011.聖女、人為的災害を疑う
「それじゃあ更に魔物が多いところへ案内してくれますか?」
「ふーん? 一体、主様は何を隠しているのかしら?」
更に湧いてきた100匹のウルフたちを倒したところで次の案内を求めた私に、リリスがそう問いかけてきました。
「……なんのことでしょう?」
「隠しても無駄よ。それで、なぜわざわざ魔物の多いところなんて探させるのかしら? 最初は魔物の間引きがしたいのかと思っていたけどそうではなさそうだし。それに、スタンピードを止めたいだけだったら、一番強い魔物、ダンジョンの主のところまで案内させてそれを倒せばいいだけじゃない」
「……」
「そもそも主様がガチャを差し置いてスタンピードを止めるとか言い出したのが怪しいと思ってたのよね。ちょうどポイントが貯まったところでガチャが頭から抜けるなんて相当なことだもの」
「いえ、さすがにそこまでガチャ魔になってませんけど……」
あれ。なってないですよね? まだガチャ中毒になんて。
「そんなことはどうでもいいのよ。一体わたくしに何を隠しているのかしら?」
リリスは怒ったように手を腰に当てて下から睨みつけてきます。
ガチャ中毒はどうでもいいことではないですけど、リリスの言い分は尤もです。ただスタンピードを止めるだけであれば主を倒してダンジョンを消滅させてしまえば済むこと。それをしないのは他の可能性がないかを探るためでした。
「隠そうとしたわけじゃなかったんです。ただもしかすると国外へ行くのが少し遠くなりそうだったので言い出し辛かっただけで」
「どういうことかしら?」
「私はこのスタンピードが人為的なものじゃないかと思っています」
スタンピードがここ十数年、エルダリオン王国で起こっていないこと。国内のダンジョンが国によって管理されているはずであること。それにもかかわらずダンジョンの前には兵士一人いない、死体すらもない状態だったこと。それによってこのダンジョンスタンピードが人為的じゃないかと考えたことをリリスに話します。
「根拠が乏しいんじゃないかしら」
「そうかもしれません。ですが、ここの管轄はロドリゲス様なのです。杜撰な管理はしていないはずです」
「そういうこと。つまり主様は贔屓にしている貴族が貶められそうになっているから助けたいってことね。それで助けるということは証拠を持って王都に戻らないといけないから、国外に逃げるのが遅くなるかもしれないと」
「そうなります」
「バカみたい」
リリスの言葉が突き刺さります。
「そうですよね。わざわざ王子に捕まりに行くような真似するなんて」
「違うわよ! その程度のことでわたくしが反対すると思っている主様がバカみたいと言ってるのよ! 主様は堂々と主様がしたいことをすればいい。それを助けるのがわたくしの務めなんだから命令してくれればいいの! それにどこまでもついてく! だけどその程度のことをわたくしから隠すなんて、信用されてないみたいじゃない!」
私は少なからず衝撃を受けました。私にとってリリスはガチャから出たユニットで可愛いけど少しわがままな、少し目を離せばいなくなってしまいそうな、そんな存在に感じていたのです。
しかし、リリスの認識は違うようでした。まるで私に依存しているかのように彼女の芯は私にあるようで。
「また、主様がいなくなってしまうのは嫌なのよ」
それは、前の召喚主のことを言っているのでしょうか? リリスのかすかに震える小さい声が私の心をざわめかせます。
「すみませんでした。これからは些細なことでも共有するようにします」
「ふん! それでいいのよ! 主様が私に隠し事なんか100年早いんだから!」
「ふふ。私は100年も生きないと思いますよ」
「だったら一生私に隠し事はなしね!」
それにガチャアイテムには寿命を伸ばすアイテムもあるからそれを使えば寿命も伸びるわよ!とリリスが私に冗談を言って場を和ませようとしてきます。え、冗談じゃない? またまた〜、悪魔でも冗談を言ったりするんですね。
そんな仲直り(?)をしていると「グルル!」と私たちの目の前にウルフが群れをなして踊りかかってきました。
そうでした。ここってダンジョンでしたね。忘れてました。リリスと話していると物忘れがひどくなるのはどうしてでしょうね。
「主様とのひとときを邪魔するんじゃないわよー!」
リリスは先ほどの鬱憤を晴らすかのようにウルフたちを虐殺していくのでした。
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