014.聖女、原因を突き止める②

 〈絶叫の鎖〉、〈誘引の香炉〉のカード化に成功しました。それではそれぞれのアイテムの効果を確認していきましょうか。


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名称:誘引の香炉

 魔物の誘引効果がある香炉。香炉から放たれる特殊な香りが魔物の嗅覚を刺激し、香りの発信源へと向かわせる。

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名称:絶叫の鎖

 触った者の気を触れさせる禍々しい鎖。触れた者に向かって強行の波動が発せられて、恐慌の状態異常を付与する。

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 誘引の香炉によって魔物を近づけて絶叫の鎖によってその魔物たちを強行状態に陥らせる。一見恐ろしい組み合わせのような気がしますがダンジョンスタンピードとは関係ないように思えますね。しかし、この二つのアイテムが怪しいのも事実。きっと何かカラクリがあるはずですが。


 しゃがみ込んで思考の沼にハマっているとチョンチョンとリリスが肩を叩いてきます。


「トレーサー・トレーラーの痕跡再現を使ってみたらどうかしら? 過去の映像を見ることで何かわかるかもしれないわ」


「痕跡再現? 確かにそのような機能がありましたね。過去を見るですか。試してみる価値はありそうです」


 トレーサー・トレーラーの痕跡再現を起動し、〈絶叫の鎖〉と〈誘引の香炉〉が仕掛けられていた木の周囲を観察しました。トレーラーが微かに光を放ち、過去の映像がゆらゆらと浮かび上がります。そこには、闇に紛れるようにして現れた数人の男たちの姿が映し出されていました。


『これで準備は整ったな。公爵様の命令通り〈絶叫の鎖〉と〈誘引の香炉〉は設置できた。あとは魔物が引き寄せられてスタンピードが起こるのを待つだけだ』


『しかし、〈絶叫の鎖〉と言うのは怖いね。恐慌状態になった魔物はダンジョンから出られれるようになるんだろ。スタンピード起こし放題じゃないか』


『おい、ペラペラと喋るなよ。誰が聞いているかわからんだろ』


『こんな不人気のダンジョンに誰も来るもんか。兵士だって〈絶叫の鎖〉に触れた途端、気が触れたようにどこかへ逃げていったからな。ここには俺らしかいねーよ』


『だな、しかし公爵様も恐ろしい人だね。宰相様の失脚と王女の殺害だろ。国を敵に回したいのかねー』


『バルキシア帝国の後ろ盾があるから大丈夫だと思ってるんだろう。これらのアイテムも使い方も帝国から買い取ったらしいからな』


『そろそろ行くぞ。早くしないと魔物が集まってきて俺たちもヤバくなるからな』


『へーい。さっさとずらかって報酬をもらおうぜ』


 そこで映像と音声が途絶えてトレーサー・トレーラーが再び静まり返ると、私はつい深い息を吐き出してしまいました。息を止めてしまっていたみたいです。そうしないと彼らに見つかってしまうのではないかと錯覚するほどリアルな映像でした。


「これでカラクリはわかったわね。公爵ってことはマルケスってやつの仕業かしら」


「勢力図を考える限りおそらくは。やはりロドリゲス様の失脚を目論んだものだったみたいですね」


「それにあの王女の殺害もね。今思えばスタンピードが運悪く王女の帰還中に起こるなんて不自然だったのよ」


「しかし、恐慌状態になると魔物がダンジョンから出られるようになるなんて国に伝えたらどんな反応があるかわかりませんね。もしかすると信じてもらえないかもしれません。それぐらい影響度の高い情報です」


「それは大丈夫じゃないかしら。流石にあのバカ王子がいるこの国でも調査・研究くらいするでしょ」


 その殿下がいる国であるのが問題なんですよね。その殿下によって私たちは逃げなければいけない立場に追いやられているわけで。


 決してバカというわけではないのですが何を考えているのかが読めないところがあるから困り者です。


 これから私たちが王都へ戻るときに殿下に会わなければいいのですが。


「できれば話のわかる国王陛下に直接お会いできれば一番いいんですけど……」


 そんな、都合よくいかないですよね。


「できるわよ」


「え! あ!」


「忘れたのかと思ったわ。わたくしの能力を」


 そうですね。ですがその能力を使うと簡単に暗殺ができてしまうんじゃないでしょうか。


 私はそんな怖い想像を押し殺してリリスに頼るのでした。

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