な人気を誇るお笑いコンビで、所属する古本興業の顔といっても過言ではない。わたしはその下町KIDSの看板番組『下町でらっくす』に、こないだ出演したのだった。
「はいはい、確かに出ましたよ。爪痕も残してきましたよ」
持ちネタを披露して、下町KIDSの港本雅良にはたかれてきたのだった。これが芸能界では一種のステータスということで、おっさんの多いわたしのファンたちにも大層喜ばれたのだった。
「あら、これは、、、」
画像には港本の相方である梅田清志とわたしが連れ立って多目的トイレに入っていく姿が写っていた。
「ちくわ、おまえ不倫はまずいよ! いくら不倫が文化的行為だからといっても、これはまずい」
いや、おまえがいうなよ、純一よ。
「週刊醜聞がこの写真をよこしてきてな。来週木曜発売の本誌と前日のデジタル版で記事にする予定だから、反論等あるんならとっととしてくれと」
週刊醜聞といえば、数々の芸能スキャンダルをスッパ抜いて、芸能人からは恐れられている週刊誌だ。まさか、このわたしがネタにされる日が来るとは思いもよらなかった。とは言え、わたし単体で雑誌の売り上げを左右するほどの記事になるはずもない。一緒に写っている梅田が問題なのである。
「反論言われましてもね。わたし、梅田さんが打ち上げ後の飲み会でしこたま飲んで、酔い潰れてわけわかんなくなってたのを介抱してあげただけなんですけど?ゲロがわたしのスカートに掛かってクソムカつきましたけど、それ以外は特になんもなかったっすよ」
ある意味、本来の使用目的の介護してたようなもんだぞ。
「ああ、それはこっちもわかってるよ。別に誰もちくわに欲情なんかしないし」
ーーさて、そもそも、なんでわたしがちくわと呼ばれているかというと、以前グループ全員での写真集撮影があったのだが、そのメイキング映像内でわたしの水着姿をみた芸人ホルモンバランスの池田がこう言ったのだ。
「竹和(たけわ)!おまえ、他のやつらと違って出るとこが全然でてへん!他のやつらを見ると、正直わしの理性が抑えきれへんやないのかと不安になるんやが、おまえのちくわみたいな体型なら安心や!今日からおまえは竹和(たけわ)じゃなくて、ちくわな!!もう、わしはこのロケの間はちくわ推しや!!このロケの間だけな!」
このシーンを切り抜いたショート動画が「ちくわ誕生の瞬間」としてバズりまくったので、幸か不幸か、この凹凸のない体型のせいで、わたしはその後のアイドル生活をちくわとして生きていかなくてはならなくなったのだ。まあ、ちくわのCMが来たりしたんで、いいっちゃいいんだが。
で、それはともかくマネージャーとの電話に戻る。
「だったら、なぜわたしが辞めなきゃならないんすか?」
「おれたちはわかってても、世間様は納得してくれないんだよ。芸人とアイドルが仲良く多目的トイレの中に入ってったら、良からぬ事をしているのではないかと想像してしまう。誰かさんのせいでな」
「クソがっ!」
○部め!!
美人女優を奥様に持つ某お笑い芸人が、多目的トイレに女性を連れ込んで不適切な行為を致したという事件が数年前にあったのだった。
「てか梅田さんも公表されてないけど、長年イン、、いやEDでヤリようがないって業界じゃ有名じゃないですか。だからわたしも安心して多目的トイレに行ったんだし」
「それも醜聞は承知でやってるんだよ。あいつら雑誌が売れりゃなんでもいいやつらだからな」
「クソがっ!」
「まあ、おまえの処遇は現在、検討中だ。とはいえ、古本興業と事を起こして無事でいられるはずがないのはわかるよな?今のうちからクビだと思って、職探しでもしといた方がいいぞ。ちな、MU○EKIからデビューのお誘いは来てたけど、俺の方で断っといたから安心してくれ」
「クソがっ!」
勝手に断んなよ。こっちも出る気は毛頭ないけどさ。
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