010.聖女、スタンピードに巻き込まれる?③

 リリスのおかげ(怒)で〈銀狼の迷域〉の目の前に到着しました。そこには巨大な門が洞窟に繋がるように立っており、その奥は霧が立ちこめていることもあって不気味さが際立っています。


 リリスの方を見ると悪いことをした自覚はあるようですが、ニヤニヤと笑ってこちらを見上げています。


「リリス! 少しは加減してください!」


「てへっ!」


「可愛く言っても許しませんよ」


 私が恨みがましくがしがしとリリスの頭を撫でてからマジックブーストリングをつけてあげると「主様は甘いわよね〜」と楽しそうな顔をしています。罰が甘かったでしょうか……? 髪をボサボサにされるのは嫌だと思ったのですが。……今度やる時はくすぐりの刑にしましょう。


 そんなことを考えている間にダンジョンの門からグラスウルフが飛び出してきます。やはりスタンピードの話は本当のようですね。


 小さい体から弱そうに見えたのかリリスへ向かってその牙を向けて飛びかかってきます。


 だけど当然、リリスは私よりも強いわけで。


「雑魚のくせにうざいわね。死になさい」


 リリスの手から爪が刀のように伸び、グラスウルフを輪切りにしました。さすが万能キャラ。遠距離戦闘だけでなく近接戦闘もできる優れたユニットです。頼りになります。


「主様。早く中に入るわよ」


「あれ? ですが残りのガチャは回さなくていいんですか?」


「主様……。まさかもうガチャ中毒になったわけじゃないわよね? 単発ガチャなんて11連ガチャの劣化版でしかないんだから勿体無いじゃない。1連分ポイントを無駄にしてるようなものなのよ? 単発ガチャイベントがある時にしか普通引かないわよ」


 すごい嫌そうな顔で怒られてしまいました。


 も、もちろんガチャを引きたいから聞いたわけではありませんよ。単純に戦力的に引いたほうがいいんじゃないかなーと思ったからです。本当ですよ……。はぁ。〈ガチャ〉の呪いが憎いです。


「それよりさっさと行くわよ。スタンピードを止めてさっさと国外に逃げるんだから」


「……そうですね。ですが慎重に進みましょう。いくらリリスが強いとはいえ何があるかわかりませんし」


「わかったわ。それじゃ主様は弱いんだからわたくしの後ろで隠れてなさい」


 リリスの言い分に苦笑いをしてしまいます。


 一応私は聖女なので、人間の尺度で言うと強い部類に入るんですけど、リリスにとっては弱者になってしまうようですね。


「何してるの? いくわよ」


「わかりました」


 急かすリリスに私は急いでついて行きました。


 ◇◇◇


 私とリリスは〈銀狼の迷域〉の門を潜り抜けてダンジョンの中へと入りました。


 〈銀狼の迷域〉の中は入り口の見た目からは想像ができないような樹海になっています。他のエリアでは草原や高山地帯など多くの地形が入り混じるこのダンジョンですが、どのエリアでも漏れず四方八方からウルフ系の魔物が押し寄せてくるという、冒険者からは不人気のダンジョンです。


 今もリリスが迫ってくるウルフを一振りで倒していましたが、普通は魔物を一振りで倒せるようなものではないため、普通の冒険者ではウルフの波状攻撃に耐えられず命を落としてしまいます。そこで、国で兵士を派兵しスタンピードを抑えていたのがこのダンジョン、〈銀狼の迷域〉になります。


「それで? ここからどうするの?」


「そうですね……。魔物が多いところはどこかわかりますか?」


「わかるわよ。そこへ向かえばいいのかしら?」


「はい。お願いします」


「……わかったわ」


 リリスは索敵も一流ですからね。ソナーという索敵魔法でウルフたちの位置を探っているのでしょう。


「数が多いのはあっちね。とりあえず50匹くらいはいるけどなんとかなるわよね?」


「大丈夫です。いざとなれば神聖障壁ホーリーバリアがありますから」


神聖障壁ホーリーバリアは悪魔のわたくしでも壊せなくなるからやめてくれるかしら。対魔結界アンチデモニックにしておいてくれる?」


 そういえばリリスは悪魔でしたね。羽がないと普通の幼いメイドさん(?)に見えますからつい忘れてしまいます。


 神聖障壁ホーリーバリアは神聖属性の物理的なバリアを張るものですから、さすがのリリスも壊すことができないということでしょう。


 だけど、なぜ神聖障壁ホーリーバリアはダメで対魔結界アンチデモニックは問題ないのでしょうか? 対魔結界アンチデモニックも魔のモノを通さない結界のはずなのですが。ちょっと不思議です。


 まあ、それはともかく、すぐにウルフたちは現れました。


 魔物としては弱い方に入るウルフ系の魔物ですが50匹もいるとさすがに壮観ですね。ですが通常種のウルフくらいであればリリスの闇属性の魔法弾で一発なことはわかっています。いざとなれば私の攻撃魔法もありますし問題はありませんね。


 案の定、リリスが魔法弾を複数展開し、ウルフたちに撃ち放っていきます。それだけでウルフの顔が飛び、腕ははち切れ、はたまた胴体に風穴を開ける個体も散見されます。


 数分のうちに目の前がウルフたちの墓場になりました。


「さらにこの先に群れがいるわね。次は100匹くらい」


「100匹ですか。多いですね」


「じゃあ、他の道をいく?」


「いえ。このまま進みましょう」


「ふーん? わかったわ」


 リリスはそう返事をするとくるりと前を向いて樹海の中を進んで行きました。


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