007.聖女、護衛を断れない
リリスが明らかにオーバーキルな方法でエルダウルフを消滅させました。エルダウルフが立っていた場所には大きなクレーターができ、草木も残らない状況です。
後ろを見れば王女様の騎士たちが恐れ慄いた様子でリリスのことを警戒しています。ただのメイドかと思ったら特大の召喚魔法を発動したのだからそれも納得ですが。
ちなみにリリスの羽ですが今は幻覚魔法で見えないようにしてもらってます。羽があるだけで悪魔とばれてしまいますからね。悪魔でなくても目立ってしまってはいますが、悪魔だとばれるよりはマシでしょう。多分。
「エルダウルフは倒しましたよ?」
「あ、ああ、ありがたいですが、あの少女は?」
「私の付き人?になったリリスです。凄腕の魔法使いなんです」
「凄腕? いや確かに凄腕ではあるが」
いまだにリリスが行った所業を現実視できない様子の騎士たちでしたが、流石に彼らもプロ。テキパキと姫様の安否を確認していきます。
「すごいですわ! リリス様とおっしゃるの? さっきの魔法はなんなんですの?」
またも馬車から飛び出してきたアメリア王女が今度はリリスに飛びつきます。
「主様! この女を離して!」
「王女様。リリスを離してあげてください」
「アメリア、と呼んでくださいまし」
「はあ。わかりました。アメリア。リリスを離して」
「わかりましたわ」
この人もこの人で扱いが難しい、いえ、見方によっては簡単なのでしょうがめんどくさい方ですね。
リリスが私の後ろに隠れてしまっています。王女様もさっきのリリスの所業を見てこの態度なのですから肝が据わっているというかなんというか。
「ですがこれで安心ですわね」
「何がですか?」
「セラフィナ様とリリス様がいれば安全に帰れますでしょう? もちろん護衛をしてくれますわよね」
「えっ。いやですけど」
「えっ」
断られるとは思ってなかった様子の王女様。目を白黒させた後、泣きそうな顔で私に縋り付いてきます。
「嫌ですわ! セラフィナ様と一緒に帰るんですわ!」
そうは言われても私は第一王子に追われてる身。今から王都に向かうのは悪手中の悪手。飛んで火にいる夏の虫というやつです。
それに今はアメリア王女も友好的な態度?をとっていますがリリスが悪魔だと知ったら手のひらを返すに違いありません。
まあ、さっきのリリスの虐殺を見るに滅びるのは王都になる可能性の方が高そうですが、私はそれを望んでいないのでやっぱり私たちが王都に行くのはあり得ないでしょう。
さらに言えば、アメリア王女と過ごすことはリリスも反対のはず……。
「面倒を見るなら最後まで、じゃなかったかしら?」
「リリスはどっちの味方ですか!?」
王女様から隠れながらもボソリとそう呟いたリリス。思わず声をもらす私。
「そうです! 助けるなら最後まで面倒をみるべきですわ! リリス様はいいことを言いますわ! リリス様とも仲良くなりたいですわ!」
「それは断る」
「つ、つれないですわ」
「ちょっと主様とお話してくるから近づかないでくれるかしら」
「仲間はずれですわ」
リリスが王女様を遠ざけたあとこそこそと私に確認してきます。
「ウインドウは見てみたかしら?」
「ウインドウ? ポイントのことですか? みてないですけど」
「みた方がいいと思うわよ」
「わかりました。ガチャ・オープン」
見ると〈善行ポイント〉が0ポイント……。
えっ。なんでですか? 流石に今回は純粋な善い行いだったと思うんですが……。
「やっぱりね。ここから察せられる可能性は2つ。一つは善行がポイントの獲得に関係ない可能性。だけどその可能性はとても低いと思う。だからもう一つの可能性だけど、善行がまだ完了していない可能性ね」
なるほど。フォレストウルフやエルダウルフから救うまでが一つの善行じゃなくて、王女様を安全な場所まで届けることが一つの善行にカウントされているということでしょうか。だとすると確かにここで護衛を断るのはもったいないかもしれません。
「もちろんわたくしは主様に従うけど、主様の欲を考えると護衛依頼を受けた方がいいと思うわ。あのバカ王子もまだ王都の門までは追っ手を放ってはいないと思うしね。王女も王都の入り口まで送れば文句は言わないでしょ?」
欲、と言うほどにまだガチャに取り憑かれてはいないと思いますが、確かに一理あります。門の入り口までであれば危険度は低いかもしれません。それに何よりポイントが全くつかないのももったいないです。
あとは、王女様の護衛となると話し相手にされる可能性があることですが、まあ、ちょっと面倒ですが許容範囲内でしょうか。
「王女様」
「アメリア」
やっぱりかなりめんどくさいです。
「アメリア。護衛を受けることにしました」
「本当ですの!? これで道中のお話相手ができましたの。嬉しいですわ!」
「ただし、王都の門までです。そこから先は安全ですから護衛はいらないですよね」
「仕方ないですわね。では道中までお願いしますわね。セラフィナ様。リリス様」
こうして私は王女一向を王都まで護衛することになったのでした。
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