027.聖女、公爵の悪事をあばく

 悪魔が消滅しました。


 最初はポイントが付与されて歓喜の舞を踊りたい気分になっていた私ですが、ふと気づいてあたりを見渡します。


 残されたのは壁の壊された薄暗い小部屋と私たち3人。そしてマルケス公爵の心臓が抜き取られた死体。


 ……ちょっと困ったことになりましたね。この現場だけ見ると私たちがマルケス公爵を殺したように見えてしまうのではないでしょうか? いくらビデオカメラによる証拠があるとはいえ、それはただの映像資料。そもそもガチャ産のアイテムであるビデオカメラの映像が証拠と認められるかもわからないところでこの現行犯的な状況証拠は外聞が悪いです。


 どたどたと走りよる警備の人の足音が聞こえてきます。もうすでにすぐそばまで来ていますね。これは一刻の猶予もありません。


「マスター。これの時間を巻き戻しますか?」


 マキアがマルケス公爵の亡骸を指差して尋ねてきました。


 私では蘇生魔法は使えないのですが、マキアは時魔法を使ってある一定時間内の事象を巻き戻すことができます。今回の場合マルケス公爵の時間を巻き戻して、擬似的に蘇生させることができるわけですね。


「そうですね。この際仕方ありません。巻き戻しをお願いします」


「了承しました。時間還輪クロノリワインド


 膝をついてマルケス公爵の体に手をかざしました。盾の歯車が高速回転を始め、潰れていた心臓が元の形に戻っていきます。そうかと思うと倒れていた公爵の体が倒れた時の逆再生のように立ち上がり心臓が元の位置に戻っていきます。貫かれていた服も元に戻りすぐにニヤニヤした顔が言葉を発し始めました。


「くくく! 代償だと!? そんなものあるはずがないだろう!! いいからさっさとわしの言うことを聞いてあいつらを殺してしまえ! ……ん? 悪魔はどこに行ったのだ!? 高い咎のルーン石を買って手に入れた力だぞ! 帝国に不良品をつかまされたか!? くそめ!!」


 やはりマキアの時魔法は規格外ですね! 完全に元通りのマルケス公爵に戻りました。さすがはLRユニットの魔法です。ダミ声のBGMまで元通りです。


 ただ、マキアの時間還輪クロノリワインドは強力な分、大きなデメリットがあります。それは因果律が大きく歪められてしまうことです。これによって世界の修正力が働いて、最終的に時間還輪クロノリワインドの利用によって時が戻された対象が、戻される前の状態へ引き寄せられてしまうのです。


 まあ、今回で言えばマルケス公爵に対して強制力が働いて死んだ状態へ引き寄せられるだけ(のはず)なので大した影響はないかと思いますが、味方に対して時間還輪クロノリワインドを使用する場合は、このデメリットを考慮して世界の修正力に打ち勝てる算段をつける必要があるわけですね。


 今回はマルケス公爵が死に引き寄せられるだけ(大事なことなので2回言いました)なので、特に対策はしませんが。


「聖女様。マルケス公爵様。これはどういうことでしょうか?」


 そんなことを考えているうちに警備の人たちが私たちの元へ到着したようです。彼らはすぐに公爵が持っている紫色をした玉、隷属の魔道具に気がついたようですね。


「公爵様。そちらの手に持っているものはなんでしょうか? 禍々しいオーラを放っていますが? ことと次第によっては拘束させてもらうことになりますよ?」


 警備隊長と思われる人が前へ出ていてマルケス公爵に詰問しました。


 公爵は一瞬焦ったような顔をしましたがすぐに閃いたように取り繕って嘘の声を張り上げます。


「これは……そこの聖女から押収したものだ! わしのものではない!」


「聖女様。公爵様はこのようにおっしゃられていますが?」


「私のものではありません。公爵が持っている紫の玉、公爵は隷属の魔道具と言っていましたが、それは間違いなく公爵が持ち出したものです。証拠もあります」


「そうよ。あんた、そんな見苦しい言い訳、誰が信じると思ったのかしら? ちょっと往生際が悪すぎるわ」


「うるさい! 貴様らが嘘をついているのだろうが! 一介の聖女如きがわしに逆らうでないわ!!」


「うるさいのは公爵様。あなたです。聖女様。その証拠とやらを見せていただけますか?」


「ふむ。余らも見せてもらおうか?」


「陛下!! ロドリゲス閣下!!」


 警備隊員たちは一斉に膝をつきました。私も彼らに習い頭を下げます。リリスとマキアは……もちろん頭を下げていません。平常運転ですね。ついでに言うとマルケス公爵も固まったように呆然と立ち尽くすだけです。どうでもいいですが。


「皆の者、と言ってもすでに上げておる者もおるが、面を上げよ」


「は!!」


「聖女セラフィナ。証拠とやらを見せてもらおうか」


「陛下!! このような者の言うことを聞く必要はありませんぞ!!」


「うるさい黙れ!! 貴様はまだ自分の立場がわかっていないようだな? 既に嫌疑は上がっておるのだ。あと必要なのは決定的な証拠のみ。容疑者風情が口を出すでないわ!! ……では聖女セラフィナ。証拠を見せよ」


「かしこまりました。こちらの映像になります」


 私はマキアからビデオカメラを受け取りマルケス公爵が自白する姿を再生していきます。最初、陛下とロドリゲス様、警備隊長らはその映像を驚いたように眺めていましたが、公爵が自供をし始めるところが再生されると険しい顔に変わっていきます。


「これに映し出されたものが本当であればマルケス公爵は少なくとも国家反逆罪、大量虐殺未遂罪、そして禁忌魔道具の使用罪が適用されますな」


「そうだな。聖女セラフィナ。これもガチャの魔道具か?」


「そうなります」


「過去の一部を切り取って再度映し出す魔道具と言ったところか。大義であった。この魔道具による映像を証拠と認める」


「陛下!! ガチャなどというスキルから出た魔道具を信じるというのですか!?」


「聞くに耐えんな。追って沙汰は言い渡す。警備隊はこの大罪人を牢屋に連れて行け!」


「かしこまりました!! これにて失礼します」


 マルケス公爵は複数の警備隊員に引きづられていきました。


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 裏善行、公爵の悪事を暴く2が完了しました。〈善行ポイント〉を100ポイント付与します。

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