014.ダンジョンの心臓部
悪魔が扉に手をかけて、ゆっくりと力を込め始めた。扉は重々しい、ギギーっという音を立てながらゆっくりと開き始める。中から風が吹き抜けた。それはまるでわたしたちの侵入を拒むかのように冷たく鋭い。
扉が完全に開くとそこには少なくとも村一つ覆ってしまえるのではないかと言うほど広大な草原が広がっていた。その広さは広大すぎて奥が見渡せないほど。上にはなぜか空が広がっていて、ここがダンジョンの中であることを疑いたくなる。
扉の奥には輝く結晶が浮かんでいて、強力なエネルギーが内包されていることが見て取れる。この結晶がこの空間を維持しているのかもしれない。
「これが〈深淵の囁き〉の心臓部か。不思議だね。まるで外の風景みたいじゃないか」
「でも、ここには誰もいないみたい」
「そうだね。だけど警戒はしておいて? いつ何があるかわからないから」
「ミリス、見張ってる」
「ありがとう。とりあえず入りましょうか?」
わたしたちは慎重にダンジョンの心臓部に足を踏み入れた。光り輝く結晶の向かって進むたびにエネルギーが脈動している。
「あ! 扉が!」
結晶の目の前にたどり着くと軋む音がする。振り向くとちょうど扉が閉まるところだった。
「伝えておいた通りだろ。想定内だよ」
「そうね。でもこれで逃げられないことは確定したから進むしかないね」
ミリスが不安そうに手を握ってくる。わたしはその手を軽く握り返して歩き始めた。生い茂る草をかき分けて少しずつ慎重に進んでいく。
「それにしても本当に何もいない、いや、何近づいてくる」
悪魔が何もいないと言いかけた言葉をすぐにひるがえして、警告をしてくる。耳を澄ますと草が何かと掠れる音が聞こえてきた。
「上から確認して!」
「わかってる! リーナリアは結界の準備!」
「ルミナスフィールド!」
悪魔が宙に浮かび上がるのを確認してわたしとミリスを覆う結界を展開した。すぐに悪魔が近くに戻ってくる。
「あれはシャドウラプトルだね」
「シャドウラプトル?」
「翼がないドラゴンみたいなものだよ。全長は2メルくらい」
「強いの?」
「いや、大したことないはずだ。もしかすると突然変異した個体で強力な可能性もあるけどそれでもたかが知れてると思う。あれがここの守護者だとしたら拍子抜けだね」
話している間にシャドウラプトルが結界の前まで現れた。結界を警戒するようにぐるりと周囲を回っていたけど、痺れをきらしたのかわたしたちに向かって飛びかかってくる。
バチッ!!
結界に阻まれてラプトルが弾かれた。
「ほらね? 大したことないだろ」
「そうみたい。だけど早く倒して?」
「はいはいわかりましたよ」
悪魔の腕から爪が伸び出し、ラプトルの首を切り落とした。死の間際甲高い鳴き声を放っていたけど、すぐに絶命する。
「やっぱり大したことなかったね。流石にこれで終わりってことはないと思うけど、おっと!」
「うわ!」
地面が激しく震え始めた。遠くから低い轟音が響いてくる。
「そういうことか」
「何かわかったの?」
「ああ。多分これは群れ型の守護者だね。しかもそれなりの数を従えてるらしい」
群れ型の守護者。それは聞いたことがある。本来ダンジョンの守護者は1体で現れるのが普通だけど、群れ型はその名の通り複数体で構成される。そしてそのモンスター達の全てを倒さないと攻略したことにならない厄介な守護者らしい。
「前方からラプトルとそれ以外の竜種の群れを確認。その数1万以上はいるね」
「1万!?」
「うん。まあ大したことはないよね?」
「大したことあるよね!?」
意見が食い違ってる。モンスター1万以上の群れ、しかも竜種が混じってるってなるとかなりの脅威だよね? 都市が、いや下手をすると国が壊滅するレベルだと思うんだけど!?
「これくらいだったら僕が出るまでもないかな? リーナリアの練習にもなるしちょうどいいでしょ?」
「いや、倒してよ!」
「うん決めた! それじゃ、リーナリア頑張ってね?」
そういうと悪魔は宙に浮いてモンスターが届かない場所まで移動してしまった。
「リーナお姉ちゃん頑張って?」
「……そうね。あの悪魔は一度言ったら聴かないから。わたし一人でなんとかするしかないね」
なんだかんだいってあの悪魔はわたしができないことはやらせたりしないからね。これもわたしができる範囲のことなんだろう。きっと。
すぐにモンスターの群れの先頭が見えてくる。
「ディヴァインウォール!!」
私は全力で神聖魔法の防御陣を張り、広範囲にわたる防御壁を作り出した。今ある小さな結界だけでは心許ないからね。
準備はできた。あとはモンスターを倒すだけ。
「ラディアントセイバー!」
わたしは光の剣を作り出して迫り来るモンスターの群れに攻撃を仕掛けるのだった。
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