006.契約
「まさかこの僕が、魔力過剰になるなんてね」
倒れ込んでいた悪魔は、しばらくすると何もなかったかのように起き上がってそう言った。
「はあ。大丈夫なんですか?」
「ああ。安心して? 一応契約は完了したよ。多分、思っているのとは違う内容になってるだろうけど」
気になったのは悪魔の体調のほうだったんだけど。まあ大丈夫そうだからいいけど。というかなんで悪魔の体調を気にしてるんだろう。さっきまで怖がっていたはずなのに。今はあんまり怖さを感じない。本当に目の前にいるのは悪魔なのかな?
いやそれより何やら不穏なことを言われた気がする。
「……違う内容ってどういうことですか?」
「まあ、君にとって悪い内容じゃないと思うけど……実はね?」
「実は?」
「僕がこれからずっとリーナリアを守護することになりましたw てへぺろ」
「……本当にどういうことですか!?」
「詳しく説明するとね……」
悪魔が言うには、本来だったら悪魔が助けた分だけ対価の魔力を払っておしまいのはずが、魔力を回収しきれなかったことで、逆に魔力分の対価を払い終えるまでわたしを守護しなくてはいけない契約になってしまったらしい。
原因は一つがわたしの魔力が想定以上に多かったこと。そしてもう一つは悪魔がわたしの魔力量を甘く見積もって、契約の因果関係を曖昧にしてしまったことにあるみたい。
ちなみに悪魔とわたしの魔力のパスはまだ繋がっていて、悪魔の魔力のキャパシティに空きができるとまた魔力が流れるようになっているそう。つまり悪魔は実質的に半永久的にわたしを守護しなくてはいけない状態になっているらしい。
「ということで、これからよろしくね? リーナリア」
「嫌です。ついてこないでください」
契約して、その支払いが終わるまでならまだしも、永遠に悪魔に付き従われるのは聖女として明らかにまずい。
「嫌だよ。僕もついていくのは不本意だけど、契約破棄をした場合破棄した方の存在が消滅するようにしちゃったからね。僕もまだ消滅したくないし」
「勝手に消滅してください」
「えー。ひどいなー。無垢な僕を見殺しにするなんて、聖女としてあるまじき姿じゃない?」
「聖女としてなら悪魔は倒さなくてはいけないですね!」
「そんなこと言わず。僕は便利だと思うよ。こう見えても強いしね」
わたしは悪魔がモンスターを倒したのを思い出して納得しかけた。だけどふと、本当にそうなのかな?と疑問に思えてくる。
「本当に強いんですか?」
「む? どういうことかな?」
ちょっと膨れた顔になる悪魔。なんか、人間くさい仕草をするんだよね。悪魔だってことを忘れそうになるからやめて欲しいんだけど。
「だって、人間一人の魔力も吸収しきれないんですよね? 本当は弱いんじゃないですか?」
「それは君の魔力が多いだけだから! リーナリアは魔力だけなら魔王並み、いやそれ以上の魔力があるからね!」
「誰が魔王ですか!」
これでも一応聖女なのに魔王と一緒にされるなんて!
「いや魔力の話だからね? 誰も魔王と一緒だなんて言ってないからね? ともかくそれだけの魔力を僕が吸収しきれないのは当たり前なわけ? わかる?」
「でも、わたしはさっきまで魔力を持ってるだなんて知らなかったですけど?」
「本当に無駄な才能だよね。使わないのに保有量だけは多いなんて。しかも無意識に魔力制御もできていたみたいだし。本当に無駄な才能」
「無駄無駄言わないでください」
その才能の一部でも聖女の才能として芽生えていたらな。そう思うと悲しくなる。
「というか僕がモンスターを倒したのは知ってるだろ? それだけで十分じゃないか」
「見てないです」
「は?」
「目をつぶってたから見てないです。本当にあなたが倒したんですか?」
売り言葉に買い言葉で言っちゃった。でも見てないのは本当だし。
「……へー。そういうことを言うんだ? わかった。ちょうど近くに手頃なモンスターがいるからそこまで行こうか?」
「え?」
「今度はちゃんと見ておいてよ?」
「きゃ!」
そういうと悪魔はわたしを片腕で抱き抱えて猛烈なスピードで飛び出した。
……調子に乗って悪魔の地雷を踏み抜いてしまったかもしれない。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます