031.聖女、盗賊団を壊滅させる②

 最後の盗賊が昏倒したところで、リリスは影の触手を引き戻しました。荒れた根城の中には、無力化された盗賊たちが倒れていて、奥には暗い廊下があることがわかります。


「さて、これで終わりですか?」


「そうね、ここにいる盗賊達は全員無力化したわ。あとは盗賊達の捕虜になっていた女達がいるだけね」


「そうですか。マキア。申し訳ありませんが無力化した盗賊達を集めて縄で縛っておいてください」


「承知しました」


 盗賊達のことはマキアに任せてリリスと根城の奥へ進んで行きます。薄暗い廊下を抜けると重厚な扉が目に入ります。


 中には檻のような構造物があり、その中に怯えた表情の女性たちが閉じ込められていました。彼女たちは私の姿を見るなり、一瞬だけ警戒の色を浮かべましたが、次第にその顔が希望の色に変わっていきます。


「助けに来てくれたのですか?」


 中の一人が震えながら言いました。


「ええ、安心してください。もう大丈夫ですよ」


「今すぐ檻を開けてあげるわ。少し待っていて」


 リリスが魔法で鍵を解除すると、ギギギと音を立てて檻の扉が開きました。女性たちは恐る恐る檻から出てきます。その中には怪我を負っている方や、明らかに衰弱している方もいました。


範囲回復エリアヒール。ひとまずはこれで大丈夫そうですね」


 あとは、盗賊がこれで全てなのかを問いただすだけです。


◇◇◇


「あなたが盗賊団のリーダーですか?」


 私はその男を見下ろしながら問いかけました。彼は最初、答えを拒むように沈黙していましたが、やがて低く笑い始めました。


「リーダーだと? 俺がか? 面白い冗談だ」


「リーダーではないと? ではリーダーはどこにいるんですか」


「俺が正直に答えると思ってんのか? 脳内お花畑の聖女様よぉ」


「そうですか。喋る気がないのなら仕方ありません。リリス。あの方の右腕を切り落としてください」


「わかったわ」


「おい! ちょっと待て! 聖女様がそんなことしていいのかよ!」


「大丈夫です。切り落とした腕くらいなら後で戻してあげますよ?」


 ぼとりと盗賊のリーダー、じゃないんでしたっけ? とにかく目の前の男の右腕が落ちました。


「くそがぁ!! いてぇ!! 何してくれてんだクソ聖女が!!」


「まだ元気みたいですね。次は左腕にしましょうか」


「やめろ!! わかった!! 言うから許してくれ!! 南の廃鉱だ!! リーダーと傭兵達はそこにいる!! 俺たちとは別行動だ!!」


「リリス? どう思います?」


「ソナーで見てみたところ確かに十数人の気配は感じるわね」


「そうですか」


「おい!! 情報は教えてやったんだ!! 腕を治してくれ!! くそ!! いてぇ!!」


「大丈夫です。人間それくらいで死にはしませんよ」


「おい!! ちょっと待て!! このクソ聖女がぁ」


 あまり汚らしい言葉をならべないで欲しいですね。


「リリス。マキア。次の行き先が決まりました。ですがここを放っておくわけにもいきません。私とリリスは南の廃鉱に向かいますので、マキアは彼らを連れて王都に向かってくれますか?」


「イエス。マスター」


「よろしくお願いします。リリスも飛行の準備をお願いしますね」


「わかったわ」


◇◇◇


「ここが南の廃鉱ですか」


 リリスの飛行魔法で一気に移動し、私たちは南の廃鉱に到着しました。廃鉱は既に荒れ果てており、入り口には錆びた鉄柵が立っています。周囲には見張りの姿も見えました。


「これが奴らの隠れ家のようですね。リリス、ソナーで敵の配置を確認してください」


「見張りの二人を合わせて20人ね。中にはさっき言っていた傭兵らしき強い気配も感じるわ。と言っても主様よりも弱そうな雑魚だけど」


 そう言うや否やリリスのから出た影が見張りの二人を瞬時に襲い、体に顔に絡みついて窒息させます。闇魔法の影の縛鎖シャドーバインドですね。音もなく地面に崩れ落ちた二人を確認すると、リリスが酷薄に微笑みました。


「中にいる盗賊たちがばらけてるからわざわざ探索するのは面倒ね」


「そうですけど。何か方法があるんですか? ……廃鉱を崩落させるとかはだめですよ?」


「主様はわたくしを何だと思ってるのかしら?」


「隕石を落とす幼女ですね」


「幼女じゃないわよ! まあいいわ。クレバーなわたくしを見せてあげる」


 幻影の宴ファントムフェスティバル。そうリリスが唱えると廃鉱全体が闇で覆われ、中から突然叫び声や怒号が聞こえてきました。


「ぎゃああ! なんだこの化け物は!?」「ひっ、助けてくれ!」「外へ出ろ! 中は危険だ!」


 これは……幻影を使って恐怖を植え付け、錯乱させる魔法ですね。中から盗賊たちが次々と廃鉱の外へ逃げ出してきます。


「どう? 簡単でしょ?」


「すごいですけど、少しやりすぎでは?」


「敵に優しくする必要はないわ。さあ主様、外に出てきた奴らを片付けるわよ」


 廃鉱の入り口から飛び出してきた盗賊たちは、幻影の恐怖から逃れるためパニック状態です。そんな盗賊などリリスにとってはお茶の子さいさいで影を操り動きを封じてで絡め取っては気絶させていきます。


「何事だ!? 一体何が起きている!?」


盗賊団のリーダーらしき男が廃鉱の中から現れました。彼の後ろには、元Bランク冒険者と思われる傭兵も控えています。


「ふむ。幻影を見破れるのはさすが元Bランクですね。リリス?」


「ええ、任せて」


 リリスが影の縛鎖シャドーバインドを展開すると、リーダーと傭兵の足元から無数の黒い触手が飛び出し、動きを封じようとします。


 しかし、さすがは元Bランク冒険者。咄嗟に触手を切り払い、抵抗してきます。


「何でこんなところに聖女が!? だがこれ以上おとなしくしているつもりはないぞ!!」


 リーダーが必死の表情を浮かべて魔法を唱えました。放たれた魔法は紫の煙を上げてこちらに近づいてきます。


「毒魔法ですか……困ります」


 私は静かに浄化の光ピュリフィライトを展開します。浄化の光が私とリリスを包み込み、毒の効果を無効化しました。


 傭兵が跳びかかってきましたが、その攻撃はリリスにより寸前で止められます。


 素早く傭兵の後ろにまわったリリスが峰打ちで昏倒させました。残りのリーダーも影の触手で捉えたようですね。


「これで全員片付けましたね」


「そうね。……それにしても主様、少しは戦闘に加わったらどう?」


 ふむ。確かによくよく考えると私、ほとんど何もしてませんね。幼女に養われる聖女って結構やばいのではないでしょうか。

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