011.悪魔の提案
「そもそもダンジョンの守護者を倒せるの?」
「ん? さあ。わからないけど?」
えっ!わからないの!? あれだけダンジョン制覇することを推しておいて!?
「あー。わからないの?って顔してる。言っておくけどここは〈深淵の囁き〉だからね? 最難関ダンジョンだから。いくら僕が強いって言っても相手の強さがわからないことにはね」
ちょっと期待していた自分が馬鹿みたい。まあわたしなんかの魔力でパンクしちゃうような悪魔に期待したのが悪かったのかもしれないけど。
「今、馬鹿にされたような気がするのは気のせい?」
「気のせいだと思います」
「いや絶対嘘だ。また敬語に戻ってるし」
「気のせいだよ」
「タメ口に戻したのが一層怪しいんだけど」
ちょっと悪魔の感が鋭い。まあ知られたところでどうなるわけじゃないけど。
「まあいいや。話を戻すと、最難関ダンジョンの守護者には流石に会った事がないから勝てるかどうかはわからないって事だね。まあ十中八九、大丈夫だとは思ってるけど」
自信過剰乙です。
「まあと言うわけでリーナリアには万が一に備えて神聖力の使い方に慣れてもらおうかな?」
「神聖力の使い方に慣れる?」
「そう。今のリーナリアは力の使い方がお粗末だからね。特訓をしてもらう」
「お粗末……」
これでも12年、聖女として生きてきたんだけど。悪魔にも言われるくらい神聖力の使い方が悪いってどう言うことなのかな。
「まあ、それだけの魔力持ちなら神聖力が使えないのは普通だけどね。むしろそんなに魔力を纏っていながらよくそれだけ神聖魔法を使えてたものだと感心するよ」
「……あれ、褒められてる?」
「褒めてる褒めてる。リーナリアはかなりの才能の持ち主だよね。普通だったら神聖魔法を使おうとしても魔力に邪魔されて使えないはずなんだけどね」
悪魔が言うには、わたしは本来なら膨大な魔力に邪魔をされて神聖魔法が使えないところを、精密な魔力の制御と神聖力の出力とで相殺させて使えるようにしていたらしい。漏れ出る魔力を引っ込めるように制御することで隙間を作ってそこから無理やり神聖力を放出させることで、強引に神聖魔法を使っていた状態だったのだと。
そういえば悪魔と契約したとき、いつも邪魔だなーと思っていた透明な膜のようなものが吸い取られた気がしたんだった。
「他の聖女様はどうやって魔力を制御しているのかな?」
わたしは浮かんでくる聖女の顔に教えてくれてもいいのにと思いながらそんなことを独りごちる。
「普通の聖女には魔力が無いか、あってもほとんどないんだろうね。だからわざわざ魔力を制御する必要もない。つまりリーナリアはある意味特別ということだね」
「そんな特別はいらないんだけど」
「まあ、よかったじゃないか。おかげで僕と契約できたんだから」
「なぜ、それがよかったことになるのかな?」
悪魔はニコニコと笑うだけで何も言ってこない。
「リーナお姉ちゃんはすごいね?」
「ありがとう。すごい、のかはわからないけど」
「プロセスとしてはすごい。だけど結果としてはお粗末って感じかな」
「褒められてる気がしない」
「でも今なら結果も最上級にできるんだよね」
「どういうこと?」
「わからない? 今は僕と契約してるじゃないか」
はい? ちょっと意味がわからない。悪魔と契約してるからなんだというのだろう。
「本当にわからないんだ? さっきも神聖魔法を使ってたはずなんだけどね。リーナリアって鈍いのかな?」
「鈍くないわ」
「僕と契約して魔力を対価にしただろ? その魔力って今でも常時僕のほうに流れてきてるんだよね。ほら、感じない?」
そう言われたので魔力を意識してみる。
確かにあの邪魔な魔力が悪魔の方に流れていってるのがわかった。
「それで、今のリーナリアを纏っている魔力がちょうど相殺されているんだよね」
んー? 相殺されてる? つまりわたしは今、魔力を纏っていないってことかな?
……え、でもそれって?
「つまり、今ならわたしの本来の神聖魔法を使えるってこと?」
「ご名答!」
それって結構すごいことなんじゃ? だけどさっき魔法を使った時には感じなかったけど。
「やっぱり鈍いんじゃない? さっきも神聖魔法は普通に強化されてたからね? 前のままのリーナリアだったら結界なんて簡単に破られてたはずだから」
「すでに強化されてるってこと?」
「そういうことだね」
そっか。これでわたしも一人前の聖女になれるのか。と言ってもすでに廃棄されてるから今更な気もするけど。
それに新たに疑問も湧いてくる。
「じゃあ特訓する必要はないんじゃないの?」
はあ。やれやれ。とでもいいたげに悪魔は首を振る。
「リーナリアは今神聖魔法を使いこなせてるっていう自信はあるの?」
「え?」
「さっきまで自分の魔法が強化されていることに気が付かないような人が魔法を使いこなせているって言えるのかな?」
「……すみませんでした」
そんな事があるわけない。確かにわたしは自分の力をしっかり見極める必要があるみたい。
「ということで話が戻るけどリーナリアには特訓をしてもらう」
「わかったけど、具体的には何をするの?」
「ああ、それはね……こうするんだよ」
「んぐ!」
悪魔は子猫を運ぶ親猫のように首根っこを掴んでわたしのことをニコニコと見つめていた。
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