012.特訓?

 あの悪魔! 絶対許さない!


 そう心の中で叫びながらわたしはモンスターに追われていた。なぜかって? 特訓を提案された後、首根っこを掴まれたわたしは悪魔に連れられてモンスター部屋に投げ捨てられたのだ。


 連れてこられた場所は大きな空間が広がっていて、追ってくるモンスターは今まで見たものよりもさらに大きい。三つの頭を持ち、中央の頭は鋭い牙を持つ狼のような形状。右の頭は蛇のように細長く、左の頭は猛禽類のくちばしを持っている。体は全身が黒い甲殻で覆われ、爪が生えた6本の腕、かぎ爪のある尾を振り回しながらわたしに迫ってくる。


「神聖なる光よ、我が声に応じて闇を拒む光の結界を構築せよ! ルミナスフィールド!」


 必死で結界を構築する。輝く光の壁がわたしを包み込んだ。モンスターは巨大な爪の生えた6本の腕で結界を叩き、壊そうとしてくるが一向に壊れる様子はない。


 確かに悪魔のいう通りわたしの神聖魔法は強くなっているみたいだった。


「リーナリア。詠唱はタイムラグが発生するから次から使うの禁止ね? 他の聖女も詠唱は使ってなかったでしょ?」


 悪魔が無茶ぶりをしてくる。


 無詠唱? 確かにもうわたしの知ってるもう一人の聖女は詠唱なんかしてなかったけど、わたしは詠唱なしで魔法を使ったことないんだけど!


「無理よ!」


「無理じゃありませーん」


 声の聞こえる方を見ると悪魔は上空に浮いてわたしとモンスターの様子を観戦してしていた。ちなみにミリスは悪魔に肩車されて心配そうにわたしの方を見ている。


「じゃあ、その結界は邪魔だから壊しちゃうね。大丈夫。本当に危なくなったら助けてあげるよ」


「はい!? ちょっと待って!」


 わたしの抗議を無視して悪魔はニコニコと笑いながら手をかざす。すると手のひらから黒い波動が溢れ出てきた。その波動はわたしの結界に触れた瞬間、大きな爆発を起こして結界が崩れ落ちてしまった。


 あの悪魔! 本当に結界を壊しやがりました。


 モンスターが爆発の余波で吹き飛んでしまったのが不幸中の幸いだけど、すぐに立ち上がってこちらにせまってくる。わたしは必死で部屋の出口に向かって走り出した。


「逃げてないで戦いなよー」


「そんなこと、言われても」


 走っているから息がきれる。


 もう一度、今度は詠唱なしで結界を作ろうとするけど、慣れていないためうまく発動できない。


「しょうがないなー。ヒントね。リーナリアは出力する神聖力を無意識に制御しようとしてるけど、それ、今はしなくていいから。本能のままに神聖力を解き放って! そうすれば無詠唱はできるから」


「本能のままに?」


「リーナお姉ちゃん、頑張って」


 ミリスの祈るような声が聞こえてきた。そうだ。ミリスも見てる。不甲斐ない姿は見せたくない!


 わたしは直感に従って神聖力と魔力に注視した。


 確かに今までわたしを覆って邪魔をしていた魔力はほとんどなくなっていて神聖力の行使が邪魔されている様子はない。これなら今まで以上に神聖力を放出できる。


「ルミナスフィールド!」


 無意識に手を突き出して魔法名だけを口にだす。


「……できた」


 光の障壁が作り出されていた。わたしを覆うまばゆい結界だ。その結界は今までで一番強い光を放っているように見えた。


「うんうん! それでいい!」


「リーナお姉ちゃんすごい!」


 二人の声が聞こえてくる。


 モンスターは障壁を3つの頭から放つブレスで攻撃しているけどびくともしていない。わたしは攻撃が届かないのを見届けると冷静になれた。


「これは僕でも壊せないかもしれないね? 試していい?」


「やめて!? ……それよりこれからどうすればいいの?」


「どうするのって、そりゃモンスターを倒すんだけど」


「攻撃魔法は使えないんだけど」


「いや、多分使えるよ。光の剣をイメージしてみてよ」


 また無茶振りを……。


 だけど光の剣か。


 思い出すのは一度だけ見たことあるもう一人の聖女様が使ってた神聖魔法。敵国の兵士に対して放っていたあの魔法だ。


「ラディアントセイバー!」


 イメージした通りの光の剣が宙に現れてモンスターに突撃した。できたみたい。だけどモンスターは一瞬怯んだだけで再び立ち上がってくる。


「ダメなんだけど!」


「うん。それじゃダメだ。また神聖力を制御しようとしてる。もう一回攻撃して?」


 私は深呼吸をし、さらに神聖力を込めて集中する。


「ラディアントセイバー!!」


 再度光の剣を作り出した。詠唱なしで、ただ直感に従って。剣は輝きを放ち、わたしはそれをモンスターに向かって振り下ろす。


 しかし、モンスターは倒れない。傷を負ったものの、その再生能力で立ち直ってくる。


「やっぱりダメ!」


「んー。これはダメかな? さっきよりはマシだけど結界に比べて込められた神聖力が少ないね。これはリーナリアの資質なのか、それとも他の原因があるのか」


「どうするの!?」


「これ以上は戦わせても無駄、かな? 不本意だけどあれは僕が倒しちゃうね?」


 悪魔はわたしの結界を壊した黒い波動をモンスターに向けて解き放った。

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