016.聖女、怪我人を治療する

 私は頭の中が混乱しながらも執務室を退出しました。急にアレクシス殿下の印象を聞かれたと思ったら、急に婚約の話になって、そうかと思えばこれまた急に婚約破棄(ちょと違う)になっていたのですからこの驚きもわかってくれるでしょう。


「つまりはあのバカ王子は主様に恋慕していたってことね」


「……それ自体が信じられないのですが。だってあの殿下ですよ? 私のことをおもちゃのように見てきて、リリスを挑発して攻撃するように仕向けて、挙げ句の果てには捕まえようとしてくるような人ですよ? そんな殿下が私のことを好きなわけないじゃないですか」


 そう言いながら殿下のことを思い浮かべます。私を小馬鹿にした様子、太々しい態度、無理矢理連れ回す強引さ。うん。やっぱりないですね。殿下が私を好きなんてありえないです。


「こうも考えられるわよ。主様の気を引きたいから目を光らせるようにセラフィナに接してきて、悪魔に喧嘩を売ったのは自分の威厳を示すため、捕まえようとしてきたのは、ただ単に主様を自分のものにしたかっただけ。特に最後のは悪魔を召喚してしまった主様を匿うためにあえて自分の手で捕まえようとしたのかもね。だいぶ歪んだ愛だけど」


「ないです。ない。それに私はアレクシス殿下に恋愛感情は持てませんし」


「なら婚約させられなくて済んでよかったじゃない。わたくしのファインプレーね。あのまま主様に任せていたらおそらく婚約させられてたわよ」


「……結果的にはそうかもしれないですけど、あの時は肝が冷えました。しかも国王陛下にタメ口なんて」


 リリスは悪魔だから人族の地位なんて気にならないのかもしれないですが、私としてはあれだけで死を覚悟しましたよ……。


「そんなどうでもいいことは気にしないでいいじゃない。それより主様が婚約に積極的じゃないことがわかってよかったわ。それじゃあさっさとスタンピードで王都を襲ってきている残党を潰しましょ」


「……そうですね。城内も騒がしいですし急ぎましょう。結界も見たかぎりガタが来ているようなので急がないと王都に魔物が入り込んでしまうかもしれません」


「それじゃあわたくしにつかまって?」


「うっ。また空を飛ぶんですか?」


「それが一番早いんだから仕方ないじゃない」


 私はリリスにつかまって、入った部屋の窓から急いで戦いの最前線に向かって飛んで行きました。



 ◇◇◇



 風を切りながら王都の結界付近へと急行しました。スタンピードによって破壊された結界の一部が見えてくると、周囲には散乱した瓦礫や倒れた魔物の残骸、そしておそらくは冒険者と思われる人達が倒れている様子が広がっていました。


 やはり、結界がスタンピードでガタが来ていたのでしょう。一部の魔物たちが侵入を試みており、結界の周辺で魔物と人の混戦が起きている様子が伺えます。


「対魔結界の構築は時間がかかるので後回しです。リリスはウルフ達の掃討を! 私は怪我人を回復して行きます」


「わかったわ。主様も気をつけるのよ」


「わかってます」


 リリスが軽やかに空中へ跳び上がり魔物の群れへ向かっていくのを見届けると、急いで怪我人の運ばれている簡易治療所と思わしき場所へ向かいます。


「怪我人はここですか!?」


「誰です!? って失礼しました。聖女様でしたか。はい! 怪我人はこちらに運んでいます!! ですが私たちだけでは治療が追いつかない状況で……」


「わかりました! 範囲回復エリアヒール!」


 強力な全体回復魔法を唱えました。光が波紋のように周囲一帯を包み込み、負傷者たちの傷がみるみるうちに塞がっていきます。


 この魔法は魔力を使いすぎてしまうことが欠点ですが、それ以上に魔力量に比例して広範囲に展開することが可能です。今のような戦場では重宝する魔法ですね。


「……俺は助かったのか」


「これは……セラフィナ様の神聖魔法か」


「聖女様がきてくれたぞ!! 俺たちは助かったんだ!!」


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 合計128名の怪我を治療しました。〈善行ポイント〉を128ポイント付与します。

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 図らずも〈善行ポイント〉を獲得したようですね。これでまたガチャが引け、……いえ、今はそれどころではありません。


「皆さん!! 外の怪我人を運んできてください!! 重症者を優先にお願いします!!」


「おい。お前ら。聖女様にばっかり負担をかけさせるな!! きっかり働け!!」


「わかってるさ」


「戦えるものは戦線復帰! そうでないものは一人でも多く怪我人を運びこめ!」


 多くの方が復帰できたようですね。それでは私は皆さんが怪我人を運んでくる間、範囲回復エリアヒールでは治せなかった重症者に個別に魔法をかけていくことにしましょう。


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 致命傷者の命を救いました。〈善行ポイント〉を5ポイント付与します。

 ミッション1、善行5回達成を完了しました。〈善行ポイント〉を100ポイント付与します。

 ミッション1を全て達成しました。500ポイント付与します。これから3日間の間、ガチャイベント「5ステップアップガチャ」開催します。またミッション1達成に伴い、ミッション2が開放されました。

 致命傷者の命を救いました。〈善行ポイント〉を5ポイント付与します。

 致命傷者の命を救いました。〈善行ポイント〉を5ポイント付与します。

 ・・・

────────────────────


 すごい勢いでポイントがたまっていきます。これならガチャを引き放題ではないでしょうか? それに何やら気になるアナウンスもあります。ですが次々に怪我人が運ばれてきて気にしている時間はありませんね。


 私は戦場に向かったリリスのことを少し気にしながら、運ばれてくる人達に機械のように繰り返し回復魔法をかけていくのでした。

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