009.エルフの少女
目の前でモンスターが細切れになった。わたしにモンスターの血飛沫がかかる。
作戦は成功だった。悪魔にわたしを守らせる作戦。
「無理はしないで欲しいんだけど?」
悪魔がそう抗議をしてくるけど、わたしは構わず少女の元へ向かっていく。急いで少女の周りに展開していたバリアを解いた。
「大丈夫?」
「大丈、夫」
そう言いながらも少女は涙を流してへたり込んでしまった。緊張の糸が解けてしまったのかな。
「死ぬかと、思った。怖かったよぅ」
「もう大丈夫だからね」
「うわーん」
「よしよし」
背中をさすりながら少女が落ち着くのを待った。しばらく泣き続けていたけど、一通り泣いて落ち着いたのか少女は立ち上がって涙を拭った。
「助けてくれてありがとう」
「どういたしまして」
「おじさんもありがとう」
「おじさんって僕のこと? これでもお兄さんを自負してるんだけど」
いつの間にか隣にいた悪魔が茶化した様子でそう答える。その悪魔の態度を見てわたしは怒りが込み上げてきた。
「どうして手伝ってくれなかったの? そんなに簡単に倒せるなら最初から助けてくれればいいよかったのに!」
「最初から言ってるじゃないか。僕には関係ないってね。ここに連れてきたのも廃棄口についての説明を信じてもらうためだから。彼女を救うためじゃない」
悪魔は飄々とした態度を崩そうとしない。わたしはその態度にさらに苛立ちを覚える。
「そんな言い方ないじゃない! この子の命がかかってたのよ!」
「何度も言わせないでくれるかな? 僕には関係ない。契約に関わること以外はするつもりはないね」
「本気でそう言ってるの!?」
「そうだけど?」
「喧嘩しちゃだめ……」
少女がわたしたちの間に割り込んできた。その声には深い悲しみが込められているように感じられて、わたしは冷や水を浴びせられたような気持ちになる。
「ごめんね。もう大丈夫だから」
「もう喧嘩しない?」
上目遣いで聞いてくるその手は少し震えていた。怖がらせてしまったみたい。わたしは少女の手を取って優しく言った。
「うん。もうしないよ。わたしはリーナリア。あなたは?」
「ミリスティア」
「ミリスティア。いいお名前ね」
「ありがとう。リーナお姉ちゃん」
「……リーナ、お姉ちゃん?」
わたしの中で衝撃が走った。だってわたしは聖国で嫌われ者の聖女で親しい友達とかもいなかったから、あだ名といえば「無能の聖女」とか「黒髪」とか「偽聖女」とかまともなのをつけられたことがなかったんだよね。
初めて普通のあだ名をつけてもらった。こんな状況でいうのは不謹慎な気もしなくもないけどこんな嬉しいことってあるんだね。
「嫌だった?」
固まっていたわたしを見て不安そうにミリスティアが聞いてくる。
「全然嫌じゃないよ! じゃあミリスティアのことはミリスって呼んでもいい?」
「いいよ。よろしくねリーナお姉ちゃん!」
「ミリスもよろしくね」
「ふーん。ミリスティアのことは普通にあだ名で呼ぶんだ? 僕のことは名前で呼んでくれないのにね」
ミリスと楽しい雰囲気でおしゃべりしてたのに悪魔が割り込んできた。不貞腐れた様子なのが全くもってかわいくない。
「意地悪な悪魔に呼んであげる名前はないです」
「しかも敬語に戻ってるし。またリーナが怒ってるよ? ミリスティア。どう思う?」
あ、ちょっと。ミリスを出しに使うなんてずるいんじゃない! それとリーナって気安く呼ぶんじゃない!!
キっと睨みつけてみたけど悪魔は素知らぬ顔がすごいむかつく。
「おじ、お兄さんは何ていうお名前なの?」
「僕はウェルだ。まあ馴れ合う気はないから覚えなくてもいいけどね。それよりミリスティアはなんでここにいるのかな?」
ミリスはビクッと体を震わせて表情が影った。嫌なことを思い出したのだろう。
何でこの悪魔はこうも無神経でいられるのかがわからない。
「ちょっと! 今そのことは聞かなくていいでしょ!」
「ミリス、言いたくない」
消え入りそうな小さな声だった。
「大丈夫。言わなくていいよ」
わたしはミリスのことをぎゅっと抱きしめた。
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