008.聖女、スタンピードに巻き込まれる?①

 護衛を開始して2日ほど。野営を含めた道のりを進んでいると煌びやかな門、王都の城門が姿を現しました。


 アメリア王女の護衛ですが、結論から言えば、受けておいてよかったと思えるものでした。


 なぜなら、道中にグラスウルフやフィールドウルフなどの魔物がいつもより多く現れたように思われるからです。


 それにいつもなら数匹程度の小さな群れで行動している彼らなのですが、今回は10匹以上の群れで現れ、しかも寝込みも2回ほど襲われました。


 王女付きの騎士たちも強さは十二分にあるのですが、やはりエルダウルフに減らされてしまった人員では戦闘において心許なく、私の結界やリリスの魔法がなければここまで辿り着いていなかったかもしれません。


 ただ、護衛を受けたこと自体は悪いことではなかったと思うのですが、やっぱり王女様との会話は疲れましたね。そこだけが今回のマイナスポイントでしょうか。


「お、王女様が一向ですか? よくご無事で」


 貴族向けの門の出入り口までたどり着くと馬車が門番に声をかけられます。


「ああ。エルダウルフに追われたがなんとか撃退してもらってな」


「エルダウルフですか。やはり」


「やはりとは?」

 

 見ると城壁上で慌ただしく動く兵士たちの様子から何か大事があったような雰囲気を醸し出していました。騎士と話そうとする門番の顔もひときわ険しいものに変わっていきます。


「スタンピードが発生したようなのです」


「スタンピードだと。……ここ十数年は鎮静化できていたではないか」


「そうなのですが、先日〈銀狼の迷域〉から魔物が溢れているのを冒険者が発見したそうです。魔物が王都にやってくるのも時間の問題だと」


 なるほど、ダンジョンスタンピードですか。


 ダンジョンスタンピードはその名の通りダンジョンでスタンピード、魔物が一斉に暴走してダンジョンから溢れ出す現象をさしています。現在はダンジョンの管理技術が向上していて、魔物を効率的に減らすことでスタンピードを抑制することに成功していたのですが。


「〈銀狼の迷域〉だと!? 我々が通った森の近くではないか!」


 運悪くアメリア王女が遠征からの帰り際にスタンピードに遭遇してしまったようです。


 そしてそれだけでは収まらず王都へと魔物が押し寄せようとしているといった感じでしょうか。


「確かあそこはロドリゲス侯爵の管轄だったはずだな。迷宮の管理を怠ったか?」「それが、ロドリゲス侯爵様は間引きはきちんと行なっていたとおっしゃられていて」


 門番と騎士の会話がまるで遙か彼方で鳴り響くかのように小さくなっていくのを感じます。


「アメリア様」


「なんですの?」


「私たちはここで護衛を終わりにしようと思うのですがよろしいでしょうか」


「……わかりましたわ。残念ですけどここまでで護衛の任を解きますわ」


「ありがとうございます」


 ピロン!


────────────────────

 王女アメリアの救命が完了しました。〈善行ポイント〉を500ポイント付与します。

 また、善行を実行したことで初心者ミッション1が開放されました。

 ミッション1、〈ガチャ〉でLRを獲得しました。〈善行ポイント〉を100ポイント付与します。

 ミッション1、〈ガチャ〉でユニットを1体獲得しました。〈善行ポイント〉を100ポイント付与します。

 ミッション1、〈ガチャ〉でLRユニットを1体獲得しました。〈善行ポイント〉を100ポイント付与します。

 ミッション1、初めての善行を達成しました。〈善行ポイント〉を100ポイント付与します。

 ミッション1、善行により〈善行ポイント〉を累計10ポイント獲得しました。〈善行ポイント〉を100ポイント付与します。

 ミッション1、善行により〈善行ポイント〉を累計100ポイント獲得しました。〈善行ポイント〉を100ポイント付与します。

────────────────────


 脳内に着信音が鳴り響きリリスと目が合います。


「やっぱりポイントが付与されたわね」


「そうみたいです。護衛によって500ポイント増えたみたいですね」


「ミッションというのも気になるわね。全部で1100ポイントになったのは嬉しい誤算だけど」


「そうですね。ですがそれよりもスタンピードをなんとかしなければ」


「別に主様が頑張る必要はないんじゃないかしら? スタンピードなんてバカ王子とか冒険者に任せておけばいいのよ。それよりも早くこの国を出て自由に生きたいわ」


「いえ。行きます。おそらく善行ポイントがもらえると思いますし」


「ふーん。 まあ、主様がそういうならわたくしもついていってあげるわ。言うことを聞くって約束もしたしね」


 気合いを入れるようにリリスが拳を胸の横で握りしめます。


「セラフィナ様はやはりスタンピードを止めに行くんですわね。ではこれを。聖布になりますわ。聖女であるセラフィナ様には不要のものかもしれませんが、邪悪なものから守ってくださるはずですわ」


「いえ、こんなものをもらうわけには」


「くれるって言うんだからもらっておけばいいのよ」


「そうですわよ」


「……わかりました。護衛料と言うことでもらっておきます」


「護衛の代金は他に出しますわよ?」


「……」


 取りに行けるかどうかわかりませんからね。主に殿下や公爵、それとちょびっとだけリリスのせいで。


「何か今、嫌なこと考えてなかったかしら?」


「考えてないですよ。それよりもリリス。行きましよう」


「わかったわ。主様。わたくしをおんぶしなさい」


 おんぶ、ですか?


 ニヤリと笑うリリスに嫌な予感がしました。

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