008.さらなる廃棄者
悪魔に抱き抱えられて廃棄口に向かっている途中、遠くから助けを求める声が聞こえてきた。
「誰か、助けて!」
声の方向に目を凝らすと一人の少女が巨大なモンスターに襲われているのが見えた。悪魔が言っていた通りならあの子が廃棄者らしい。
襲っているモンスターは全身が緑色の鱗で覆われた蛇のような胴体に、六本の足と二つの大きな翼を持つ異形の姿をしていた。頭部には三つの目があり、口からは何やら霧のようなものを吐いている。その大きさを見るにわたしを襲ったカマキリのモンスターよりも強そうだった。
「急いで! あの子を助けて!」
わたしの言葉とは反対に悪魔はスピードを落とした。そしてわたしを抱えながら器用に肩をすくめてみせる。
「僕の仕事はリーナリアを守ること。それ以外は僕の仕事じゃないんだけど?」
「何言ってるの!? このままじゃあの子が!」
「助けたければリーナリアがやればいいじゃないか。まあできるならだけどね」
「……ええ! よくわかりました! あなたはそういう人ですよね!」
「人じゃないけどねー」
わたしは悪魔から飛び降り、少女の方へかけよっていく。
モンスターは今にもその鋭い爪を少女に振り下ろそうとしていた。
「神聖なる光よ、我が声に応じて闇を拒む光の結界を構築せよ! ルミナスフィールド!」
少女を覆うように神聖魔法の結界を展開する。
さっきモンスターに簡単に破られた魔法だけど少しの時間稼ぎにはなるはず。その間に次の手を考えないと!!
ガキン!!
意外にも結界はモンスターの攻撃を耐えていた。その間に少女の側に駆け寄る。
「エルフ?」
少女はエルフだった。長い耳が特徴的なその種族は海を越えた遠国、エーテルリアにしかいないはずだった。なぜここに? いやそれどころじゃない!
「大丈夫!? 怪我は!?」
ふるふると首を振る少女は怯えた様子でわたしを見上げてきた。
「助けて……お願い……」
ガキン!! ガキン!!
その間にもモンスターはわたしたちを襲おうと結界を攻撃している。わたしの結界は健闘していた。いまだ壊れる様子は見せない。
案外あのモンスターは強くないのかも? うまくいけばやり過ごせる? いやだめだ。わたしには攻撃魔法はない。どっちにしてもジリ貧だ。
見るとモンスターは結界に向かって霧を吹きかけていた。さっきまで保っていた結界が溶け出しているのがわかる。あの霧には毒が含まれているみたい。
「逃げるよ!」
わたしは少女をうずくまって立ち上がれない少女を無理やり起こして横抱きに抱き抱えた。少女は栄養が足りていないのか羽根のように軽かった。本来なら良くないことだけど、今はそれがいい方に作用している。
バリン!
とうとう結界が壊された。モンスターはすごいスピードですぐにわたしたちに追いつき鋭い爪で攻撃を仕掛けてくる。
わたしは再度ルミナスフィールドを展開した。モンスターは結界にぶつかって倒れ込んだけどすぐに起き上がって毒の霧を吹きかけている。やっぱり逃げられない。
「本当に手伝ってくれないの!?」
いつの間にか横で並走していた悪魔に問いかける。
「その子がどうなろうと僕には関係ないからね」
「そうですか!」
結界がまた破られるのをみてわたしはモンスターを倒せないと悟った。だから、最後の手段に出ることにした。
「仕方ない……」
エルフの少女を地面に下ろす。
「えっ! 待って! 置いてかないで!」
「大丈夫。あなたはわたしが守るわ」
「やだ!」
「神聖なる光よ、我が声に応じて闇を拒む光の結界を構築せよ! ルミナスフィールド!」
聖なる結界を再度、少女の周りを囲むように展開した。これでもしモンスターが少女を狙ったとしてもしばらくは持つ。その間にモンスターをわたしに引きつける!
「こっちよ! わたしを狙いなさい!」
モンスターの方に近寄りながらそう叫んだ。モンスターがわたしに狙いを定めて、巨大な爪を振り下ろす。そうだ。それでいい。
「はあ。リーナリアは無茶するなぁ」
悪魔がわたしの前に現れて、黒い爪でモンスターを細切れにした。
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