004.聖女、逃走する
私は悪魔の召喚に成功しました。
リリス・ノクティアの見た目は、小さな幼女の姿で、少しつり目がちな大きなおめめに柔らかそうな白いほっぺた。ふわふわとしたメイド服の裾が揺れ、白いフリルと黒いリボンで装飾されたクラシカルな装いが、まるで人形のような美しさを引き立てています。
カードの絵を見た時にも思いましたが実物を見るとさらにかわいらしいですね。悪魔であることを忘れて思わず抱きしめたくなります。
「ふふ、どう? わたくしのメイド服姿、思わず見惚れてしまったかしら?」
「大人ぶってる姿も愛らしいですね」
「大人ぶってるわけじゃないわ! 大人なのよ! ……まあいいわ。今の言動も、私を召喚するのを躊躇ったことにも目をつぶってあげる。感謝しなさい!」
「ありがとうございます?」
「それと主様には私のことをリリスと呼ぶことを許すわ。ありがたく思うことね」
腰に手を当てて胸を張る姿が子供っぽくてほっこりしてしまいます。
「はい。よろしくお願いしますね。リリスちゃん」
「ちゃんは余計よ!!」
また可愛らしくプンスコ怒っています。ですが頭を撫でてあげると気持ちよさそうな笑顔に変わっていきます。チョロい、いえ違いました。いつまでも撫でていたい、この可愛さです。
私とリリスがスキンシップをとっていると業を煮やした様子のアレクシス殿下がこちらを睨んでいました。あーそうでした。今は大聖堂にいるのでした。忘れていました。
「セラフィナよ。何をやっている? いやそれよりもこれがガチャの結果か? 子供ではないか。聖女のスキルというからどんなものかと思ったが……」
「あんた誰? いえ。誰でもいいわ。わたくしと主様のひとときを邪魔するなんていい度胸ね。主様。あれ、殺してもいい?」
「やめておきましょう。あれでもこの国の王子なので殺してしまうのはまずいです」
「あれでもとは、随分な言い草だな。それにそこの子供に余が殺せると申すか?」
「やっぱりムカつくわ。プチッと消していいんじゃないかしら」
「ダメですよ」
「むー。主様がいうのなら仕方ないわね」
「おい。余を無視するな」
まあ、殿下は無視するとしてロドリゲス様もリリスのことが気になっている様子でこちらに近づいてきます。
「この子供が召喚したものなのかね?」
「そうです。可愛いですよね?」
「あ、ああ、可愛らしくはあるが。それよりもその黒い羽が気になるのだが」
うん。そうですよね。黒い羽は目立ちますよね。悪魔の象徴みたいなものですし。可愛らしさで誤魔化そうとしたけどちょっと無理があったかもしれません。
「えーと。そうです! リリスはコウモリの獣人なんです」
「コウモリの、獣人? はて、そんな種族はいただろうか」
「嫌ですね。目の前にいるじゃないですか」
咄嗟に出た言葉ですが完璧ではないでしょうか? リリスの羽は悪魔の羽ですがコウモリに見えなくもありません。コウモリの獣人がいるかどうかは知りませんが、こういうのは言ったもん勝ちみたいなところがありますからね。
「しかし、この黒い羽は……」
「おとなしく聞いていれば、違うわよ! わたくしは悪魔なのよ? 獣人なんていう、低俗な種族に例えられるのは我慢できないわ!」
あーせっかく誤魔化せそうだったんですが。リリスは自分の種族をひけらかしたい派の悪魔だったみたいです。やっぱり安易に召喚するべきではなかったかもですね……。
「悪魔だと?」
「間違いない。あの黒い翼を見れば一目瞭然だ」
「しかし、あんな子供だぞ。そんな悪魔がいるのか」
「どんな姿だろうと悪魔は悪魔だ」
「でも聖女様のいうことは聞くみたいよ。いうことを聞く悪魔がいるのかしら」
意外にも周りは両極端な反応を示しているようでした。
「悪魔か。面白い。それならば余に力を示してみよ!」
「そう。それなら死なないようになさい」
あ、まずい。そう思った時には咄嗟に殿下に向かって結界魔法を展開します。
直後、リリスの手から漆黒の魔力弾が殿下に向かって放たれました。間一髪、私の結界魔法に阻まれましたが魔力が反発しあって小さくない余波を起こします。その影響で殿下が若干後ろに後退させられます。
「ほう。なかなかやるな」
「うるさい小蝿ね。ぷち殺したくなるわ。それに主様も。どうしてわたくしの邪魔をしたのかしら?」
「リリス。さっきも言ったはずです。殿下はあれでもこの国の王子なので殺してしまうのはまずいです」
「殺す気はないわよ。ちょっと脅してあげただけ」
そもそも攻撃してしまったこと自体がまずいですけど、処刑ものですけど、国家反逆罪ですけど。だけどギリギリで結界で守ったからまだ弁明の余地はあるはずです。そもそも殿下が挑発したからこのようなことになっているんですし、自業自得な面もありますからね。決して私のせいではありません。と思いたいです。
「だが、悪魔と言うには少し強さが足りないようだな」
「なんですって!?」
「リリス。ダメですよ! 殿下も挑発しないでください!」
また余計な挑発に乗ろうとするリリスを後ろから抱きしめて宥めながら、殿下に釘を刺します。
「まあいいわ。今日のところはここまでにしておいてあげる」
「ふむ。やはり大したことはなかったか。皆のもの! 恐れる必要はない! この悪魔を僭称する少女は国家反逆の罪で捕える! セラフィナも同罪だ。大人しく縄につくなら手荒いことはしないですむぞ」
やっぱりそうなりますよね。流石に王族に手を出したのは不味かったです。捕まってしまったら私はともかくリリスは死刑が求刑されるかもしれません。そうなった時にリリスが大人しくしているかというと、多分そうはならないでしょう。おそらくこの国を壊滅させてしまうに違いありません。
「リリス。逃げますよ!」
「……わかったわ。わたくしの手を握って?」
私はためらわず彼女の手を握ります。リリスには転移の能力を持っているのでそれで逃げるつもりなんでしょう。
「ではさようなら」
リリスがそういった次の瞬間。私とリリスは草原の広がる場所に立っていました。
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