028.聖女、出国を願い出る
「ときに聖女セラフィナよ。そなたに褒美をとらせたい。何か望むものはあるか?」
マルケス公爵が牢屋に引きずられていったあと、陛下がそう尋ねてきました。
私は一度陛下の顔を見たあと、どう答えればいいかを探るためロドリゲス様の様子を伺いましたが、ロドリゲス様は私を見て頷くばかりでなんのヒントも与えてくれません。
少し考えましたが欲しいものは考えつかないですね。今回は辞退しましょうか。
「慈悲をいただいたにも関わらず申し訳ないのですが、欲しいものが思い浮かばず、今回は辞退させていただきたく思うのですが」
「そうはいかん。今回の騒動は国家を揺るがす極悪非道のものだ。それを解決した聖女セラフィナに褒美なしとすると余の面子が立たんのでな。どうか褒賞を受け取ってほしい」
「そうですか……。少し考える時間をいただいても……」
「それなら、主様が正式に国外へ出国できるようにしてもらおうかしら?」
リリスが不敬なことを言い出しました。
自分でいうのもなんですが私は聖女です。私が使う都市を覆うほどの
リリスが言っていることはそのような一大戦力を自ら手放せと言っているようなもので、到底認可できるようなものではないでしょう。自分で言うのもなんですが。
やはりというか、国王陛下はその言葉を受けて、静かに眉をひそめました。
「リリスといったか? そなたの言っていることは我が国の戦力を手放せと言っていることと同義である。そのことを理解して発言しているのか?」
「そんなどうでもいいことに興味はないわ。わたくしにとってこの国は優先順位に入ってないの。むしろ主様を蔑ろにしようとしたこの国を嫌っていると言ってもいいわ」
「余は蔑ろにしたつもりはないのだが」
「あのバカ王子がしたことを忘れたとでも言うのかしら? あいつのしたことは絶対に許さないわ。八つ裂きにしたいくらい。それを主様が望んでいないからわたくしはそれをしていないだけなの。そしてそれを放置したあなたも同罪よ。もう一度言うわ。わたくしはあなたたちが嫌いよ」
「しかし……」
「言っておくけど、これはお願いじゃなくてただの譲歩。もし認可が降りなくてもわたくしたちはこの国を出るつもりよ。あなたたちが選べるのは主様が捨てたというレッテルを貼られた弱体化した王国か、それとも名義上は主様という戦力を持っている王国かのどちらかだけ」
確かに国外逃亡しようと言いましたけど! 言いましたけど、今は指名手配される恐れもないですし、殿下とも絶縁宣言をしたのでこの国から出るつもりはあまりなかったのですが。
「マスターの考えはメープルシロップよりも甘いと断定します。あの王子がマスターを諦める可能性は0%です。これからも付き纏われます」
心を読まれました……。しかし、そうでしょうか? 私の考えは甘いのでしょうか?
「わたくしから言いたいことはこれだけ。あとはあなたたちが決めればいいわ。主様と絶縁するか、繋がりを残しておくか」
リリスの言葉を最後に辺りはしんと静まり返ります。陛下は深く息をついたあと、しばらくの間目を閉じて考え込んでいたようですが、不意に目を開きました。
「わかった。聖女セラフィナが正式に国外に出国することを認めよう」
「陛下? よろしいのですか? セラフィナがいなければこの国の国防は聖女ソフィアに頼りきりになります。しかし彼女はまだセラフィナほど神聖魔法に明るくありません。この国の結界がもたなくなる可能性が高くなりますが……」
「仕方あるまい。そなたも聖女セラフィナと完全に縁が切れるよりは繋がりを残しておくほうがよいだろう?」
「そうではありますが……」
「決まったようね。賢明な判断だわ。それじゃあわたくし達はもう行くわね」
「リリス殿。すまないがもう少し待ってくれないか。セラフィナに一つお願いがあるんだが」
「何かしら?」
ロドリゲス様の言葉に隣に立つリリスは眉をひそめ、明らかに嫌悪感を浮かべています。ですが私は申し訳ない気持ちが大きかったので聞いてみたいと思いました。
「なんでしょうか?」
「出国するのであればバルキシア帝国へ行ってもらえないか? あの国では近年不穏な動きが増えている。富を中央に集中させて魔道具を作ることに注力しているという噂が立っているのだ。今まではそこまで危険視してこなかったのだが、今回のマルケスの件で帝国が他国へ干渉して征服を考えていると推測される。セラフィナにはその動向を探ってほしい」
「なぜ、それを主様がしなくてはならないのかしら? それに、主様がそのお願いを断れないとわかっていて言っているのならあなたは卑怯ね。わたくしの嫌いな人種だわ」
「卑怯と罵ってもらってもいい。しかし、我が国の国防力が低下した今、帝国は表面化した脅威でしかないのだ。勝手なことを言っていることはわかっている。この通りだ。頼む」
「……わかりました。お引き受けします」
「ありがとう。セラフィナ」
「主様は甘いわね」と言わんばかりに手を肩の高さまで上げて首を横に振るリリスに内心で謝ります。ですがやっぱりロドリゲス様のお願いは断れません。
それにどのみち帝国については私も気になっていましたしね。動くのが先になるか後になるかだけの違いだったでしょう。
「あ、そうでした。ロドリゲス様にこちらを渡しておきますね」
「これは?」
「ガチャで出た
「ガチャはこんなものまで作り出すことができるのか。ありがとうセラフィナ。この恩は忘れない」
「いえ。それでは私たちは行きますね」
あのアイテムは私にとっては必要ないものですからね。活用してもらえる人に渡すに限ります。
私たちは今度こそ二人に見送られながら王城の門から去っていくのでした。
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クエスト、「帝国の内情を探れ」が開始されました。クエストミッションが追加されます。
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