017.黒いモヤ(2)
ゴゴゴゴ……!!
大きな音を立ててあたりの景色がぐるぐると渦を巻いた。空間が歪んで草原のような景色と、洞窟の岩肌が混ざったような情景が目に入り込んでくる。奥にある景色がすごいスピードで近づいてきているのがわかる。
ウェルのいう通りあの黒いモヤがダンジョンを改変しているみたい。
「リーナリア、とりあえず捕まってくれ! 立ち止まっていたらあいつに捕捉される!」
ウェルが右手を差し出してくる。わたしはそれに捕まって一瞬のうちにウェルに抱き抱えられた。右手にわたし、左手にミリスを抱えている形だ。
ミリスはいつの間にか意識を失ってしまっているようだった。恐怖と疲労で気絶してしまったのかもしれない。わたしは涙をながしながら目をつぶるミリスの頭をそっと撫でる。
「リーナリア。時間がないから手短に言う。神聖魔法を使ってあいつにデバフをかけてくれ。弱ったところを僕が攻撃する」
「デバフ? だけど弱体化魔法は効きづらいと思うけど」
一般的に弱体化魔法は強い敵には効きづらい。高い耐性を持ってるから。さっきまでワラワラと出てきたラプトルのような敵ならともかく、あの黒いモヤに効くとは思えない。
「わかってる。だけど今思いつく方法はこれしかない」
そう言っている間にもダンジョンの改変はほとんど終わったみたいだった。最初は奥も見渡せない広い草原のような空間だったのにも関わらず、今は直径30メルもないほどのちょっと広いだけの空間に成り下がっていた。これでは逃げ回るのは難しい。
動きを止めた黒いモヤは相変わらずわたしたちの方を見つめている。黒いモヤがまとわりついてラインモザイクになったような手のような何かをこちらに向けて伸ばしている。
もはや一刻の猶予もないみたいだ。
「……分かった。やってみる。セラフィックエキゾスト!!」
わたしは恐怖を打ち払って迫り来る黒いモヤに弱体化魔法をしかけた。魔物を疲弊させて抵抗力を下げる魔法だ。人には効かない分魔物に特化したこの魔法ならあの黒いモヤにも効くかもしれない。魔法がモヤを包んでいき、少しの間動きが止まる。
「消えろ! アビススフィア!!」
ウェルがそう叫んで黒い球体状のエネルギーをツノから撃ちだした。その球体はさっきウェルが使った黒い波動よりも明らかにエネルギーが凝縮されている。素人目に見てもかなり危険な魔法。というかウェルが魔法名を発しているのを初めて聞いた。
これならいける!?
アビススフィアが黒いモヤに向かって飛んでいく。しかしその球体は黒いモヤの胸元あたりが渦を巻いて吸い込まれてしまった。動きを止めていた黒いモヤはまたゆっくりとわたしたちに近づいてくる。
「くそ! やっぱりダメか!」
「どうなったの!?」
「無力化された!! やっぱり僕の攻撃は相性が悪いらしい」
ウェルの攻撃は効いていなかったみたい。それにあの様子だとわたしの弱体化魔法もほとんど効果がでてないと思う。
「ルミナスフィールド!! ディヴァインウォール!! ラディアントプリズン!!」
わたしは立て続けに神聖魔法を行使する。ルミナスフィールドでわたしたちを覆い、ディヴァインウォールで巨大な壁を作り行く手を塞ぎ、ラディアントプリズンで黒いモヤを光の牢獄に閉じ込める。3重の防御魔法だ。
少しでも時間を稼げれば、そう思って展開した3つの魔法だけど数度の攻撃ですぐにラディアントプリズンが音を立てて崩れ去る。
「他に策はないの!?」
「今考えてる!!」
「だけど長くはもたないよ!?」
「分かってる「さっきからうるさいのう」って!! 誰だ!?」
突然聞こえてきた緊張感のない声にウェルが警戒の声をあげる。ウェルには誰だか分かってないみたい。だけどこの声は……
「ミリス?」
口調は変わっているけど声は確かにミリスの声だった。
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