017.聖女、王子と絶縁する

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 スタンピードの鎮圧を完了しました。〈善行ポイント〉を100ポイント付与します。

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 怪我人の搬入も少なくなってひと段落ついた頃、リリスが戻ってくるのが見えました。


「主様。こっちはあらかた片付いたわ。ソナーでみても近くに敵性反応はほとんどなし。あとは他の冒険者達でなんとかなると思うわ。……主様の方もだいぶ頑張ったみたいね」


「リリスもご苦労様です。はい。何度も魔力が尽きかけてマナポーションを5本も飲んでしまいました」


「ガチャで出たアイテムね。たしか、飲むと魔力を全回復するポーションだったかしら? それが5本もなくなるなんてどれだけ治療したのかしら」


「さあ、500人くらいでしょうか?」


「主様は弱いけど神聖魔法だけは化け物のようね」


 リリスに化け物扱いされてしまいました。でもリリスにだけは言われたくないですよね?


 そう思ってリリスを見ると、思い出したように話を続けます。


「そういえば結界の近くで誘引の香炉を見つけたわ」


「誘引の香炉、王都にも置かれていたんですね」


「魔物達が分散せずに王都に向かってきていたのがおかしいとは思っていたのよね。今は他にも香炉が設置されていないか、冒険者達にも探させているところよ」


 リリスは指示しなくても私の意図を汲んで動いてくれているようですね。さすが、小さくても頼りになるメイドさんです。


「また主様が失礼なことを考えている気がするけどまあいいわ。それよりもここから離れた方がいいかもしれないわよ。戦ってる時にあのバカ王子がいるのが見えたからここにとどまってると厄介なことになるかもしれないわよ」


「リリス。それを伝えるのはちょっと遅かったみたいですね……」


「やはりセラフィナか! ここで何をしている?」


 見えたのは今一番会いたくない人物、アレクシス殿下が急足で歩いてくる姿でした。


 今から逃げようとするのはさすがに不敬でしょうし、かといってここに止まるとしても殿下は私を捕まえようとしてくるでしょうし、本当に厄介なことです。


 私は少しだけ考えて逃げないことを選びました。


「アレクシス殿下。見ての通り怪我人の治療をしておりました」


「そうか。王国のために働いたことは褒めてつかわす。だが、余に悪魔もどきをあてがった罪は消えんぞ。いますぐ余に着いてくるのだ」


 案の定こうなりますか。しかし、この横暴な殿下が本当に私を好きだというのでしょうか? まあ、本当に好かれているとしても虫唾が走りますが。


「お言葉ですが、私は国王陛下から恩赦をいただいております。この度の不始末は手打ちにすると。ですので殿下の命令を聞く義理は私にはございません」


「なんだと! そんなことは聞いていない!」


 それはそうでしょう。なんせ国王陛下とは今さっき話したばかりですから。実際にはまだ対魔結界の貼り直しをしていないのでまだ完全には許されたわけではありませんが、結界はこれから貼り直す予定ですので問題はありませんよね?


「さては、余を謀る気だな。いいからこちらにくるのだ。悪いようにはせん」


「お断りいたします」


「バカ王子はこれだからダメなのよ。そんな言葉で主様があんたの好意に気がつくわけがないでしょ」


「なっ!! 何を根拠に!!」


 殿下の顔が赤くなっていきます。まさか本当に私のことを? まあどうでもいいことですね。最低限の礼儀は果たしましたし、私たちはさっさと殿下から離れることにしましょう。


「いいから来い!!」


 アレクシス殿下が私に歩み寄り、腕を掴もうとします。しかしその瞬間、先ほど治療を受けた冒険者の一人が動き出し、殿下の前に立ちはだかります。


「そこまでにしておくんだな。聖女様はお忙しい。あんたにかまっている時間はねーんだよ」


「なんだと。貴様。余がエルダリオン王国第一王子と知ってのことか?」


「だからなんだ」


「そうだ。そうだ」


「王子だからってなんでもいう通りになると思うなよ」


 いつの間にか集まってきた他の冒険者達も殿下を囲って私をかばってくれているようです。


「貴様ら。余を敵にまわしてこの国で暮らせると思うなよ!」


「そうなりゃ、この国を出るだけだ」


「だな。聖女様に恩がある奴はみんなその覚悟があるぞ」


「俺たちを舐めんじゃねーよ」


「皆さん。私は大丈夫ですのでそこら辺に。殿下。私はこれからで対魔結界をかけ直してくるところです。邪魔をしないでいただけますか?」


 陛下の命であることを強調して少し圧をかけてみます。その効果は大きかったようで殿下も戸惑ったようにたじろぎます。


「そうか。それならそれが終わった後に……」


「あと、これは命令ではありませんが、私に話しかけないでいただけますか? はっきり言って迷惑です」


「ヒュ〜!! 聖女様も言うねえ〜」


 そこの冒険者の方。茶化さないでください。これでも私は本当に困ってるんですから。


「まあ、あんたも好意を向けるならもっと素直になることね。すでに主様に対しては取り返しがつかないと思うけど」


「リリス。いきましょうか。皆さんもかばっていただきありがとうございました」


「いいってことよ。俺たちは聖女様に助けてもらった身だからな。当然のことをしたまでさ」


「ちょっと待つのだセラフィナ。まだ話は終わっていない。余を無視すれば聖女の地位もなくなるぞ」


「聖女の地位ですか? そんなものいりませんよ? ではこれで失礼します」


 殿下が手を伸ばして私を掴もうとするのを私はひらりとかわして、リリスと一緒に歩いていきます。


 殿下が手を虚空に伸ばしたまま固まっているのが横目に見えますが無視してやりました。今までの鬱憤がたまってますからね。優しくなんてしてあげません。


 こうして、殿下に絶縁を言い渡した後、私たちは結界の修復に向かうのでした。

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