015.聖女、国王に直訴する
「リリス。どうですか?」
「今調べてるわ。あいつもいるじゃない。ちょうどいいわね。それじゃあ行くわよ。転移」
私たちは急いでダンジョンから出て王都の近くまでウルフの間引きをしながら戻って行き、ついたところでリリスの転移を使いました。
王都の近くまで行ったのはリリスの転移の範囲圏内に移動することと、リリスのソナーで国王陛下の位置を探るためです。
「ついたわ」
「何者か?」
転移した先は格式と静けさが一目で感じられるような歴史を感じる木材で作られた大机。その机には書簡や書類が整然と並び、その後ろには悠然と座っている国王陛下と地面に頭を向けているロドリゲス様。転移したのを察知したのか二人の視線が私たちの方へ注がれます。
「セラフィナか!? 心配したぞ。今までどうしていたのだ」
そう声をかけるのはロドリゲス様。
「聖女セラフィナか。何用で参った? ことの用件によってはタダでは済まないぞ」
そう警戒の意を示すのは国王陛下です。
「突然の不躾な訪問申し訳ありません。ですがスタンピードのことで申し上げたいことがあり、無礼を承知でこちらに急ぎ参りました」
「スタンピードのことか。ちょうどロドリゲスとも話をしていたところだ。おそらくロドリゲスには宰相の座を降りてもらうことになるだろう」
「お待ちください」
「セラフィナ。国王陛下の前で無礼だぞ」
ロドリゲス様の静止に構わず私は陛下の顔を見据えます。
「私は、今回のスタンピードが自然発生ではなく、何者かによって意図的に引き起こされたものだと断言できます」
国王は厳しい表情で私に初めて目を合わせます。
「意図的に?詳しく説明するのだ、聖女セラフィナ」
私はカード化の解いた〈絶叫の鎖〉と〈誘引の香炉〉を机の上に置きました。
「スタンピードを引き起こすために設置された〈絶叫の鎖〉と〈誘引の香炉〉の存在を確認しました。香炉が魔物を集め、鎖が魔物を恐慌状態に陥らせるという組み合わせによって、スタンピードが作り出されたのです。こちらお預けします。運ぶときは聖布を使って運ぶようにしてください」
「ふむ。続けよ」
「現場の過去を確認したところ、この仕掛けを設置した者の背後には帝国の使者と密かに手を組んだ者がいることがわかりました」
「ちょっと待て。過去を見るだと。そんな力があるのか」
「すでに陛下のお耳に入っているかもしれませんが私のスキル、ガチャによって手に入れた力になります」
「なるほどな。ロドリゲスから聞いていたが、異常なスキルであるな。……それでそのスキルによってマルケスのやつが帝国と手を組みスタンピードを起こしたことがわかったというわけか」
驚きました。私が全てを伝える前に国王陛下は私と同じ結論に至ったようです。さすがは国のトップを張っていることはありますね。
「その顔を見るに図星だな。ロドリゲスの失脚とスタンピードによる国の疲弊、それと王女の殺害もか。真に国の平和に利する事象が狙われているのだから、戦争の推進派のマルケスが一番に上がるのは当然のことよ」
「陛下の慧眼。お見それしました」
「ふむ。聖女セラフィナもよく報告にきてくれたな。礼を言うぞ。ロドリゲス。貴様の更迭は一時なかったこととする。その代わりわかっておるな?」
「もちろんでございます。必ずや公爵の化けの皮をはいでみせましょう」
そういうとロドリゲス様は執務室を出て行きました。
「それでは私たちもこれで」
「待て。聖女セラフィナ」
「……何でしょう」
自然な流れで私たちも退出しようとしたのですがダメたったようです。やはり殿下による指名手配の件で何かあるのでしょうか。リリスが悪魔なことが問題なのでしょうか。
「そこの少女が悪魔なのか?」
「……そうでございます」
「ふむ。これほどの幼な子が悪魔とは驚かされるな。して、アレクシスを害そうとしたのは本当か?」
やはりその質問ですか。国王陛下から空気が凍りつくような冷気が漏れているような緊張感に包まれます。
「本当です。ですが殿下がリリス、悪魔のことですが、そのリリスを挑発したことがきっかけでして」
「それも聞いておる。お主がアレクシスを庇おうとしたこともな。しかし王族を害する行為が我が国で許されないことも承知しているだろう」
「……はい。承知しております」
「ところで、聖女セラフィナはアレクシスのことをどう思っておる?」
やはり死刑か。そう思ったところで予想外な言葉に困惑します。
「殿下のことですか?」
「うむ。率直に答えてくれて構わん」
「率直に、ですか」
……ここでの率直に答えていいとは本当の意味で率直に答えていいことを意味してません。国王陛下の意図がわからない今、それらしいことを言っておくのが無難でしょうか。
「アレクシス殿下は……王国の未来を担うお方であり、非常に聡明でご立派な方だと思っております。殿下のご活躍を陰ながら支えることができるのであれば、私にとっても光栄で……」
「嘘よ。主様はあのバカ王子のことを疎ましく思っているわ。バカとは言わないけど何を考えているのかわからないそうよ」
「リリス! ちょっとだまっていてください」
「王様もこういうことが聞きたかったんでしょ?」
国王殿下の肩が震えています。これは怒りの発露でしょうか。今にも逃げ出したくなってきます。
「ははは! そうか。聖女セラフィナはアレクシスのことを嫌っておるのか。あやつめ、やはり下手を打ったようだな」
どういうことでしょう。私には何が何だかわかりません。陛下が笑っているところを初めて見ました。
「それならば仕方がない。本当はアレクシスとお主を婚約させたかったのだがな。流石に貴族でもないお主に婚姻を強制するのも酷であろう」
「それはどういう」
「どうもこうもそういうことだ。ああ、心配せずとも強制はしない。その代わり今回のスタンピードの鎮圧ともう一つ、王都の対魔結界の貼り直しをお願いする。それで今回の不始末は手打ちにしようぞ」
「それはもちろんやらせていただきますが」
「うむ、では下がって良いぞ」
「失礼致します」
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スタンピードの鎮静化を完了しました。〈善行ポイント〉を500ポイント付与します。
裏善行、公爵の悪事を暴くが完了しました。〈善行ポイント〉を100ポイント付与します。
ミッション1、善行3回達成を完了しました。〈善行ポイント〉を100ポイント付与します。
ミッション1、善行により〈善行ポイント〉を1000ポイント獲得しました。〈善行ポイント〉を100ポイント付与します。
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どういうことですかああ!?
私は善行ポイントの着信音を聞きながら混乱する頭の中で絶叫するのでした。
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