2章 ダンジョン改造編

020.ダンジョンの改変

「とりあえず、あの守護者はリーナリアが倒したってことでいいのかな?」


 ウェルがそう口にしたのはミリスをあやして落ち着いた後だった。


「そうみたい。強化魔法でわたしの攻撃魔法を強化してくれたみたいだけど」


「あれね。僕も見ていたけどあれば強化魔法なんてもんじゃないよ。威力が数十倍、いや百倍以上になっている感じだった。文字通り桁違いだ。あんな魔法は聞いたことがないね」


 確かにあのときのラディアントセイバーの威力は目を見張るものがあった。おそらくミリスに憑依していた誰かの魔法による効果だと思うけど、ウェルでも聞いたことがないなんて、相当珍しい魔法なんだろう。


「本来であればミリスに説明して欲しいところだけど……、分かったよ、そんな目で見ないでよ。リーナリア」


 ウェルが余計なことを言おうとしていたので睨んでやる。確かにミリスには謎が多いけど詮索するようなことじゃない。ミリスが本当に喋りたくなった時に話してもらえればいいとわたしは思ってるからね。


 ちなみにミリスはわたしたちが生きていることに安心したのか、今はわたしの腕でぐっすりと眠っている。


「そうだ。リーナリアが守護者を倒したなら、うん。大丈夫そうだね」


「どうかしたの?」


「どうかしたの?って、本来の目的を忘れたのかい。ダンジョンの操作権を奪いにきたんだろう?」


 ……そうだった。ダンジョン内で暮らすためにダンジョンをリフォームしてもらおうと思ってたんだった。大変なこと続きで忘れてたけど思い出したら楽しみになってくる。


 まずは家を作りたいよね? 夢のマイホーム! 家の中には寝室とか食堂とかもほしい。あとできればお風呂にも入りたい! 今までで一回しか入ったことないけど気持ちよかったんだ。体は神聖魔法で綺麗にしてるから衛生上は問題ないけど、あの疲れが取れる感じがいいんだよね。


「よし。試しにこの部屋を変えてみるか」


 ウェルが呟いた。ダンジョンの改変を試すみたい。ちょっとワクワクする。


 ウェルが部屋の中央に置かれた結晶に手をかざすと部屋全体が震え始めた。岩肌の洞窟のような部屋がまるで生き物のように動き出しゴゴゴゴと低い音が響きだす。


「……なに?」


「あ、ミリス。起こしちゃった? 今ウェルがダンジョンの改変を試してるの」


「ミリスもみる」


 周囲の岩肌が徐々に白亜の壁に変わり始める。荒々しかった洞窟のような壁は滑らかで純白な部屋へと変貌していく。天井にはいくつもの照明が輝き、部屋全体が明るく照らされている。


「これがダンジョンの改変の力さ。どうだい、いい感じだろ?」


 ウェルは得意げに笑った。


「すごい。真っ白な部屋になった」


 ミリスが目を輝かせて何もない部屋を見渡している。ミリスは楽しそう。


 だけどわたしは少しがっかりしていた。


「うん。確かにすごいけど……何もない部屋ね。もう少し何かあると思ってたけど」


 例えば家とか寝室とか食堂とか。ちょっと期待しすぎてたかな?


 そんなわたしの顔を見てウェルが笑いながら肩をすくめた。


「まあ、確かに今は何もないけど、ここからさらに改変することもできるようになるよ」


「そうなの? それじゃあ家とかも作れる?」


「シンプルなものだったら作れそうだね。ちょっと試してみる?」


「お願い!」


 ウェルはうなずくと再度結晶に手をかざした。結晶が点滅し始める。


 わたしは家ができるのをいまかいまかと待った。だけど何も変化が起こる様子はなくシーンと静まり返っている。


「おかしいな……」


 ウェルは額に手を当て、考え込んだ。


「どうしたの?」


「……どうやらダンジョンの改変ができなくなったみたいだ」

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