029.聖女、冒険者になる
「どうすればいいのでしょうか!?」
王城から異次元ハウスに帰ってきた次の日の朝早く、私は柄にもなく(?)リリスに泣きつきました。
「何よ。急に」
「善行ポイントが足りません!!」
「またそんなことで悩んでるの? 足りないなら貯めればいいじゃない」
「でもピックアップガチャは3日しかないんですよ!? 1日過ぎてしまったのであと2日です! ポイントを貯めきれるか心配なんです!」
「なるようにしかならないわよ。頑張って貯めることね」
うう。リリスが冷たいです。
なお、現在溜まっている善行ポイントは1962ポイントしかありません。つまりまだ11連2回分にも届いていないんです。このままでは11連1回しか回せないので、いくらUR以上確率アップと言っても確率的に厳しいと言わざるを得ません。せめて11連2回。欲を言えば11連3回分くらいのポイントがほしいところです。
「それに今回のガチャってルシエル・セラフがピックアップされてるんでしょ? そもそも引く必要がないんじゃないかしら?」
今回、リリスが乗り気じゃないのはこのせいです。リリスはルシエル・セラフを毛嫌い、いえ、この場合は天使全体をと言ったほうがいいかもしれませんが、とにかく好きではないみたいですから。
「リリス。あまりお嬢様を困らせてはなりませんぞ」
「肯定。マスターの願いを叶えるのが自機達の使命です」
「わかってるわよ! それで? 主様は何を始める気なの?」
「よくぞ聞いてくれました! まずは冒険者になろうと思います! 冒険者ギルドに登録して依頼をこなしてみましょう!」
「王国で登録するつもりなのかしら?」
「はい! 冒険者ギルドは国と独立した組織みたいなのでどこで登録しても大丈夫だと思います。それに善は急げと言いますしね」
「わかったわ。冒険者ギルドは商業区の外れにあるみたいだから行ってみましょ。アティは留守番を頼める?」
「承知しました。皆様行ってらっしゃいませ」
◇◇◇
「ここですね」
私たちは冒険者ギルドに到着しました。ギルドの建物は灰色の石材で造られており、正面にはギルドの紋章が彫り込まれた巨大なアーチ型の扉が構えられています。
この大きな扉を開けると、ギロりとした視線が集まった後、ざわざわとした喧騒に包まれていきます。
「あれって聖女様だよな?」
「ああ、俺はこの前、聖女様に治療してもらったから間違いない。しかし、聖女様がなぜ冒険者ギルドに?」
「隣の少女は悪魔だって噂があるが本当なのか?」
「さすがにデマじゃないか? 羽だってないし」
「それよりみろよ隣の女。すげー格好だな」
「ああ、できるなら相手してもらいてーぜ」
随分と目立ってしまったみたいです。まあ、私は聖女ですし? 隣にいるリリスもマキアも冒険者ギルドには不釣り合いな格好をしていますからね。目線を集めるのも仕方がないのかもしれません。
ただ、マキアに不埒な目線を送ったやつは、見た目を覚えましたよ?
私たちは好奇の目線に晒されながら、受付の中で一番並んでいる人が少ないところの最後尾につき順番待ちをします。
「ようこそ、冒険者ギルドへ!今日はどのようなご用件ですか?」
私たちの番になると受付の女性がにこやかに声をかけてきました。
「私たち3人の冒険者登録をお願いします」
「冒険者登録ですか? ……失礼ですが聖女様ですよね。どうして冒険者に?」
「私は善行を積み、困っている人々を助けることを目的としています。その一環として、冒険者という立場が効率的だと考えました」
リリスの「嘘つきね」とでも言わんばかりの目線が突き刺さりますが関係ありません。それに嘘は言ってないですからね。善行に付随するポイントがほしいことを言っていないだけです。
「なるほど。すみません。興味本位で理由を聞いてしまいました。それでは登録手続きを始めましょう! すでにご存知かもしれませんが冒険者にはランクが設定されていて、依頼の難易度や報酬額がランクによって制限されます。初めて登録される方は基本的にFランクからのスタートになりますが、希望者には最初にランク試験を受ける機会を提供しています。聖女様は昇級試験を受けていかれますか?」
「はい。お願いします」
「承知しました。試験は実技になっていまして、ギルドで用意した訓練用のゴーレムを相手に戦闘スキルを披露していただきます。対戦するのは一人ずつで、私たちのギルドでは最高でCランクまで冒険者ランクを上げることができます。すぐにご案内できますがいかがされますか?」
「今からで大丈夫です」
「わかりました。それでは担当の試験官に代わりますね」
◇◇◇
私たちは受付嬢さんに連れられてギルドの奥の練習場に到着しました。そこには高級そうなローブを身に纏った中年の男性が待ち構えています。
「私が試験官のデモンドだ。聖女様の試験官を務められるとは光栄だが手加減はしない」
「もちろんです。よろしくお願いします」
「いい返事だ。本来であればゴーレムを戦闘不能にすることで試験合格となるが、聖女様の戦闘面の役割を考慮して一定時間防衛することでも試験合格とすることができる。どちらにする?」
「戦闘不能にする方でお願いします。あまり時間をかけたくないので」
「わかった。では今からCランク用のゴーレムを用意する。
デモンドさんの声が響き、目の前の魔法陣が青白く輝きました。その光から現れたのは、高さ2メートル以上ある石のゴーレムです。
「では試験を開始する」
「
合図とともに純白の光を放ちました。それはゴーレムの胸部を直撃し、コア部分を一撃で砕きます。コアを失ったゴーレムは糸の切れた操り人形のように盛大に崩れ落ちました。
「終わりました」
デモンドさんの方を見ると、唖然とした様子で私と崩れたゴーレムを見比べています。どうしたのでしょう?
「デモンドさん。終わりましたが」
「あ、ああ。試験合格だ。……さすが聖女様だな」
「まあまあな攻撃だったわね。次はわたくしでいいかしら?」
「そうだな。二人の試験に移ろうか」
◇◇◇
その後、リリスとマキアも一撃でゴーレムを破壊して、試験は合格になりました。私たちとデモンドさんは結果を報告するために受付嬢さんの元に向かっています。
「お疲れ様です。早かったですね。デモンドさん。3人は合格ですか?」
「3人とも文句なしの合格だ。Cランク用のゴーレムが一撃で戦闘不能にさせられた。Cランク、いやそれ以上でも十分通用するな」
「そうだと思いました。なのですでに冒険者証は作ってあります。こちらをどうぞ」
渡されたカードは金属製で私たちの名前と冒険者ランクCと刻まれていました。
「登録は以上になります。何か依頼を受けて行かれますか?」
「はい。受けていきます」
「ではあちらの掲示板に依頼が貼り出されていますので確認してみてください」
「わかりました。ありがとうございます」
こうして、私たちの冒険者登録は完了したのでした。
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