005.聖女、これからどうするか考える

「さて、どうしましょう」


 私は青く広がる草原で立ち尽くしていました。遠くを見れば街道がはしっているのもみてとれ、さらにその近くには森の木々が茂っている、どこかでみたことのあるような場所です。


「悪かったわよ」


 プイッと横を見ながらリリスは小声でそういいます。


「何がですか?」


「ついカッとなって王子を攻撃したことよ。そのせいで主様まで追われることになったでしょ」


 リリスはそのことに負い目を感じているようでした。ですが、どちらにしても私が悪魔を召喚したことでなんらかの罰はあったことでしょう。それを考えれば王子たちから逃げることになったのは誤差の範囲内です。


 頭を撫でなでしてあげるとリリスは上目遣いで見つめてきます。


「別に怒ってないですよ。ただ、次からはちゃんと言うことを聞いてくれると嬉しいです」


「わかったわ。主様の言うことを聞く」


「はい。ではこれでこの話はおしまいです。ところでリリス。ここはどこですか?」


「ここは王都近くの草原ね。今の力じゃここまでしか飛べなかったわ」


「そうなんですか?」


 どこかでみたことある場所だなと思ったら王都の近くでした。まあそれはいいとして、私に植え付けられた記憶によるとリリス・ノクティアの転移は世界のどこへでも一瞬で行ける能力だったはずです。


 思えば、リリスが殿下に攻撃を仕掛けた時にも魔力弾の威力が私の結界で防げる程度には思ったほどの威力ではありませんでしたし。まあ、手加減はしていたのでしょうけど。


「弱体化されているんですか?」


「残念ながらそうみたい。本来ならどこへだって一瞬で行けたはずだもの。それにクールタイムも1日必要みたいだわ」


 クールタイムもですか。まあ、それがなければ何回か経由して結局どこへでも行けそうですし、しょうがないのかもしれません。人生そこまで甘くないということでしょう。


「それより主様。これからどうするの?」


「どうしましょうかね?」


 冒頭の疑問に戻ってきました。


 ……ひとまずはこのエルダリオン王国から出たほうがいいかもしれません。おそらく私とリリスは指名手配される事でしょう。他の都市に移ったとしても聖女である私の顔はそれなりに知られてしまっているので、すぐに潜伏していることがバレてしまうと思います。他国へ出ることができれば多少は追っ手の心配も減るでしょう。


 心残りがあるとすれば私が各地に張っている対魔結界が消えてしまわないかですが、この国にはもう一人聖女様がいるのでなんとかしてくれるでしょう。多分。


 あとは、


「ポイントを貯めたいですね」


「ポイント? ああ。ガチャで消費する〈善行ポイント〉のことね」


 そう。その〈善行ポイント〉です。ガチャを引くためにはこのポイントが必要ですが、貯め方がわかっていません。おそらく善行、というくらいですから何か善い行いをすれば貯められると思うのですが。


「ガチャ、オープン」


 ガチャのスクリーンを呼び出します。先ほどは皆にも見えるような大きな画面でしたが、今は片手で覆えるほどの大きさになっています。


「やはりポイントは貯まっていないみたいですね」


 〈善行ポイント〉の欄はいまだ0ポイントでガチャるのボタンはグレーアウトしています。試しにボタンを「ガチャ引かせろ」と連打してみますが、やはりガチャを回すことはできません。


「王子を結界で守ってたけどポイントは貯まらないのね」


「そうみたいです」


 私もそれを確認するために画面を開いたのですが、善行とは認められないみたいですね。防いだのがリリスの攻撃だったためにマッチポンプと判断されたのか、はたまた善行によってポイントが貯まるのが間違いなのかまだちょっと判断できないです。


 先ほどからガチャの衝動が押し寄せてきてうずうずしてきています。これがいつの間にか植え付けられた衝動、ガチャのスキルを得た反動だとしたら、なかなかいやらしいデメリットです。この衝動は抑えた方がいいのかもしれません。いえですがやっぱり。


「一度試してみたいですね」


「誰かを助けてみるってこと?」


「その通りです」


「だけど、そんなに都合よく困ってる人なんてこんなところに……」


「キャーっ!!」


 叫び声が聞こえてきました。みると先ほど見えた街道と森の境界あたりに馬車らしきものとそれを襲っている獣型の魔物が確認できます。どうみても馬車の護衛側が押されているようで、今にも馬車が壊されそうです。


「これはチャンスですね!!」


「悪魔のわたくしがいうのもなんだけど、襲われてるのをみて嬉しそうにするのは不謹慎じゃないかしら」


 しまった! 顔がにやけてしまいました。


 いえ。決してガチャのポイントが欲しいからニヤけていたのではなく、純粋に助けたいから……ちょっと無理がありますね……。


「と、とにかく行きますよ!」


「はーい」


 これもガチャスキルのデメリットのせい、と心に念じながら馬車の方へ駆けていくのでした。


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