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2024年9月7日 20:51
純粋に、楽しめる作品でした。 破綻もなく、パズルのように要素が集まって結末までにきれいに答えが示される。よくできたミステリだと思います。 文章も過不足がない。今回のような独白体の文章は、私も時々書くのですが。この作品については、章ごとに違う人物の独白で構成されている形なので非常に難易度が高いと思います。 ほとんどの文をセリフで構成しないといけないので、情景描写とかをどこでどうやって挟むか。そういったことにも気を遣わないといけない。さらにこの場合、複数人の独白なので、セリフだけで複数の人物を表現し、書き分けないといけない。 文章もかなりこなれてきて、その辺りもかなり上手く書くことができていると思います。 一応気になった点を。 パズルのようにきれいに答えが示されると書きましたが、個人的な感覚として、一つだけ引っかかりの悪いピースがあるように感じました。 それは「ピンヒールキラー」のエピソード。 これは正直、ミステリとしての引っかかりではなく一読者としての引っかかりです。なので「その辺をもやもやさせるのも含めて書きたかったんじゃい!」というのであれば気にしないで下さい。「ピンヒールキラーになる必要性というか、説得力が弱い」。 再会直前になって自分を拒絶した(と彼が思い込んでる)お母さんを車で追いかけ、事故を起こして無理やり連れていく……この辺りはよく分かるんです。「(お母さんと別れる前の)六歳みたいな精神状態に戻っていた」と説明されているし、かつての幼少期に母と別れたときの衝撃も非常に良く書かれている。すごく理解できます。 その後、母が(父と同じように)事故死した、でも死を認めたくないので冷凍保存した、これも分かります。 が、その後、壊れた母の靴と同じものを求めるように、赤いピンヒールの女性を殺し始めた……これがちょっと伝わってこない。 正気ではなくなっていた、母の壊れた赤い靴が欲しかったという説明はありますが、その一言では弱いと思います。 正気ではなくなった上で、どのような(常軌を逸したものであっても)思考過程をたどってそのような行為に至ったか? というのが必要ではないかと思います。(一人だけ衝動的に殺した、ならまだしも、複数人を殺してるわけですし) しかしまあ赤い靴が欲しかったからって、もし「ピンヒール連続窃盗犯」だったら格好がつかない(笑)。 それはそうと。たとえばですが、このような事例を聞きかじっています。「同性愛者にレイプされた被害者が、本人は同性愛者ではないのに、その後自ら、同性との性行為をするようになった」 本人は異性愛者なのに、自ら同性と性向する……はたから見ればおかしなことですが(別に同性愛がおかしいというのではありません)、それはこのような思考過程を経てのことだといわれています。「同性にレイプされたという非常なショック」→「『いや、そんなことは大したことじゃないんだ』と自分を落ち着かせたい被害者」→「『同性との性交なんて大したことないんだ、何なら本当は自分も同性愛者で、自らの意思で同性と性交だって出来るんだ、大したことじゃないんだ』と、自分を落ち着かせるため同性と性交してみる被害者」 たとえばそのように、「母さんが死んでしまった、僕のせいで」→「いやいや大したことじゃないんだ、僕は悪くないんだ、赤いピンヒールの女性ってのはちょっとしたことで死ぬもんなんだ、ほらこんな風に(別の被害者を殺してみて)」 あるいは母の死を認めたくないなら、「母さんが死んでしまった……のではない、きっと気を失っているだけなんだ」→「目覚めさせる方法があるはずだ、だから同じような条件で実験してみよう、同じ靴を履いた女性を同じような形で気絶させ(殺し)て、どうすれば目覚めるか試してみよう」……とか。まあそれは一例ですが。 ところで、もしピンヒールキラーの部分をすっぱり消してしまったら(ミステリとしての謎解きに必要な部分は何か代替案を考えると仮定して)、この話は『運命に踊らされた悲劇』としてキレイに終わった、という印象を読者に与えると思います。 逆に現行の状態だと『かわいそうではあるけど、それはそれとしてこいつ連続殺人犯なんだよな』という、モヤッとした読後感を読者に与えると思います。 それはどちらが正しいというものではなく、作者の判断によるものだと思います。 私だったらピンヒールキラーの部分は消して、キレイキレイな悲劇にまとめると思います。 源さんがどう選択されるかは無論ご自身の判断。自ら選択なさった方、そちらが正解です。 ですが、一読者としてはピンヒールキラー周りに補強があればスッキリするな……と思います。 それと、ダンスシーンが未完成とのことでしたが。現行のままでも、物語としては不足なくまとめられていると思います。 もちろん作者としてはもっと表現したいものがあるのだと思いますが。とりあえずは、(ダンスシーン未完成)という文は取っ払ってしまっても問題ないと思います。 なんだかんだ言いましたが、やはり良い作品です。 丁寧な過去描写(さりげない描写が巧みに謎解きのピースになっているのがまた素晴らしい)もいいし、「タンゴのステップは左から、反対からだと人生を踏み間違うわよ」といった印象的なフレーズが何度も使われ、登場人物を取り巻く運命を象徴しているのも素晴らしい。 もしほんのわずか、人生の足跡(ステップ)が違ったら。アルナスが想像したとおり、本当に幸せな家庭になっていたんでしょうね……。 あまり関係ありませんけど最初の話で、暴走した義足を止めるときに父親が消化器を振り回そうとして「パパのバカ! 火事じゃないのよ!」って言われるシーンが好きです(笑)。話者は父親が混乱してると思ってるけど、もっと混乱してるのは話者の方だったっていうのが。 それはさておき。 本作は間違いなく、源さんの代表作と胸を張って言っていただきたい作品です。 そして当然、次の代表作、そのまた次の代表作を期待しています。
作者からの返信
昨日、夜9時に150km先の四番目のお葬式から戻ってきました。寝不足。 まずは丁寧な批評本当にありがとう。こうゆうのを求めてカクヨムに来たのに、誰も書いてくれないんだもの。私は自分が次にもっといいものを書くためのヒントがいつも欲しいのです! この作品は2023年1月末の時点での私の限界ギリギリの実力で書いたもの。伏線はってミステリーとして辻褄合わせするので精一杯。(足りなかったか!)一人称の会話文(五人分)これもギリギリ精一杯。(もっとキャラ立ちさせたい) 何よりアルナスとカーレンの揺れる恋心(そして狂気)の表現が絶対的に足りない! その表現こそが2人の鬼気迫るダンスシーン。タンゴというのはそういうダンスなのです。 それを調べた上で、もう一度全面的に書き直すつもりでいたのに「魔法の国のシャーロック・ホームズ」に横入りされてしまい、未完に終わりました。 実はこの作品、「ミステリーズ!」に投稿するページ数の関係で、大幅に削っているんです。 アルナスは成人する直前に、実のお爺さんを未必の故意による猟銃の事故に見せかけて殺しています。(この時初めて頭の中が真っ赤になる) 数学を捨てて、義足の研究をしたいとアルナスがいったので、「法定相続人から外す」とお祖父さんが言いだしたのです。 祖父さんは元数学の教授で(あら、モリアーティみたい)アルナスが数学をやっているうちは、機嫌が良かった。アルナスはしかたなく数学をやっていたのです。 相続権を失い、お金がなくなったら大学も研究も続けられない。それで殺した。偶然成功してしまって、それで味をしめちゃったアルナス。 死に対する、虚無的異常性が見え隠れする人格。(おじいさんの悪い教育のせい)彼は初めからあっさり殺す人間だったんです。 むしろ、カーレンに会って良心が芽生えちゃったという感じ。 彼が女の靴を欲しがったのは、殺した女の靴じゃないと、ママの幻が出てきて踊ってくれないから。ママと踊りたかったので、殺しました。頭の中の赤い色に操られていたのです。 綺麗に悲しく書けば書けますが(そっちの方がウケはいいだろうなぁ。分かってるんですよ)でもそれじゃあ、メインテーマの“狂気の恋とその回避の為の悲劇”が書けない。また「書きたいものが書けなく」なっちゃう。いつもせめぎ合いです。「おじいさんの死があまりにも都合が良すぎないか?」と心の片隅に沸いた疑惑に引っかかりながらも、彼の研究者としての才能に惚れ込んでいるハリー。「まさかね……?」 この2人の友情関係の微妙な心のひだを書けなかったのが、痛恨の「ハリーの証言」ハリーをキャラ立ちさせたい。でもこれ以上字数を使えない。ぐぬうううー。 結局、どうしてもこれ以上削れなくて頭抱えてた時に、いつものように長編の合間の気晴らしで書こうとしたSSが、「魔法の国のシャーロック・ホームズ」だった。 10,000字のはずが、気づくと32,000字。ホームズ沼にはまってしまい、締め切りは過ぎて取り返しが効かない状態になり、今に至る。(で、シャーロックさんを恨んでしまった。私が悪いよね、ごめん。でも私にしたら人生最悪の横入りだったのです)「もし君がイエスと言ったら」を書くのを止めた直後に作った「ヤングモリアーティ」は私の心の経験値から、闇と狂気と哀しさを引き摺り出したキャラクターでした。そして五代目との友情も、下地は「もし君」に合ったんです。 漫画時代ギャグを描いてもあんまりウケなくて、シリアスな話や絵ばかり要求されるので、常に無理をしてました。 ギャグの方が私の本質なので、(原点は藤子不二雄・F)シリアスなのはかなり不自然に自分の精神を穿らねばならず(体感として、指突っ込んで無理に“吐く”感じ)やれるけど疲れるんですよね。楽しくない。でもそっちの方が受けるんです。 キツイけど、そういうのを割と自在にやれるので私の悲劇は刺さりが良かった。(例の4ページもそう。あまりそういう事する人いないのかな?) 私は「お笑い」が大好きなのに、客観的に見て「悲劇」の方が上手く書けます。 コナンドイルが歴史小説書きたいのに、ホームズの方が受けるみたいなもので、書きたいものが向いてるとは限らないのです。(でも、消化器で笑ってもらえたわ) 悔しいけれど現実は認めています。そして書くからには手は抜かない。良いものを書くため、常に全力で努力をしています。(歳が歳なんで、体力的に辛いけど)「扶桑樹の国」は、ホームズさん風に笑いを入れています。本当はシリアスな話なのに、仲間とワイワイやる日常が楽しい。長編は楽しくないと書けません。 資料的難しさはまだ残っていて、じっくり構えないと辻褄合わせに失敗するかもしれません。 今、気晴らしにSSを書いてます。新シリーズ「季節の便り〜12ケ月」軽めで。「神差し指/7月」9月2日掲載。「エイプリル・フール生まれの娘/4月」は、明日には完成予定。(葬式の横入りで遅れました……) 次の「海月の骨・下弦の月/8月〜10月」「ボージョレーヌーボー・11月」のアイデアも練っています。
純粋に、楽しめる作品でした。
破綻もなく、パズルのように要素が集まって結末までにきれいに答えが示される。よくできたミステリだと思います。
文章も過不足がない。今回のような独白体の文章は、私も時々書くのですが。この作品については、章ごとに違う人物の独白で構成されている形なので非常に難易度が高いと思います。
ほとんどの文をセリフで構成しないといけないので、情景描写とかをどこでどうやって挟むか。そういったことにも気を遣わないといけない。さらにこの場合、複数人の独白なので、セリフだけで複数の人物を表現し、書き分けないといけない。
文章もかなりこなれてきて、その辺りもかなり上手く書くことができていると思います。
一応気になった点を。
パズルのようにきれいに答えが示されると書きましたが、個人的な感覚として、一つだけ引っかかりの悪いピースがあるように感じました。
それは「ピンヒールキラー」のエピソード。
これは正直、ミステリとしての引っかかりではなく一読者としての引っかかりです。なので「その辺をもやもやさせるのも含めて書きたかったんじゃい!」というのであれば気にしないで下さい。
「ピンヒールキラーになる必要性というか、説得力が弱い」。
再会直前になって自分を拒絶した(と彼が思い込んでる)お母さんを車で追いかけ、事故を起こして無理やり連れていく……この辺りはよく分かるんです。「(お母さんと別れる前の)六歳みたいな精神状態に戻っていた」と説明されているし、かつての幼少期に母と別れたときの衝撃も非常に良く書かれている。すごく理解できます。
その後、母が(父と同じように)事故死した、でも死を認めたくないので冷凍保存した、これも分かります。
が、その後、壊れた母の靴と同じものを求めるように、赤いピンヒールの女性を殺し始めた……これがちょっと伝わってこない。
正気ではなくなっていた、母の壊れた赤い靴が欲しかったという説明はありますが、その一言では弱いと思います。
正気ではなくなった上で、どのような(常軌を逸したものであっても)思考過程をたどってそのような行為に至ったか? というのが必要ではないかと思います。(一人だけ衝動的に殺した、ならまだしも、複数人を殺してるわけですし)
しかしまあ赤い靴が欲しかったからって、もし「ピンヒール連続窃盗犯」だったら格好がつかない(笑)。
それはそうと。たとえばですが、このような事例を聞きかじっています。
「同性愛者にレイプされた被害者が、本人は同性愛者ではないのに、その後自ら、同性との性行為をするようになった」
本人は異性愛者なのに、自ら同性と性向する……はたから見ればおかしなことですが(別に同性愛がおかしいというのではありません)、それはこのような思考過程を経てのことだといわれています。
「同性にレイプされたという非常なショック」→「『いや、そんなことは大したことじゃないんだ』と自分を落ち着かせたい被害者」→「『同性との性交なんて大したことないんだ、何なら本当は自分も同性愛者で、自らの意思で同性と性交だって出来るんだ、大したことじゃないんだ』と、自分を落ち着かせるため同性と性交してみる被害者」
たとえばそのように、
「母さんが死んでしまった、僕のせいで」→「いやいや大したことじゃないんだ、僕は悪くないんだ、赤いピンヒールの女性ってのはちょっとしたことで死ぬもんなんだ、ほらこんな風に(別の被害者を殺してみて)」
あるいは母の死を認めたくないなら、
「母さんが死んでしまった……のではない、きっと気を失っているだけなんだ」→「目覚めさせる方法があるはずだ、だから同じような条件で実験してみよう、同じ靴を履いた女性を同じような形で気絶させ(殺し)て、どうすれば目覚めるか試してみよう」
……とか。まあそれは一例ですが。
ところで、もしピンヒールキラーの部分をすっぱり消してしまったら(ミステリとしての謎解きに必要な部分は何か代替案を考えると仮定して)、この話は『運命に踊らされた悲劇』としてキレイに終わった、という印象を読者に与えると思います。
逆に現行の状態だと『かわいそうではあるけど、それはそれとしてこいつ連続殺人犯なんだよな』という、モヤッとした読後感を読者に与えると思います。
それはどちらが正しいというものではなく、作者の判断によるものだと思います。
私だったらピンヒールキラーの部分は消して、キレイキレイな悲劇にまとめると思います。
源さんがどう選択されるかは無論ご自身の判断。自ら選択なさった方、そちらが正解です。
ですが、一読者としてはピンヒールキラー周りに補強があればスッキリするな……と思います。
それと、ダンスシーンが未完成とのことでしたが。現行のままでも、物語としては不足なくまとめられていると思います。
もちろん作者としてはもっと表現したいものがあるのだと思いますが。とりあえずは、(ダンスシーン未完成)という文は取っ払ってしまっても問題ないと思います。
なんだかんだ言いましたが、やはり良い作品です。
丁寧な過去描写(さりげない描写が巧みに謎解きのピースになっているのがまた素晴らしい)もいいし、「タンゴのステップは左から、反対からだと人生を踏み間違うわよ」といった印象的なフレーズが何度も使われ、登場人物を取り巻く運命を象徴しているのも素晴らしい。
もしほんのわずか、人生の足跡(ステップ)が違ったら。アルナスが想像したとおり、本当に幸せな家庭になっていたんでしょうね……。
あまり関係ありませんけど最初の話で、暴走した義足を止めるときに父親が消化器を振り回そうとして「パパのバカ! 火事じゃないのよ!」って言われるシーンが好きです(笑)。話者は父親が混乱してると思ってるけど、もっと混乱してるのは話者の方だったっていうのが。
それはさておき。
本作は間違いなく、源さんの代表作と胸を張って言っていただきたい作品です。
そして当然、次の代表作、そのまた次の代表作を期待しています。
作者からの返信
昨日、夜9時に150km先の四番目のお葬式から戻ってきました。寝不足。
まずは丁寧な批評本当にありがとう。こうゆうのを求めてカクヨムに来たのに、誰も書いてくれないんだもの。
私は自分が次にもっといいものを書くためのヒントがいつも欲しいのです!
この作品は2023年1月末の時点での私の限界ギリギリの実力で書いたもの。
伏線はってミステリーとして辻褄合わせするので精一杯。(足りなかったか!)
一人称の会話文(五人分)これもギリギリ精一杯。(もっとキャラ立ちさせたい)
何よりアルナスとカーレンの揺れる恋心(そして狂気)の表現が絶対的に足りない!
その表現こそが2人の鬼気迫るダンスシーン。タンゴというのはそういうダンスなのです。
それを調べた上で、もう一度全面的に書き直すつもりでいたのに「魔法の国のシャーロック・ホームズ」に横入りされてしまい、未完に終わりました。
実はこの作品、「ミステリーズ!」に投稿するページ数の関係で、大幅に削っているんです。
アルナスは成人する直前に、実のお爺さんを未必の故意による猟銃の事故に見せかけて殺しています。(この時初めて頭の中が真っ赤になる)
数学を捨てて、義足の研究をしたいとアルナスがいったので、「法定相続人から外す」とお祖父さんが言いだしたのです。
祖父さんは元数学の教授で(あら、モリアーティみたい)アルナスが数学をやっているうちは、機嫌が良かった。
アルナスはしかたなく数学をやっていたのです。
相続権を失い、お金がなくなったら大学も研究も続けられない。それで殺した。偶然成功してしまって、それで味をしめちゃったアルナス。
死に対する、虚無的異常性が見え隠れする人格。(おじいさんの悪い教育のせい)彼は初めからあっさり殺す人間だったんです。
むしろ、カーレンに会って良心が芽生えちゃったという感じ。
彼が女の靴を欲しがったのは、殺した女の靴じゃないと、ママの幻が出てきて踊ってくれないから。ママと踊りたかったので、殺しました。
頭の中の赤い色に操られていたのです。
綺麗に悲しく書けば書けますが(そっちの方がウケはいいだろうなぁ。分かってるんですよ)でもそれじゃあ、メインテーマの“狂気の恋とその回避の為の悲劇”が書けない。また「書きたいものが書けなく」なっちゃう。
いつもせめぎ合いです。
「おじいさんの死があまりにも都合が良すぎないか?」と心の片隅に沸いた疑惑に引っかかりながらも、彼の研究者としての才能に惚れ込んでいるハリー。「まさかね……?」
この2人の友情関係の微妙な心のひだを書けなかったのが、痛恨の「ハリーの証言」ハリーをキャラ立ちさせたい。でもこれ以上字数を使えない。
ぐぬうううー。
結局、どうしてもこれ以上削れなくて頭抱えてた時に、いつものように長編の合間の気晴らしで書こうとしたSSが、「魔法の国のシャーロック・ホームズ」だった。
10,000字のはずが、気づくと32,000字。ホームズ沼にはまってしまい、締め切りは過ぎて取り返しが効かない状態になり、今に至る。
(で、シャーロックさんを恨んでしまった。私が悪いよね、ごめん。でも私にしたら人生最悪の横入りだったのです)
「もし君がイエスと言ったら」を書くのを止めた直後に作った「ヤングモリアーティ」は私の心の経験値から、闇と狂気と哀しさを引き摺り出したキャラクターでした。そして五代目との友情も、下地は「もし君」に合ったんです。
漫画時代ギャグを描いてもあんまりウケなくて、シリアスな話や絵ばかり要求されるので、常に無理をしてました。
ギャグの方が私の本質なので、(原点は藤子不二雄・F)シリアスなのはかなり不自然に自分の精神を穿らねばならず(体感として、指突っ込んで無理に“吐く”感じ)やれるけど疲れるんですよね。楽しくない。でもそっちの方が受けるんです。
キツイけど、そういうのを割と自在にやれるので私の悲劇は刺さりが良かった。(例の4ページもそう。あまりそういう事する人いないのかな?)
私は「お笑い」が大好きなのに、客観的に見て「悲劇」の方が上手く書けます。
コナンドイルが歴史小説書きたいのに、ホームズの方が受けるみたいなもので、書きたいものが向いてるとは限らないのです。(でも、消化器で笑ってもらえたわ)
悔しいけれど現実は認めています。そして書くからには手は抜かない。良いものを書くため、常に全力で努力をしています。
(歳が歳なんで、体力的に辛いけど)
「扶桑樹の国」は、ホームズさん風に笑いを入れています。本当はシリアスな話なのに、仲間とワイワイやる日常が楽しい。長編は楽しくないと書けません。
資料的難しさはまだ残っていて、じっくり構えないと辻褄合わせに失敗するかもしれません。
今、気晴らしにSSを書いてます。新シリーズ「季節の便り〜12ケ月」軽めで。
「神差し指/7月」9月2日掲載。「エイプリル・フール生まれの娘/4月」は、明日には完成予定。(葬式の横入りで遅れました……)
次の「海月の骨・下弦の月/8月〜10月」「ボージョレーヌーボー・11月」のアイデアも練っています。