022.二人の廃棄者

「助けないと!」


 だけど廃棄口からここまで急いでも2日はかかる。すでに襲われているのだとしたら救出は絶望的かもしれない。


「リーナリアならそう言うと思った。それじゃあ僕がここに連れてくればいいかい?」


「できるの!? お願い!」


「わかった。じゃあ行ってくるよ」


 ウェルは気軽そうに手を振りながら後ろを向くとその場から一瞬にして消え去った。


「ウェルが、消えた?」


「リーナお姉ちゃん。大丈夫だよ。ウェルは転移を使っただけだから」


「転移? ウェルはそんな魔法も使えるの?」


「うん。何回か使ってたよ? ほら帰ってきた」


「ただいま」


 ミリスが指差した先にウェルが現れた。その両腕に二人の男女を抱えている。彼らが廃棄された人たちみたい。というか廃棄者って2人いたんだ……。聞いてないんだけど。


 ウェルに抱えられた2人は眠っているみたい。


「色々言いたいことはあるけど、とりあえず助けられたのね?」


「まあね。僕にかかればこれくらいわけないさ」


「眠ってるみたいだけど、大丈夫なの?」


「大丈夫。眠らせたのは僕だからね。運ぶときに叫ばれて大変だったからちょっと静かにしてもらったんだよね」


 ウェルは「ほら、起きろ!」と腕で抱えていた二人を地面に落とす。ドスンと痛そうな音が鳴り響いて二人が目を覚ますと、混乱した様子で周囲を見まわした。


「痛っ……何が起こったんだ?」

「ここは……?」


 少し視線を彷徨わせていた二人だったけど、示し合わせたかのようにウェルの方を向いて恐怖の表情を浮かべた。


「「ひい!?」」


 なんかウェルが怖がられてるんだけど。あの短期間の中で一体何をしたのかな?とジト目を送ってやる。


「誤解だよ。僕は彼らの前でモンスターを細切れにしただけさ。リーナリアにもやっただろ?」


「それは普通の人からしたら恐怖でしかないからね?」


「そんなものかな? 今の人類はやわだね」


「とにかく、ウェルはちょっと黙ってて? わたしが話してくるから」


 ウェルはまだぶつぶつ言いながらわたしを見ているけど無視。二人の男女のに目線を合わせる。


 男性の方は濃い栗色の髪と長い髭を持っていて、低めの身長とガッチリした体型。女性の方は淡い金色の髪から覗く上を向いた長い耳が特徴的で、隣の男性より少し背が高い。


「大丈夫ですか?」


「……あ、ああ。大丈夫だ」


「……大丈夫、です」


 二人はウェルの方を少し気にしながらもわたしの問いに答えてくれた。これならなんとか会話になりそう。


「わたしの名前はリーナリアと言います。こっちの黒い服を着た男はウェル。こっちの女の子はミリスティアです。あなた方の名前を聞いてもいいですか?」


「バルドだ」


「ルティナです」


「バルドさん。ルティナさん。ここはひとまず安全なので気を抜いてもらっても大丈夫ですよ。ウェルにも悪さはさせませんので」


 ウェルがまたぶつぶつと文句を言っているけどやっぱり無視。だけどそんなウェルの子供のような様子を見てバルドさんとルティナさんは少し気を緩めることができたみたい。


「ああ、なんだ。助けてくれてありがとよ」


「あ、ありがとうございます」


「お礼ならリーナリアにいいなよ。僕は彼女の指示に従っただけだからね」


「そうなのか? ありがとな。嬢ちゃん」


「ありがとう。リーナリアさん」


「いえ。間に合ってよかったです。わたしと同じ境遇の人は放って置けないですから」


「同じ境遇? 嬢ちゃんたちは何者だ? それにここはどこなんだ?」


 バルドさんが矢継ぎ早に聞いてくる。


 わたしは二人にわたしが廃棄者で聖国の元聖女であること、廃棄口は〈深淵の囁き〉ダンジョンに繋がっていること、そしてここがダンジョンの最奥の間で今はわたしたちが占領していることなどを伝えていく。


 二人はわたしの説明を最後まで聞いてくれはしたけど半信半疑のようだ。


「確かに俺は廃棄者だ。嬢ちゃんが同じ廃棄者だというのも頷ける。それにモンスターが出てきたことからもここがダンジョンだということはわかる」


「ですが、ここがダンジョンの最奥だというのは信じ難いです。最奥にはボスモンスターがいるのが普通です。だけどここにはボスがいるようには思えません」


 ですよね。わたしだってウェルとミリスと一緒にダンジョンを攻略していなかったら信じられなかったと思うし。


「今はウェルがダンジョンの守護者をやっているんです」


「黒いのがか? だが人がダンジョンのボスになるなんて聞いたことがないぞ」


「それは正しいね。だけど僕は悪魔だからね」


「悪魔、だと?」


 ウェルが余計なことを言った。バルドさんとルティナさんの顔が強張る。せっかくいい感じな雰囲気になっていたのに台無しだ。


「ウェル! 余計なこと言わないで!」


「だけど後で言うより今言ったほうが誠実だと思うけど?」


「そうかもしれないけど……。ウェルはどっか行ってて」


「はいはい。わかりましたよ」


「バルドさん、ルティナさん。騙すつもりじゃなかったんです。ウェルは悪魔だけどそんなに悪い悪魔じゃないので」


 悪くない悪魔ってなによ?と心の中で自分につっこみを入れる。二人の顔には不安が滲み出ていた。


「そ、そうだ。バルドさんとルティナさんはこれからどうしますか? わたしたちはこのままダンジョンで暮らす予定なんですけど」


「ダンジョンで暮らすんですか?」


「そんなことができるのか?」


「はい。わたしは聖国には戻りたくないですし、ダンジョンはウェルが管理してくれます。それに——」


 ゴゴゴゴ!!


「な、なんだ!?」


 急にダンジョンが揺れ出した。二人がまた不安そうな表情で辺りを見渡している。


 この揺れには覚えがある。もしかしなくてもウェルがダンジョンを改変してるよね……。


「ウェル! ちょっとは大人しくできないの!?」


 わたしの堪忍袋の尾が切れる音がした。

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