033.聖女、報酬の寄付を試す

 私たちはポイント効率の高そうな依頼を選びその報酬は全額寄付するという、普通であれば「ありえない」と呆れられるだろう計画を立てた後、失踪した商隊の捜索依頼を受けました。


 捜索はスムーズに進みました。リリスのソナーとマキアの分析能力を駆使して、失踪した商隊が山間の小道で荷車ごと立ち往生しているのを発見。彼らは魔物の襲撃を受けた後、壊れた荷車を置いていけずここに止まって救助を待っていたようでした。


 しかし、荷車の状態はお世辞にも良いとは言えず、それを引きながらの移動は非常に時間がかかるものでした。さらに、商隊の方々は体力的に限界が近いようで、頻繁に休憩を取らざるを得ません。


「これ、リリスの瞬間移動を使えばよかったんじゃないですか?」


 途中でぽつりとそう言葉が漏れました。


「それ、いまさら言うことかしら?」


「瞬間移動を使わないのは正解です。使用すれば、依頼者や他の冒険者たちに無用な注目を集める可能性があります」


「まあ、確かに今さら『使います!』とは言えない状況ですね……」


 最終的に、王都へたどり着く頃には丸一日が経過していました。疲労感が漂う商隊の方々とは対照的に、私たちは体力的に問題はありませんが、時間がかかった分だけポイントの効率的にはおいしくない依頼だったかも知れません。


 依頼選びも結構難しいものなのだと学びました。


◇◇◇


「商隊を無事に送り届けました」


 冒険者ギルドで達成報告を行うと、いつものように受付嬢さんが笑顔で対応してくれます。


「お疲れ様です! 確認が取れていますので、依頼達成とみなします。こちらが報酬の100,000ゴルドです」


「ありがとうございます」


 報酬袋を受け取らず、計画していた通りの行動に移りました。


「この報酬を孤児院に寄付することはできますか?」


 受付嬢は少し驚いたようでしたが、すぐに微笑みを浮かべて答えてくれます。


「もちろん可能です! 孤児院への寄付はギルドとしても大変ありがたい行為ですので、手続きはこちらで対応しますね!」


「ありがとうございます。では、報酬の全額を寄付でお願いします」


「え!? 全額ですか!?」


「……何か問題がありましたか?」


「問題はないのですが……本当にいいのですか? 聖女様がたの取り分は無くなってしまいますよ?」


「もちろん構いません」


 受付嬢さん少し困惑した表情を見せましたが、それ以上は聞かず寄付の手続きを済ませてくれます。ええ、わかります。私たち、馬鹿げたことをしてるように見えますよね。ですがこれも善行ポイントのため。多少の風聞は気にしませんとも。


 受付嬢が寄付の手続きを済ませてくれたその瞬間、頭の中におなじみのアナウンスが響きました。


────────────────────

商隊捜索依頼を達成しました。〈善行ポイント〉を100ポイント付与します。

────────────────────


 やっぱり! 寄付を行ったおかげで、ポイントが満額付与されました!


「よし! 計画通りです!」


 リリスが呆れた顔で腕を組みます。


「報酬を受け取らないで喜ぶなんて主様くらいのものよ? でもまあ、これでポイントは稼げたんだから良しとするけど」


「非効率ではあったものの、善行ポイントの収益性は確認されました。次の依頼選びに改善点を活かすべきです」


 そうですね。次の依頼こそはもっと効率的に、と思っているうちに、ピックアップガチャの刻限はすぐそこまで迫っているのでした。

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