032.聖女、依頼を達成する

 盗賊団を壊滅させた私たちは、異次元ハウスで短い休息を取った後、捉えた盗賊たちを憲兵団に引き渡すことにしました。捕虜となった盗賊たちは縛られたまま、苦々しい表情で馬車に詰め込まれていきます。


「略奪品については、こちらで確認後に回収に向かいます。詳細な場所を教えていただけますか?」


 憲兵の隊長らしき人物が地図を広げながら尋ねてきました。


「南の廃鉱とその近くの隠れ家です。詳しい場所はリリスが案内してくれます」


「任せておいて。憲兵達に説明しておくわ」


 リリスが地図を指差しながら簡潔に説明を続ける横で、私は盗賊たちが暴れたりしないかを監視していました。彼らがどれだけ暴れようとも、リリスの影の縛鎖シャドーバインドで完全に拘束されているので問題ないんですけどね。一応念のため。やることがなかったとも言いますが。


「では次は依頼の達成報告をしにいきましょうか」


 引き渡しが終わったので、王都の街道を歩きながら次の目的地である冒険者ギルドに向かいます。


「やっとギルドに行くのね。報酬が楽しみね」


「おや? リリスがそういうことを言うなんて意外です。お金に興味がないかと思ってましたが」


「興味がないのと、報酬を受け取るべきかどうかは別よ。依頼通り盗賊団を壊滅させたんだから、正当な対価は受け取るべきよ」


「リリスの発言に同意します。報酬の受け取りは冒険者としての権利であるとともに義務でもあります」


「そういうものですか」


 二人の意見を聞きつつ、冒険者ギルドにたどり着きました。扉を開けると何人かの冒険者が私たちに気づいて手を振ってきます。どうやら私たちが冒険者になったという噂は少しずつ広まっているようですね。


「盗賊団討伐、お疲れ様でした! 憲兵団からも確認が取れていますので、依頼達成とみなします。こちらが報酬の50,000ゴルドです」


「ありがとうございます」


 報酬を手にすると同時に、頭の中にガチャのアナウンスが流れてきました。


────────────────────

盗賊団討伐の依頼を達成しました。〈善行ポイント〉を100ポイント付与します。

報酬受け取りによる50ポイントの相殺を適用しました。差し引き50ポイントの付与となります。

────────────────────


「……相殺?」


 思わず声が漏れました。ギルドから受け取った報酬分が差し引かれる形になったようです。つまり、本来100ポイントもらえるはずだったところ、報酬分が差し引かれ、実際に付与されたのは50ポイントだけ。


「どうかされましたか?」


 受付嬢に尋ねられ、私は急いで首を横に振ります。


「……いえ。何でもありません」


 急いで受付を離れました。報酬袋を手に、ギルドに併設されたテーブル席に腰を下ろします。


「二人とも、緊急会議です! 善行ポイントが報酬を受け取ったことで減らされてしまいました!」


「そうみたいね。もしかすると対価を伴った善行は純粋な善行としてカウントされないのかもしれないわね」


「肯定。報酬を受け取ることで善行の純粋性が損なわれたと判断されていると推定します」


「50000ゴルドで50ポイント相殺なのかしら? そうだとすると普通の依頼は受けても報酬を受け取ったら0ポイントになってしまうことの方が多そうね」


「それだと、この善行ポイント制度、私たちにとってかなり不利ですよね……」


 テーブルに肘をついて考え込むと、ふとある可能性が頭をよぎりました。


「もし報酬を受け取らなかったら善行ポイントが満額もらえる、ということでしょうか?」


「そうかもしれないわね。だけどそれってはたから見たらただの変人よ? それに今まではどうにかなってたけど、報酬を受け取らなかったら生活費はどうするつもりなのかしら? 今の所持金ってガチャから出たお金しかないわよね」


 リリスのもっともな指摘に、私は言葉に詰まります。


「それについては……ガチャで得たアイテムを売却して補填するのはどうでしょうか?」


「非推奨。ガチャアイテムは高性能すぎるものが多いため無闇に売却するのは現時点ではやめた方がいいと愚考します」


「そうね。少なくとも商売に強い仲間を手に入れて安全な販売ルートを手にいれるまではその案は保留にした方がいいわ。それに報酬を断るのは他の冒険者に悪影響を与える可能性もあるし」


「どういうことですか?」


「報酬を受け取らない冒険者がいると、依頼主が『報酬なしでも問題ない』と考えるかもしれないわ。そうなると、普通の冒険者たちの生活が立ち行かなくなるでしょうね」


 マキアもうなずきながら口を開きました。


「他者の活動を妨げる可能性がある行為は、長期的に見て非効率であると断言します」


「そうですね。……では報酬は、孤児院などお金が必要なところに寄付するのはどうでしょう? 生活費については、ポイント効率を上げればガチャから出てくるゴルドで何とか暮らせないでしょうか」


「それで相殺されないなら悪くない案ね。だけど、まずは寄付することで相殺がなくなることを確認しないといけないのと、もっと効率よくポイントを稼げる方法を考えるべきね」


「肯定。今のポイントの稼ぎだと困窮する可能性が高くなります」


「そうですか。まずは寄付を試してみる必要がありそうです。ポイント効率が高そうな依頼をこなしてみて報酬を受け取る代わりに寄付をしてもらえるように頼んでみましょうか」


「結局そうなるのね。まあわたくしとしては主様に従うだけだからいいけど」


「自機もマスターに従います」


 方針を決めると早速、私たちは新しい依頼を求めて掲示板に向かうのでした。

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